43. 崩壊

「ギース、これはどういう事じゃ?」

「よう、ギルマス。これは俺もビックリしてんだ。突然リンスの奴が脱退しちまってよ。繰り上げりで俺がサブマスに着いたんだが、リンスの奴ほんと無責任だよな」

「……これはどういう事じゃと聞いておるんじゃ!!」

「そう怒んなって。リンスが何も言わず突然脱退したのは本当だぜ?」


 ギルドに着いてすぐに問い詰めたのは、現在サブマスになっている貢献派閥リーダーのギースじゃった。じゃが、のらりくらりと話をはぐらかせ、何が起こってこうなったのかは分からんかった。じゃからリンスと仲の良かった別のメンバーに話を聞いたのじゃ。


「リンス脱退の件、お主は何か知っておるか?」

「ごめん、ロコさん。俺、リンスを助けられなかった……」

「……何があったのか聞かせてくれぬか?」


 わっちがイン出来なんだ日、リンスを含めたいつものメンバーでペット育成の為の狩場に出かけておった。いつもと同じメンバー、いつもと同じ時間帯、いつもと同じ狩場、それはいつもと変わらぬ日常……そのはずじゃった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「何よこれ!?」

「まずい! 別エリアからモンスターが雪崩れ込んで来てやがる!」

「なんで!? ちゃんと他のモンスターがリンクしないルートで来たし、突然雪崩れ込んでくるような行動もとって無かったのに!」


 この狩場のことは皆熟知している。何せここはほぼ毎日通う狩場だ。そんな狩場でこんな乱戦になるようなミスを犯すはずがない。

 

「リンス、危ない!!」

「え? キャッ!!」


 雪崩れ込んでくるモンスターに気を取られている間に、育成のために戦っていたボスモンスターが近づいてきて、運悪くリンスが攻撃され吹き飛ばされてしまった。

 他のギルドメンバーでボスモンスターを抑える組と、雪崩れ込むモンスターを抑える組とで分かれているが、数が多すぎて捌き切れていないのだ。

 

「モカさん、戻って! キーちゃん、逃げてっ!!」

「ギッ、キィイイー!!!」


 自分のペットの危険を感じたリンスは、まず近くに居た熊型のペットであるモカさんをサモンリングに戻した。けれど、空を飛んでいた鳥型ペットであるキーちゃんは、ボスモンスターの攻撃でリンスが吹き飛ばされた所為もあって距離が離れており、サモンリングに戻す事が出来なかった。……そして、ボスモンスターの攻撃を受けてロストした。

 それからは泥沼の戦いだ。手持ちの回復アイテムも戦闘補助用アイテムも全て使い、全てのモンスターを足止めしながら何とか全員がペット達をサモンリングに戻して死に戻りした。


「よう、サブマス様。何かあったのか? 随分疲れてるじゃねぇか」


 死に戻りした後、みんなでギルドハウスに戻ってくると、そこにはニタニタした顔で出迎える貢献派閥のメンバー達がいた。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ごめん、ロコさん。ごめん……」

「大丈夫じゃ。……リンスのチーちゃん以外に被害は無かったかの?」

「……他にも数人ペットを失ったメンバーがいる」

「……そうか。すまんかった、全てはわっちの責任じゃ」


 それからわっちは、もう一度ギースの元へと向かった。


「ギース、表に出ろ。このギルドのギルマス権限を賭けて一勝負しよう」

「おいおい、急にどうした。俺は別にギルマス権限なんて欲してないぞ?」

「普段イキっておるくせに、サシでの勝負は受けられんか? なら貢献派閥全員で掛かってこい。それで勝てたらこのギルドをやろう」

「……おい、ギルマス。それはちょっと調子に乗り過ぎじゃねぇか?」

「なんじゃ、まだハンデが足りんのか。流石はペットのレベルしか誇れん底辺テイマーは違うのぅ」

「……上等だ。全ギルドメンバーの前で公開処刑にしてやる」


 ギルド内には模擬戦用の設備も整えておって、その設備内限定でプレイヤー同士で戦えるようになっておったのじゃ。

 それから、その日ギルドにいた貢献派閥のプレイヤー32人とわっちとの戦いが始まった。……いや、正確に言えば戦いにすらなっていなかったがの。


 ……


 …………


 ………………


「何だこれは……何なんだこれは!?」


 それは正に蹂躙じゃった。

 種明かしをしてしまうとな、わっちはペットを守るために普段から万全の対策をしておったのじゃ。それはバフ料理であり、リアルマネーを湯水のように使こうて揃えた装備の数々であり、魔法であり、ギンジに頼んで鍛えて貰った近接戦闘術であった。

 1人頭3体のペットを出していようとも、テイマーが死ねばペットは同時に消える。そしてそいつらはペットのレベルを上げることには熱心じゃったが、自分自身を鍛えることには無頓着じゃったんじゃ。つまり、どれだけ数が居ようとも、上手く立ち回ることが出来ればわっちが負ける要素など無かった。


「この人数差で何でこんな一方的になるんだ! お前、チートでも使ってんのか!?」

「言うに事欠いてチートとはな。……頭の悪いお主にも分かるように説明してやろう。まず、フレンドリーファイアが有効なこの模擬戦フロアでは、大人数のお主達は派手な技が使えんのは当たり前じゃろう。そして、お主らヘタレテイマー共と違い、わっちは近接戦用の装備も整えておったし、近接戦の心得もあった。な? 簡単じゃろう?」

「ふざけるな!! それで貢献派閥全員で掛かって来いと言いやがったのか! この卑怯者が!!」


 わっちはギースとそのペットのみを残し、残りを幻惑やデバフ用のペットで翻弄してテイマーを1人1人わっちが止めを刺していった。

 そして1人残されたギースはそれはもう慌てふためいておった。あの顔は正に傑作じゃったな。……リンスにも見せてやりたかったよ。


「卑怯者か……。お主がそれを言うのか?」

「っ! 来るな!!」

「お主、リンス達を罠に嵌めてペットを死なせたそうじゃな。……白亜、やってくれ」

「止めろ!! ぐあっ!?」


 当時はまだ遠距離からペットをサモンリングに戻すアイテム『帰還のホイッスル』が実装されておらんかったから、ペットとテイマーの距離を物理的に離してやればサモンリングに戻す方法は無かった。

 わっちとわっちのペット達でギースとペットを分断し、わっちがギースの足止めをしている間にペット達を襲わせた。幻惑とデバフ要員のペットと主戦力の白亜でのハメ技はしっかり訓練しておったから、倒すのは簡単じゃったよ。……そしてその日、初めて他者のペットを殺した日となった。


 それからわっちは、ギルドから持ち出せる物全てを持ちだしてギルドを閉鎖した。その後、貢献派閥以外のメンバーに頭を下げて、金銭による補填をして回った。そして今回ペットロストにあってしもうたテイマーには、わっちが持つテイマー専用装備で補填したのじゃ。

 じゃが、一番謝りたかったリンスには「今は気持ちの整理が出来ていないから会えない」とだけメールを貰い、謝ることが出来んかった。

 レベル上げに困っているリンスのためにと立ち上げたはずのギルドは、その目的諸共見事に崩壊していったのじゃ。

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