48. 服飾ギルド

 私は今、ルビィさんに連れられて服飾ギルドへと来ている。

 服飾ギルドはとても大きな洋館で、中には至る所に衣装を着たマネキンが飾られていた。それら飾られている装備はギルドメンバー達の渾身の自信作らしく、定期的にメンバー同士で作品を出し合い、審査会の末メンバー達に認められた物をこうやって飾っているのだそうだ。

 

 ……関係ない事で意識を逸らすのはもう辞めよう。そう、私は今、ルビィさんに連れられて服飾ギルドへと来ている……見世物として。


「ひゃー! カワイイ!! ルビィちゃん、凄い逸材を見つけて来たじゃない! それにこの衣装もとっても素敵よ♪」

「ありがとうございます、ギルマス!」

「ふむ、確かにメッセージ性のしっかりした良い衣装だが……体操着の方が似合うのではないか? どれ、ナツとやら。この体操着を着てみてくれないか?」 

「サブマス、ぶっ飛ばしますよ?」


 私は服飾ギルドに入って早々、奥の広間へと連行され、数十人のプレイヤーの視線に晒されながら指示通りにクルクル回ったりポーズを取ったりしていた。1人、やたらと私に体操着や学生服を着せたがるメイド服姿の男性が居たが、どうやら服飾ギルドのサブマスだったらしい。


「それにしてもルビィ、何でコートの素材をケイオスラーシャにしたんだ? この子のステータスならもうちょっと上位素材、それこそ低位のドラゴン素材でもいけたんじゃないか?」

「色合い的に今回のコンセプトに合っていたっていうのもあるんだけど、ナツの戦闘スタイル的に極力身軽で動きを邪魔しない装備にしたかったのよ。ナツは枷のデバフで常時筋力と機動力が低下してるから」

「あぁ、だから防御力を少し下げてでも軽い素材の方がいいのか」


 ルビィさんは見栄えの良し悪しだけでなく、素材や機能性についても他メンバーと意見を交わし合っていた。残念なことに、私にはその会話内容が殆ど分からなかったが。……ケイオスラーシャってどんなモンスターなんだろう?

 大広間のあちこちで様々な意見交換が行われ、私自身も服の使用感などを聞かれたりしていた。そうして時間が過ぎていくと、服飾ギルドのギルマスからパンパンと手を叩く音が響く。


「さて、ある程度意見交換は行われたでしょう。……ではこの衣装の合否を決めたいと思います。この衣装は不合格だと思う物は挙手を。……では、合格だと思う物は挙手を」


 広間に居る全員が合格に手を挙げた。


「よろしい。では、今回のルビィちゃんの衣装を合格とし、ギルド内に配置したいと思います。配置場所についてはまた後日話し合いましょう」

「やった! やっと……やっと、私の服を飾れるんだ!!」

「ルビィちゃん、何度駄目だしを受けながらも頑張ってたものね。今回の衣装は文句無しの出来でした」

「ありがとうございます!!」


 どうも今回のお披露目は、ただの自慢の場などではなく、自身が作った衣装をギルド内に飾れるかどうかを決める場だったようだ。

 ルビィさんは沢山の人から祝福の言葉を掛けられ、とても嬉しそうにしている。


「さて、ナツちゃん。この後なのですけれど、ナツちゃんのマネキンを作りたいので各種採寸に付き合ってもらってもいいかしら?」

「マ、マネキンですか!?」

「ええ、誰かの為に用意された服はその人の体形に合わせたマネキンに着せるのが一番映えますからね。ギルド内に飾る際は、その人のマネキンを作るようにしているのですよ。……ルビィちゃん、説明していなかったの?」

「いやぁ、もしかしたら自分のマネキンを作られるかもって言ったら、ここに来るのも断られるかなと思って。……あ、あはは」


 ――あはは、じゃないよ! この洋館の中に私そっくりのマネキンが配置されるなんて!!


「ナツ、お願い! ギルド内に自分が作った衣装を飾れるのは一種のステータスで、私の夢だったの!!」

「うっ! ルビィさん、ズルいですよぉ。そんなこと言われたら断れないじゃないですか……」

「ありがとう!! お礼に、今回の衣装代は諸々の手間賃と相殺でタダにするから。今後ともルビィ衣装店をよろしくね、ナツ♪」


 それからはギルドメンバーの方から各種採寸と、何枚か写真を撮られて私の作業は終わった。

 ちなみに、今回のお披露目が予想以上に時間が掛かってしまったため、今日の猿洞窟での訓練はお休みになった。ということで、この後は私のプライベートエリアで少し休んでから、ロコさんのプライベートエリアへ向かうことになる。


 ――この服、ロコさんには何て言われるかな。

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