69. 困惑とこれからの行動
レキのバフを受けた私はバグモンスターにダメージを与えることが出来たのに、同じ条件のはずのパルがダメージを与えることが出来なかった。その検証結果を見てファイさんが何やら難しい顔をする。
「あの、この結果ってそんなにマズいんでしょうか?」
「私は今までレキ君がダメージ要因なのだと考えていた。だが、パル君にバフを乗せてもダメージを与えることが出来ないという結果が出た以上、この考えは否定された。……ナツ君、君自身がもう1つの要因である可能性が出て来たんだ」
「私がですか!?」
それは全く予想だにしない言葉だった。だって私は普通の一般プレイヤーで、今までも特別なことなど何もなかった。それが突然バグモンスターにダメージを与える要因だと言われても困惑しか生まれない。
「これはあくまで可能性の話だ。正直言ってサンプル数が全く足りていない。せめてあと3人ほどバグモンスターのペット持ちがいれば、色々調べようがあるのだが」
「そんな事を言っても仕方がなかろう。まずはこれからどうするのかを決めた方が余程建設的じゃ」
「……そうだな。この件は継続的にナツ君とレキ君のログ解析を行って調査を進めていこう」
私がダメージ要因の可能性があるという件に関しては、一先ず置いておくことになった。そこから先は、今後の行動内容についてだ。
まず、私の強化についてだが、報酬条件がバグモンスター対策ギルドのメンバーに対して支払われる契約上、まだ運営側からの支援は受けられないらしい。
その為、前回のバグモンスター討伐報酬である20Mを先に受け取る事になった。このお金を使って、まだ持っていない技能を取り揃えるなり、装備を整えるなりしておくようにとの事だ。
次にギルド設立についてだが、なんとギルドは最低5人のメンバーが必要らしく、今は4人だけなので1人足りない状態なのだ。その為、あと1人勧誘しないといけないらしい。
これに関しては人脈の広いロコさんとギンジさんにお任せする形になる。
最後にバグモンスター製の武器作りについては、現状材料が足りないので、今後私が強くなってから運営が捕えているバグモンスターを討伐して得るか、野生のバグモンスターが発生した時に討伐して材料を得るしかない。なのでギンジさんの武器は当分先になりそうだ。
ちなみに今回検証に使ったマッドボアのバグモンスターはギンジさんの手によって倒され、私以外でも倒すとドロップアイテムを得られる事が判明した。……ドロップアイテムは毛皮だったので、武器には転用出来なかったが。
「こんなところか。ああ、そうだ。ロコ君、君は今ペットロストアイテムを持っていないようだが、バグモンスター製の物を持つ気はないか?」
「ペットロストアイテムか……少し考えたい所じゃの。いや、それ以前に先ほどバグモンスターのペット化に失敗したではないか。どうやって用意するのじゃ?」
「バグモンスターを素体としたペットロストアイテムを用意することは出来ないが、通常のペットロストアイテムをバグモンスター素材で加工し、1つのアイテムにする事は出来る。それでダメージ判定に繋がるか検証したい」
ペットロストアイテムってなんだろう。その名前だけ聞くと何だか嫌な感じがする。
「あの、ペットロストアイテムって何なんですか?」
「あぁ、ナツはまだ知らんかったか。……ペットロストアイテムとは、ペットがロストした際に飼い主に残される置き土産じゃよ」
プログレス・オンラインの世界では、ペットはHPが0になると復活することは無く完全にロストする。その際、テイマーのインベントリにはモンスターを倒した時のドロップアイテムのように、ペットロストアイテムというカテゴリのアイテムが入るらしい。
ペットロストアイテムとは複数の種類があり、多くの種類の中から抽選で選ばれたアイテムが残される。基本的に高レベルなペット程、レア度の高いアイテムが抽選されるらしい。
「ペットロストアイテムにはテイマーにとって有用な物が多いでな、テイマーの間では高値で売買されておる。じゃが、その成り立ち故にわっちにはどうにもそれを買う気にはなれぬし、他者のアイテムを使う気にもなれないのじゃ」
確かにその気持ちは私にも分かる。ペットロストアイテムとは、つまりは遺品なのだ。ペットからテイマーに残した想いと言ってもいい。そんなアイテムを売り買いしたり、他者のアイテムを自分が使おうとは私も思えない。
ちなみにロコさんは<<想いの欠片>>という名前のペットロストアイテムを持っているが、それは他のペット達と一緒に暮らせるようにとロコさんの家に飾っているらしい。
ロコさんはバグモンスター製のペットロストアイテムを使うかどうかを明言せず、少し考えさせて欲しいとだけ言ってその話を打ち切った。
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