68. 検証

「よく分からないのだが、最近の若者の間では首輪より枷の方がデザイン的に受け入れられているのだろうか?」

「いや、これは何と言うか、不可抗力というか……」


 どうしよう、言い訳のしようがない。……と言うか、ペット用首輪は嫌だと言った翌日に金属製の首枷着けて来る中2女子ってなんなんだろう。


「今回はわっちも庇いきれぬな。先日此奴に『それをこの幼い女児に着けろと言うのか』と怒った手前、何とも言い難い心情じゃぞ」

「その節は大変申し訳ございませんでした!」


 私はロコさんに平謝りしながら、次に装備を新調する時はしっかり自分の意志を伝えようと決めた。

 そんな一幕もありながら、私達は第2回バグモンスター対策会議を開いた。ちなみに今回の場所は以前来た運営のプライベートエリアだ。


「さて、では本題に入ろう。まずバグモンスター素材を使った武器生成についてだが、こちらは成功した。あとは、これでバグモンスターにダメージを与えられるかの検証になる」


 そう言って見せてくれたのは小さなナイフだった。恐らく近接戦闘用というより投擲用ナイフだろう。


「先日ナツ君から提供してもらったバグモンスターのドロップ素材は、名称やテクスチャがバグっていたが、牙の素材として利用可能だった。残念ながら牙1本ではこのナイフが限度だったが、完成した武器その物にバグが起きない事を確認出来ただけでも大きな進展だ」

「それで今日は何をするのじゃ? わっちの家ではなく運営のプライベートエリアに呼んだという事は、そのナイフの検証までやるのかえ?」

「ああ、出来ればすぐにこのナイフが有効かどうかを確かめたい。だがその前に、ロコ君とナツ君にも手伝ってもらいたい検証がある」


 今日はこのプライベートエリアで、運営が捕まえている中で1番小型のバグモンスターを使っての検証をするそうだ。

 検証内容は以下の3つ。


 1.ロコさんと私でバグモンスターのテイムが可能か

 2.ナイフでバグモンスターにダメージを与える事が可能か

 3.レキのプロテクションでパルもダメージを与える事が可能か


 ちなみに、検証はバグモンスター用隔離エリアで行うらしい。

 ファイさんが何もない壁をコンコンとノックすると、突然壁から扉が浮かびあがる。何だかこういう演出って魔法の世界っぽくて自然とテンションが上がっちゃうよね!


 ……


 …………


 ………………


「ちょっと待ってください! 何でこんな事になってるんですか!?」


 先程まで扉の演出にテンションを上げていた私は今……イノシシ型のバグモンスターに追いかけられていた。


「テイムするにしろ攻撃するにしろ、バグモンスターの凍結処理を解除しなくては何も出来ないんだ。だが安心して欲しい。君達のログはしっかり取ってあるので、この隔離エリアであればデータが破損してもすぐ治すことが出来る」

「そういう問題じゃないです!!」


 私が走って逃げていると、近くに居たギンジさんがインベントリから長い棒を取り出し、何の気負いもなしにスッとイノシシの足元を棒で払った。すると、足払いされたイノシシはクルンと前転してそのまま慣性にしたがってゴロゴロと転がっていく。


「ナツ、こいつをバグモンスターなんだと身構えるな。こいつの素体は低レベルの……なんだったか『マッドボアじゃ』そうマッドボアだ。普通に戦えば遅れは取らねぇはずだ」


 バグモンスターだと思って身構えていたが、確かにそうだ。以前ファイさんはデータ上は素体となったモンスターと変わらないと言っていた。つまり、このマッドボアというモンスターはダメージ無効とデータ破壊の力は持っているが、それ以外は低レベルモンスターなのだ。

 私がギンジさんの言葉に納得している間に、ロコさんは横たわっているマッドボアにローズバインドという茨のツタで絡めとる魔法を掛けていた。


「データ破壊はあくまで攻撃に乗るようじゃの。体に巻き付いたツタは破壊出来ないようじゃ。……では早速わっちから。テイム」


 ロコさんはマッドボアに近づくとテイムの技能を発動する。それに伴いマッドボアの体が一瞬光るが何も起きなかった。


「わっちには無理なようじゃの。調教スキルをカンストさせたうえ、テイマー専用装備でテイム成功率も上がっておる。マッドボアレベルであれば本来テイムに失敗するはずもないのじゃが……」

「えっと、じゃあ次は私がやってみますね。……テイム」


 私も茨に絡まって身動きが取れないでいるマッドボアに近づきテイムをやってみたが、結果は先ほどのロコさんと同じでテイムに失敗してしまった。


「ふむ、ナツ君でもテイムに失敗するという事は、やはりレキ君自身がバグモンスターの中でも特殊個体という可能性が高いな」

「おし、じゃあ次は俺の番だな」


 そう言うと、ギンジさんは手に持ったバグモンスターのナイフでマッドボアの脇腹を刺した。すると先ほどギンジさんの足払いでも起きなかったダメージエフェクトが発生する。


「お、いけるぞ! これなら次の戦いは前回よりましな戦いが出来そうだ」

「この結果はかなり大きいな。だが、現状使える武器はその小型ナイフ1本のみだ。武器素材を手に入れる為にもバグモンスターを狩る必要がある」

「運営側が捕えてる奴で、いい素材になりそうなのはいないのか?」

「居るには居るが、そのバグモンスターの素体はハイエンスドラゴンだ。恐らく今のナツ君では倒せないだろう」


 ハイエンスドラゴンとは辺境渓谷というエリアに出現するエリアボスモンスターで、上級プレイヤーが最低でも5人は必要なレベルの強さらしい。……ちなみにギンジさんとロコさんはソロ討伐経験済みとのこと。


 その後はレキにプロテクションを掛けてもらい、先ほどのギンジさんの様に手持ちのナイフで脇腹を刺してダメージエフェクトが出ることを確認。次はパルにプロテクションを掛けてマッドボアに攻撃してもらった。……しかし。


「あれ、ダメージが通らない? ダメージが通った私と条件は同じはずなのに……」


 私がその結果に疑問を抱いていると、隣りに居たファイさんは難しい顔をしてマッドボアを眺めていた。


「……これは、少し面倒なことになったな」

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