42. 後悔
軽い気持ちで立ち上げたギルドは、瞬く間に巨大ギルドへと成長していった。やはりペット育成に困っているテイマーが多かったことと、当時ギルドへの勧誘が酷い時期だったこともあり、目標も縛りも緩いハイテイマーズへの加入希望者が多かったのじゃ。
そのお陰もあって、各レベル帯のペットを持つテイマーも充実しておったから集団でのレベル上げも順調じゃった。
「ハイテイマーズ、順調だね♪ 軽い気持ちで始めたのに、こんなに大所帯になるとは思わなかったよ。お陰でモカさんのレベルも72になったし、もう少ししたら上位の狩場に行けそうだよ」
「リンスよ、あまり無理はせぬようにな。集団戦はヘイトが分散される故危険度は少ないが、それでも運悪く狙われ続けることもある。それに連続で範囲攻撃を放ってくることもあるからの」
その頃は本当に順調じゃった。レベル上げという点だけでなく、自然とギルドランキングも上がっていき、いつの間にかトップ10に食い込む程になっておった。
ギルドランキングとは、ギルドメンバーが倒した敵や、生産した物、他にも様々な職業の者が出した成果をポイント換算し、その合計値で競うものでの。1年に1度、順位に応じた賞品がギルドに送られてくるのじゃ。
ペットのレベル上げは苦行そのものじゃが、高レベルペットになってくると1体1体がちょっとしたボスモンスター並みに強くなる。そしてハイテイマーズには、そんな高レベルペットを持つテイマーが多く在籍しておったからギルドランキングが上がっていくのも必然じゃった。
そして、上位ギルドになれば欲を出す者が出てくるのも必然じゃった。
「なぁ、ギルマス。俺たちも今やトップギルドだ。ここらで一度ギルド対抗戦にも参加してみないか?」
「何を言っておる。このギルドはペット育成で困っておる者同士で助け合うことを目的としたギルドじゃ。他のギルドと競いたい者は、それを目的とするギルドへ移籍するようにいつも言っておるではないか」
「ああ、だが皆このギルドが好きなんだ。だから移籍はしたくねぇし、このギルドが力を合わせればどれだけの事が出来るのか試してみたいって思ってる奴も多いんだよ」
この時のギルドの雰囲気はとても良くてな。皆が助け合ってギルドを作り上げているという充実感に満ちている時期だったんじゃよ。じゃから、メンバー全体の意見を聞いてみることにしたのじゃ。
「ロコ、メンバー全員の意見まとめといたよ。……大体8割が対抗戦に出たい、もしくはやってもいいって意見だね」
「ふむ……8割の者が対抗戦に前向きじゃと言うのに、わっちの意見だけで拒否するのは横暴か」
「う~ん、正直それでもいいと思うよ? だってこのギルドはロコのギルドなんだもん。ロコはここをレベル上げに悩むテイマー救済のためのギルドにしようと思って立ち上げたんだから、それを押し通してもいいと思う」
リンスはそう言ってくれたが、やはり大勢の意見をわっち1人の意見で潰すということに躊躇してしまっての。結局はギルド対抗戦に参加することにしたのじゃ。……じゃが、それが全ての間違いじゃった。
……
…………
………………
「ロコさん、すぐに来てくれ! リンスさんが貢献派閥の奴らに囲まれてる!!」
「なんじゃと!?」
以前からどのカテゴリのペットが可愛いかなどの派閥はあったが、その当時に出来ていた派閥はそんな可愛らしいもんじゃなかった。
ギルド対抗戦に出始めてから、わっちらハイテイマーズは勝ち続けた。対抗戦に出るという目標を得て、レベル上げのモチベーションも全体的に上がっていったこともあり、高レベルペットの圧倒的なステータスと物量による戦いで次々に勝っていったのじゃ。
そして、いつしか『ギルドランキングや対抗戦で貢献度の高い者が、強い発言権を持つべきだ』という主張の貢献派閥というものが出来ておった。
この派閥の者はどんどん態度がデカくなっていっての。まだレベルの低いペットしか持たぬ者や、リアルの事情によりあまりプレイ出来ない者を寄生虫呼ばわりするようになっていったのじゃ。
「お主ら、そこで何をやっておる!!」
「……あぁ、ギルマスか。いやなに、ちょっとこのヘタレサブマス様に、その席を譲るべきじゃないかと具申していたところさ」
「何を勝手なことを。このギルドはレベル上げに苦労しておるテイマー達のためにとリンスとわっちの2人で作り上げたギルドじゃ! お主にサブマスの席を譲る理由がどこにある!!」
「理由はあるじゃねぇか。このヘタレは対人戦でなんの役にも立たないんだ。指揮能力がある訳でもない。はっきり言ってギルマスに寄生しているだけのお荷物だろうが」
リンスはあまり人と争うことを好まぬ性格じゃった。モンスターとの戦いならまだしも、対人戦などには全く適性がなかったのじゃ。
じゃから貢献派閥の奴らからは舐められとったし、日に日に態度が悪くなっておった。特に派閥のリーダーであるギースという名の男は、事あるごとにリンスに絡むようになっていった。
「お主ら、いい加減にせぬと……ギルマス権限で貢献派閥の者全員を強制脱退とするぞ」
「……そう怒るなよ。ちょっと提案してただけじゃねぇか、な?」
その時はギルマス権限をチラつかせることで事なきを得たのじゃが……今思えば、その時にチラつかせるだけではなく、すぐに脱退させるべきじゃった。
「リンス、大丈夫じゃったか?」
「……うん、ありがと。……なんだかギルドが変な感じになってきたね」
「すまぬ。わっちがちゃんと手綱を握っておらんかったせいじゃ。前のような雰囲気に戻すために対策を練ろう」
「うん、勿論私も協力するよ。……でも今日はもう疲れちゃったから、ここで落ちるね」
「うむ、お疲れ様なのじゃ」
それからわっちは、ギルド内での貢献思想やギルドメンバーへの悪質な態度にペナルティを儲けて、酷い者には脱退処分を下すルールを設けた。
最初の内はそれで上手くギルドが回りだしておって、ギルドの雰囲気も少しずつじゃが戻っていったのじゃ。……じゃから、わっちは油断しておった。
……
…………
………………
「なんじゃこれは?」
それは、わっちが仕事で1日ログイン出来なんだ日の翌日のことじゃった。
その日ログインすると、まずリンスからのメールに気が付いた。開くとそこには「ごめん」と一言だけ書かれておって、他には何も書かれておらんかった。
次に気付いたのはギルド運営の変更通知。そこには、貢献派閥のリーダーであるギースがサブマスになったことと……リンスのギルド脱退が書かれておった。
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