44. 一歩ずつ

「ハイテイマーズの成り立ちの話はこんなところじゃな」

「大まかな話は知ってたけど、そこまでの詳細は知らなかったよ。でも、ロコっちはギルドを閉鎖したのに、何でまだハイテイマーズがあるの? 巷では、派閥争いに負けてロコっちとその派閥のメンバーが追い出されたって話になってるよ?」

「大方ハイテイマーズのネームバリュー欲しさに同じ名前で立ち上げたんじゃろう。今となってはそのネームバリューも地に落ちておるがの。……と言うよりナツよ、何故お主がそんなに泣いておるのじゃ?」

「……だって……だって、そんなのってあんまりですよ! ぐすっ、ぐすっ……」


 ロコさんの話は壮絶の一言だった。親友の為に立ち上げたギルドが親友を傷つけ、そしてそれ以来会えてないなんてあんまりだ。

 そして許すまじギース! 今もまだ、ロコさんとリンスさんの想いの籠ったハイテイマーズの名を汚し続けてるなんて!!


「お~よしよし。お姉さんの胸でお泣きぃ~」

「何をやっとるんじゃお主らは。……まぁ、ハイテイマーズの成り立ちの話はどうでもよい。大事なのは、そのハイテイマーズの者がMPKを起こして、お主を狙っておったのかもしれんという事じゃ」

「何で狙われたんでしょう? 私を狙っても何か得る物があるとは思えないんですが」

「それは分からん。単なる嫌がらせの可能性もあるし、何かしら狙いがある可能性もある。……狙いが分かれば、まだ手の打ちようもあるんじゃがの」


 相手の目的が本当に謎だ。そもそも、ロコさんの知り合いだから狙われたのか、偶然MPKを仕掛けた相手が私だったのかすらも分からない。

 一先ず今は用心のために暫くロコさんとペット育成兼テイマーとしての訓練をすることに決定した。ロコさんのような凄いテイマーに付きっ切りで訓練してもらえるのはとても幸運なことだろう……とは思うのだけれど、それに私が付いて行けるのかが少し不安だ。

 

「さて、折角の祝勝会なんじゃから、このような暗い雰囲気は合わんのぅ」

「そうだねぇ……。そうだ! 折角こんなに広いエリアなんだから、ロコっちのペットも呼んで皆でパルちゃんと遊ぼうか♪」


 そんなミシャさんの提案で、ロコさんのペット達も含めた皆でパルと楽しく遊んで過ごすことにした。


「いやぁ、今日は楽しかったね♪ あ、ナツちゃん。もしまたパフォーマー活動に興味が出てきたら、その時は私に声を掛けてね」

「はい、またパフォーマー活動をする日が来るかは分かりませんが、その時はまた声を掛けさせてもらいますね」


 そう言って今日の祝勝会は終わった。

 明日からは新しい仲間と共に訓練頑張るぞ!


 ……


 …………


 ………………


 「ウキャー!!」


 新しい仲間と共に訓練頑張るぞと気合を入れた翌日、私は今1人で猿と戦っている。テイマーへのモチベーションがいくら高まっても自己鍛錬は欠かしちゃ駄目だからである。

 昨日のロコさんの話で分かるように、テイマーはペットがいくら強くても、その飼い主が弱ければ簡単にやられてしまうのだ。だから私はレキやパルを鍛えるだけでなく、もしくはそれ以上に自分を鍛えなければならない。


「はい、君は大人しく寝てて。……そんでそっちは早く死んで!!」

「グッギャ!」


 前のゾンビMPK事件で揉まれたおかげか、それ以降ここの洞窟で2匹同時に猿の相手をするのにも大分慣れてきた。あの日の戦いで、ギリギリを攻める感覚と相手の動きを予測し制御する感覚がちょっと分かって来たのだ。

 以前、ギンジさんとの特訓で何度も転ばされたおかげで、2足歩行の相手を転ばせる方法も体で覚えた。あとは、1匹を転ばせながら行動阻害し、もう1匹の動きを読んでその首にひたすらクリティカルを叩き込む。


「くっ! やっぱり3秒は短いし、体の感覚がコロコロ変わるのが面倒臭い!!」


 この猿洞窟で訓練をしていて、私は2つの気付きを得た。

 1つは、短剣技能であるフラッシュビジョンは反応速度と機動力が一時的に上がる良技能のように思えたが、実際には一瞬で体の感覚が変わり3秒で元に戻るという何とも使いづらい物だったということだ。速くなる時は事前に覚悟が出来ているので何とかなるが、3秒経過した後は一気に動きと反応速度が遅くなるので躓きそうになってしまう。安定的な戦闘継続力を考えると使わない方がましだ。

 2つ目は……茨シリーズの短剣と私の相性がすこぶる良いということだ。


「お待たせ! そして、お疲れ様!!」

「ウギャー!!」


 1匹目の猿に止めを刺したあと、何度も転ばせて地味にHPを削られていたもう1匹の猿に連続攻撃で畳みかけ、一気に残りHPを削りきる。

 茨シリーズの短剣は、常時私のHPを吸い、相手を攻撃した際には相手のHPも吸っている。そして吸ったHP量に合わせて攻撃力を上昇させるのだが、1匹目を倒した時にはそこそこ攻撃力が上がっているので2匹目はかなり短時間で倒しきることが出来る。更に、切った相手のダメージの一部を自分のHPとして吸収する効果によって今のところ私のHPは常に満タンだ。

 ゾンビとの戦いで長時間集中力を保って戦うことにも慣れた私は、この短剣との相性を更に伸ばしたと言っていいだろう。


「それにしても、以前ギンジさんに『使う技能を絞って短剣の通常攻撃メインでガンガン攻めろ』って言われてたけど……その通りだったなぁ」


 あの時は、私が不器用で頭が悪いと言われたようで気落ちしてしまったが、スキルが成長して使える技能が増えてくると嫌でも分かった。私は咄嗟に色々考えるのは苦手だし、それよりなにより不器用なのだ。

 事前に組み立てて何度も反復練習したコンボ攻撃なら叩き込めるが、咄嗟に考えて臨機応変な攻撃手段の組み立ては難しい。スキルの有効時間を秒単位で把握したり、体の感覚がコロコロ変わっても問題なく戦える程の器量もない。

 私に出来ることが少ないのであれば、それを徹底的にやるしかない。観察、反復練習、試行錯誤だ。


 ――強くなろう。一歩ずつ、確実に。


 そして私は洞窟の中を更に奥へと進んで行った。

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