47. 私は何処にでも居る中2女子のはず……だった

 さて、やって来ました新しい服の受取日!

 昨日は心身共に疲れ果て、自身のプライベートエリアに戻ってからはすぐにログアウトしてゆっくり休んだ。

 今日はまずルビィさんのお店で新しい服を受取り、その後はいつもの日課である猿洞窟での近接戦闘訓練と、昨日から始まったロコさんのプライベートエリアでの訓練だ。

 

 期待と不安を胸にルビィさんのお店へと向かうと、程なくしてルビィさんのお店『ルビィ衣装店』が見えて来た。私は少しドキドキしながら扉を開ける。すると、カランカランと来客を知らせる音が店内に響く。

 

「おお、ナツ来たね! 待ってたよ!」


 今日のルビィさんのテンションは最初からマックスなようだ。初めて会ったときのクールなお姉さんという印象が完全に崩れてしまっている。


「さ、服の準備は出来てるからカウンターの奥の部屋に来てもらってもいいかな? 試着してみて、もし調整が必要そうならその場で調整しちゃうから」

「あの、お店の方はいいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。店番のNPCも居るし、何かあれば呼びに来るように言ってるから」


 プログレス・オンラインでは、店舗持ちプレイヤー限定で商業組合から店員用NPCを月額で雇い入れることが出来る。しかもこのNPCには1人1人高度なAIが積まれているので、臨機応変なお客様対応が熟せるらしい。そして、ルビィさんもこの店員用NPCを1人雇っている。


「さぁ、早速これを着ちゃって下さいな! ……そう言えば枷とタトゥーが前の物と少しデザインが変わっているようね。けど、新しい物の方がこの服と合ってるかも……」


 ルビィさんは新調された私の枷とタトゥーをじっと見て考え込み始めた。私はそれを尻目に、渡された服と今着ている服を交換していく。


 ……


 …………


 ………………


「完璧だわ……完璧だわ!!」

「ひゃっ!」

「何て可愛いの! そしてなんてカッコいいの! 新しいコンセプトの元作り上げた衣装と真新しくなった手足の枷、そして更に厳つくなったタトゥーが完全にマッチしてる。長く激しい戦いに身を置く事で傷だらけになった服、その者の凶悪性を表す枷とタトゥー……そしてその瞳。そんな様相の主が、小さくて幼い女の子なんて……完璧じゃない!!」


 ルビィさんのテンションがフルスルットルで怖い。かつて私の中にあったルビィさんへのイメージは今、完全に崩壊してしまったようだ。

 今回、ルビィさんが作ってくれた服は一言で言うと『傷だらけで間に合わせの服』だった。


 ・傷だらけの黒い革製ショートパンツ

 ・胸からへそ上までを隠す、傷みの目立つ包帯のサラシ(全体的に薄汚れ、あちこち血や土で汚れている)

 ・大きさの合っていない、傷だらけの黒い革製のコート。

 ・薄汚れていて、沢山の小さなベルトの付いたひざ丈ブーツ

 ・そして何故か渡された、真っ赤なコンタクトレンズ


 分からない。私は最初キャラメイクしたとき、何処にでも居そうな中2女子を連想して作ったはず。なのに今、私は確実にその対極にいる。……何故こんなことに成ってしまったのか全く分からない。

 と言うか、私はクラスで少し小さい方だったけど、そこまで小さくない! そしてそんなに幼くない!!


「全体的にダメージ加工を施してるけど、実際には耐久値に問題は無し。それどころか今のステータスで扱える最高の素材で作ってるから防御力はかなり上がってるわ。それとそのコンタクトは反応速度上昇のバフが付いている優れものよ。どう? 驚いた?」

「色々な意味で驚きましたけど……これ、2万Gで足りるんですか? バフ付きコンタクトとかだけでもオーバーしてそうですけど」

「う~ん、ぶっちゃけ全然足りないかな。正直に話すと、そのコンタクト課金装備で単体価格400kはするんじゃないかしら? その他の装備の素材も、今のステータスに合わせたからそこまでグレードの高い物ではないけど、2万では到底足りないわね」

「コンタクトだけでも400k!! あ、あの、私本当にお金なくて。そんな金額払えませんよ!?」


 嫌な予感はしていた。だって、材質1つ取っても安物には思えなかったし、バフ装備は基本的に高い。それが全部で2万で足りるとは到底思えなかったのだ。……実際、コンタクトだけで予算の20倍だった訳だが。


「その事でナツにちょっと相談があるんだけど。……その衣装を着て、私が所属している服飾ギルドに来てくれない?」

「服飾ギルドですか?」

「そう、そこでその衣装を自慢したいの。ナツが協力してくれるのであれば、その服は約束通り2万で売るわ!!」

「自慢って、私はそこに行ってギルドの方に見せるだけでいいんですよね? それだけで、これだけの装備を2万って破格過ぎません?」

「いいえ、それは違うわ! その服は私の最高傑作! そしてその服を着たナツは私の想像を遥かに超えていた。……つまり、その服を着たナツを皆に自慢する事は、その服の本来の価格以上の価値があるのよ!!」

 

 自慢する事にそれだけの価値が本当にあるのかは分からないけれど、これだけの装備を2万で買えるのであれば、それは本来ありえない程の幸運だ。

 少し、いや、かなり奇抜な衣装だし、コートの下がサラシである事に若干の恥ずかしさはあるが、それを飲み込めるだけの高性能装備なのだ……私は既に、どこまでも効率重視であるギンジさんの影響をモロに受けているのかもしれない。

 そんなこんなで、私はルビィさんと共に服飾ギルドへと向かうことを了承した。

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