45. リアルもゲームも躾けが肝心

「さて、ナツよ。今日から連携訓練に入る訳じゃが、その前に1つ聞きたい……お主らは一体何をやっとるんじゃ?」

「え、え~っと……席決めですかね?」


 猿洞窟で日課の訓練を終えた後、私は今ロコさんのプライベートエリアへとお邪魔している。モンスターと戦うための事前準備として、多頭飼いでの戦闘訓練を行うためだ。

 けれど今は、それどころではない状態に陥っている。レキとパルをサモンリングから具現化した途端、自分の定位置を巡って争いだしたのだ。そう……私の頭という定位置を巡って。


「ちょっと、レキ、パル、一度落ち着こう? ね? ほら、皆仲良し!」

「ワン!ワン!」「パルゥゥウウウ!!」

「駄目じゃな、これは。……白亜、一発ド派手なのを頼むのじゃ」


 ロコさんは私たちから少し離れ、自身のペットである九尾の白亜に指示を出すと、白亜は心得たとばかりに頷き特大の火柱を上げた。……私たちを巻き込んで。


「え、待って! 私たちごと!!」


 ここはプライベートエリアでありPK可能エリアではない。そのため、フレンドリーファイアは起きないのでダメージは受けないのである。しかし、衝撃は受ける。その結果……。


「うぅ~、ロコさん酷いですよぉ……」

「ク~ン」「パキゥ~」

「こういうのは最初にガツンとやるのが良いのじゃ。わっちも多くのペットを飼っておるでな、ペット同士の喧嘩への対応は慣れたものよ」


 白亜の火柱の衝撃は、一言で言うと下から舞い上がる熱風の嵐だ。それに煽られたレキとパルは高く吹き飛ばされ、その後地面へと叩きつけられ目を回している。重さの違いなのか、私は吹き飛ばされることこそ無かったが、突然の炎と突風に煽られたお陰で頭がくらくらしている。


「ナツ、プログレス・オンラインのペットにはの、NPCと同じく高度なAIが積まれておるのじゃ。躾けをせずに甘やかせば言う事を聞かぬようにもなるし、しっかりと取り持たねばペット同士の仲が決定的に悪くなる事もある。躾けは自分だけでなく、ペットの為にも必要じゃと言うことを覚えていよ」


 普段レキと触れ合っていて、ゲームとは思えない感情の豊かさに驚いたこともあったが、まさか育て方を間違うと言う事を聞かなくなったりペット同士で仲が悪くなったりするとは思わなかった。

 詳しく聞いてみると、ペットとの友好度によって躾けの矯正が効きやすいので現実のペットより遥かに楽ではあるが、全く躾けをせず、更にはよっぽど友好度も育っていない状態だと最悪そういうこともありえるらしい。


「あの、先ほど『ペット同士の喧嘩への対応は慣れた物』って言ってましたけど、ロコさんはそういう時はどうしてるんですか?」

「う~む、それこそケースバイケースじゃが、今回の様な場合はペット同士で上下関係をはっきりさせておるな」

「上下関係ですか?」

「そうじゃ。ペットの種類やその者の個性によっては上下関係に敏感じゃったり、負けん気が強かったりする個体も多い。そういう場合は上下関係をしっかり付けさせておるのじゃ。ちなみにわっちのペット達のボスは白亜じゃな」


 上下関係。必要なことなのかもしれないけど、レキとパルが戦っている所は正直見たくない。出来れば仲良くして欲しいのだ。

 けれど、ここで対応を誤ればもっと酷くなるかもしれない。単純に年功序列をパルに押し付けるのも、あまり気持ちの良いものではないし、何かいい方法は無いだろうか。

 私が2匹のペットを上手く仲裁する方法に悩んでいると、先ほどまで目を回していたレキとパルが目を覚まし、私の方へと近づいて来た。私は2匹を両腕でギュっと抱きしめ、少しでも私の想いが伝わって欲しいと、想いを込めて精一杯言葉を伝える。

 

「レキ、パル。私ね、皆には仲良くして欲しいんだ。……レキとはこれまで一緒に戦ったり遊んだり、昨日なんてステージの上でパフォーマンスまでしたりして、とっても楽しかったよね?」

「ワフッ!」

「だからさ、これからはパルとも一緒に楽しい思い出を作りたいの。だって、私たちは家族なんだから」


 私にとってペットは家族だ。今はもう他界してしまった現実のレキもそうだったし、これがゲームだとしてもレキとパルの事はもう家族だと思っている。

 そこで私はふと気づいた。私にとってこのゲーム内でのレキとパルは生きているんだ。たとえゲーム内のキャラクターだったとしても、私にとって2匹は実際に生きているし家族だと心から思えている。だからこそ上下関係を決めることや、そのために戦う所を見たくないのだ。


 ――お父さんとお母さんにも、新しい家族を紹介しないとなぁ。


 ゲーム内のペットを家族と呼ぶこと。そのペットにレキと名付けたこと。両親は何て言うだろうか……多分私を傷つける事は言わないと思うが、内心でどう思われるかを考えると少し怖い。

 レキとパルは物思いに耽って少しぽけっとしている私を見ると、「ワフ」「パルゥ」と2匹で何やら会話の様な様子を見せた。その後、私の腕から這い出たレキは私の頭の上に乗り、パルは背後から私の両肩に体を預けた。


「えっと……定位置が決まったの? というかパル、その乗り方きつくない?」

「パルゥ♪」


 パルの下半身は右肩に乗せ、そして上半身は左肩に乗せてぶら下がっている状態だ。なんだか常に力が入って攣りそうな体勢だが、パル的に全く問題ないらしい。


「ふむ、無事解決したようじゃな。ナツよ、このゲームのペットは個体毎に個性豊かじゃ。今回はこれで上手く行ったが、ペットの個性によっては諭すだけでは上手く行かない場合もある事を忘れるでないぞ」

「はい。『躾けることは私の為だけじゃなく、ペットの為でもある』ですね。他のテイマーも躾けとかって頑張ってるんでしょうか?」

「攻略サイトに大体の性格カテゴリ情報と、そのカテゴリ毎に適した躾け方が載っておるでな。それを参考にしておるテイマーは多いのじゃ。……あと、ハイテイマーズは更に効率重視の躾け方を確立しておると聞いておるが、恐らく碌なやり方ではないじゃろう」


 噂に聞く評判最悪のテイマー集団ハイテイマーズ。その集団が作り出した効率重視の躾け方か……興味もないし、知りたくもないな。

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