67. ルビィさんの力作、再び

「……あ~、ファイよ。一応聞くが、それは何じゃ?」

「これは生体キャラクター用のログ解析デバイスだ。これを首に着けると装着者の情報がリアルタイムで運営に送られる」

「あのぅ……その首輪、私も着けるんですか?」

「ん? あぁ、そういう事か。安心して欲しい。報酬条件にこそ記載は無かったが、レキ君だけでなくナツ君のキャラデータにも絶対に損害は与えない。これはあくまで、装着者の情報を解析する為だけのアイテムだ」

「そこでは無いわ! 何故、ナツのログ解析アイテムがレキと同じペット用の首輪なんじゃ!! お主、それをこの幼い女児に着けろと言うておるのか!?」


 どうやらファイさんは本気だったらしい。人の心の機微に疎いにも程があるのではないだろうか?


「よく分からないのだが、ナツ君は既に鎖付きの手枷と足枷を着けているし、問題ないのではないか?」


 ――う、痛い所を突かれた。


「あ、あの、せめてデザインだけでも変えられませんか? そのままだと完全にペット用の首輪なので……」

「デザインを変える事は可能だ。こちらの小型チップ型ログ解析デバイスを好きな装備に取り付けるだけでいい。ただし、詳しく説明すると長くなるので割愛するが、キャラデータの作り的にチップは必ず首に接触する装備に取り付ける必要がある」


 私はファイさんからチップを受取り、一先ず別デザインでチョーカーを作って着ける事を約束した。

 今日のバグモンスター対策会議はひとまずここまでで、あとは先ほど私が渡したバグモンスターのドロップアイテムを解析してから連絡をするという言葉で締めくくった。


 さて、新しい装備を作るとなれば私が行くところは決まっている。今私が着ている装備を作ってくれたルビィさんのお店だ。


 ……


 …………


 ………………


 バグモンスター対策会議が終わり、早速ルビィ衣装店へと赴き扉を開けるとカランカランとお客の来訪を知らせる鐘が鳴った。


「やぁ、ナツ。いらっしゃい」

「ルビィさん、こんにちは。 先日は装備ありがとうございました。以前までと性能が段違いで凄く戦いやすいです♪ ……それで、その、実はまたルビィさんに新しい装備の製作を頼みたくて」

「もしかして、もう装備が合わなくなったの!? 流石に成長早すぎない?」

「あ、いえ、そうじゃなくて! 実は……」


 流石にバグモンスターの話や、その関連でログ解析用のアイテムを仕込んだチョーカーを作って欲しいとは言えず、少し話を修正して話すことにした。

 具体的には『初心者から中級者までを対象にしたモニターに選ばれて、専用のアイテムを仕込んだチョーカーが必要』と感じだ。


「へぇ、公式からはそんな情報流れてなかったけど、運営ってそういう事もしてるのね」

「そうみたいですね。私も急にそういうメールを運営から受けてビックリしちゃいました」

「うん、分かった。そういう事ならその依頼受けさせてもらうわね……と言うより、丁度良かったと言えるわね」


 なんだろう。すっごく嫌な予感がする。


「実は次の装備更新の時に提案しようと思ってた装備があるのよ。……これなんだけど、どう?」


 ……それは黒っぽい金属製の首枷だった。しかも前の方には無理やり引きちぎった様な短めの鎖が付いている。


「えっと、あの……これって確実に捕まってた囚人が首枷の鎖を無理やり引きちぎって逃げ出した。みたいな体の装備ですよね?」

「おお、流石ナツ! 一目見ただけでそこまでコンセプトを読み取れるなんて素晴らしいわ♪ そう、以前ナツに装備を着て貰った時に、何か足りないと思っていたのよ。それが、つい先日やっと分かったの! ナツには首枷が足りないってね!!」


 ――そこに行き着いちゃうかぁ~。でも、ペット用の首輪は嫌だとファイさんに直訴して、好きなデザインでチョーカーを作れるように小型デバイスを貰ったのに、それで装備してきたのがこれって……私、確実に変態でしょ。


「どう? 結構力作なんだけど格好良くない? 知り合いの鍛冶師にも協力してもらって、この色合いの金属を作るのに苦労したのよね」


 ――どうしよう。断りたいけど、断りづらい。ルビィさんにはゲーム始めたての頃から本当にお世話になってるし、今着ている装備だって本来はとても高価な物だけど、それを協力と手間賃ということでタダで貰ってしまったし……。


「あ……もしかして、嫌だった?」

「い、いえ! 今の装備一式と凄く合っていて、格好良いと思いました!」

「そう? 良かった♪ じゃあ、早速そのちっこいアイテムをこの装備に取り付けるわね! このくらいの修正なら彫金スキルでちょちょいのちょいよ♪」


 そう言って首枷にログ解析デバイスを取り付けるルビィさん。……やってしまった。シュンと落ち込んだルビィさんを見た瞬間、思ってもない言葉がポロっと出てしまった。けれど、今更もう「さっきのは嘘です」とは言えない。

 ルビィさんは宣言通りちょちょいのちょいとデバイス付き首枷を完成させた。私はそれを受取り、今回はしっかりと代金として8万Gを支払う。


「まいど♪ スキルがもっと育って、装備更新が必要になったらすぐに声を掛けてね。その時はまた私の全身全霊であたらせてもらうわ!」

「はい、その時は是非よろしくお願いします」


 ――今からもう次の装備更新が怖くなってきたよ……。

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