66. バグモンスター対策会議

「お主、いつの間に居ったんじゃ」

「丁度ナツ君がこのゲームに対する熱い想いを表明していた時だ」


 ファイさんのその物言いに、先ほど自分の言ったセリフを思い出し顔を熱くしてしまう。


「ファイよ、ナツが勇気を出していった言葉を揶揄するのは感心せんぞ」

「? 私は別にナツ君の言葉を揶揄したつもりは無いのだが……。すまない、何か言い方を間違えたようだ」


 何となくだが、ファイさんがどういう人なのか分かって来た。この人はそう、人の心の機微に疎いタイプのコミュ障なのだ。


「お主、そんな有様で他の者たちはついて来ておるのか? バグモンスター対策を押し付けられたと言っておったが、ゲームそのものの有事を任されておるという事は、職場ではそれなりのポジションなのじゃろ?」

「あまり自分で言う事ではないが、それなりのポストには就かせてもらっている。職場では私が言った事に文句を言わず、皆従ってくれるぞ?」


 ――それはもしかして、言っても無駄だと諦められてるんじゃ……


「はぁ。とにかくじゃ、お主の物言いは不躾過ぎる。わっちらはまだお互いの事をよく知らんのじゃから、物言いにはもう少し気を遣うのじゃ」


 ファイさんの意外な一面を目の当たりにした後、私達は第1回バグモンスター対策会議を開いた。


 ……


 …………


 ………………


「お待たせなのじゃ。すまぬの、こんな物しか用意出来なんだが、良かったら食べてくれなのじゃ」

「いえ、ありがとうございます。凄い美味しそうです!」


 対策会議はロコさんの家のリビングで行われた。

 その際、何か摘まむ物がないと寂しいとロコさんがちゃちゃっとクラッカーを使ったおやつを作ってくれた。私もいつか「あるもので何か簡単に作るわね」とか言って、スマートに料理を提供したいものだ。


「さて、我々運営陣からの支援内容はロコ君から既に聞いていると思う。故に今日は、これから作るギルドの基本方針について話をしたいと思う」

「基本方針ですか? バグモンスターが出たら出動して、出ていない時はスキル上げとペットのレベル上げじゃないんですか?」

「それではあまりに効率が悪すぎる。対抗手段がナツ君とレキ君しかない現状では、不測の事態に対処しきれない可能性が高い」


 そう言って、ファイさんが求めるギルドの基本方針の話を始めた。


 まず1つ目は勿論、バグモンスターが出た際の対処だ。運営スタッフが発見、もしくは一般プレイヤーからバグモンスターの出現報告が来た際はすぐに私達に知らせが来るようになっている。


 次に2つ目、バグモンスターの生態調査だ。基本的にペットのバフは飼い主か同じテイマーに飼われたペットにしか掛ける事が出来ない仕様となっている。なので、私とレキ、後は運営側が捕えているバグモンスターを使って色々な検証実験を行うらしい。


 最後に3つ目、対抗手段の開発だ。先ほどファイさんが言っていたように、バグモンスターへの対抗手段が私だけだと不測の事態に対処出来なくなる可能性が高い。なので、私やレキ以外にもバグモンスターに対抗出来る手段を作りたいとのことだ。


「これに関して、実はロコ君とギンジ君に協力を仰ぎたいと思っている」

「わっちは構わんが、ギンジの阿呆は戦うこと以外何も出来ん男じゃぞ?」


 本人が隣りに居るのに酷い言い草だ。


「あぁ、俺に戦い以外は期待すんな」


 本人容認の下だったらしい。いや、ギンジさんにだって他にも出来る事があるよ……例えば……弟子を千尋の谷に突き落とすとか。

 

「心配要らない。2人に頼みたいのは簡単なことだ。まずロコ君にはバグモンスターのテイムを試して欲しい。勿論ナツ君にも試してもらいたいのだが、我々が捕えているバグモンスターをテイム出来るかどうかの実験だな」

「そのぐらいなら問題ないのじゃ。じゃが、それは運営スタッフの方でも試しておるのではないかえ?」

「いや、今までバグモンスターをテイムなどという考えに行き着かなかったんだ。今回ナツ君の事例によって初めてバグモンスターのテイムという可能性が生まれた」


 運営スタッフにも調教スキルをカンストさせたキャラを持っている人はいるが、なんとロコさんの方がテイマーとしての実力と実績は上な為、ロコさんに試して欲しいとの事だった。


「次にギンジ君には、バグモンスター素材の武器を試して欲しいんだ」

「バグモンスター素材の武器だぁ? そんなもん作ってたのか」

「いや、まだ現物がある訳ではない。前回の君たちの戦いでバグモンスターから文字化けした仕様外アイテムをドロップしたと聞いている。それを使い、武器を作れないか試したい。……と言う事でナツ君、君が持っているアイテムを渡して貰って良いだろうか?」

「はい、大丈夫です」


 正直手元に置いておきたくなかったので、引き取って貰えるのはありがたい。私は忘れないうちに渡してしまおうと、すぐにファイさんに文字化けアイテムを渡した。


「対抗手段についてはこんな所だ。上手く行くかはまだ未知数だが、色々試しながら対抗手段を増やしていきたいと思う。……そうだ、ナツ君とレキ君にこれを渡すのを忘れていた」


 そう言って差し出された物は2つの首輪だった。


 ――え? これを私も着けろと?

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