41. ハイテイマーズ

 わっちは昔から動物が好きでの、じゃが両親の許しが出ずペットを飼うことは出来なかったのじゃ。それはわっちが社会人になってからも同じで、ペット可のマンションを探すのも大変じゃし、仕事が忙しければ満足に世話をすることも出来ん。まぁ、色々理由があって結局リアルでペットは飼えんかった。

 そんな時に出会ったのがプログレス・オンライン。ゲームPVで動物達と戯れるシーンを見て、これじゃと思ったわっちはすぐに事前予約して、ゲームリリース開始と同時にログインしてすぐにテイマーになったよ。

 自分で言うのもなんじゃが、わっちは要領は良い方での。プログレス・オンラインで初めて行われたテイマーの大会で、優勝を収めることが出来たのじゃ。……そして、そこからわっちのゲーム生活は大きく変わっていった。


「ねぇ、ロコ~。モカさんのレベルが62から伸びないんだけど、もしかしてモカさんだけ謎のレベルキャップ付けられてない?」

「なにを阿呆なことを言っとるんじゃ。お主が通っとる狩場では、1レベル上げるのにも時間が掛かって当然じゃろうが」

「だって、今のモカさんのレベルに合わせた狩場って怖いんだもん。もし何かの間違いで死んじゃったりしたら私立ち直れない」


 当時一番仲の良かったリンスという名のフレンドは、とんでもなく慎重な性格をしておっての。少しでも危険がありそうな狩場には近づかんような育成をしておった。


「あの、ロコさんですよね? この前の大会で優勝していた」

「そうじゃが?」

「やっぱり! ロコさんはまだギルド無所属って聞いたんですけど、もし良かったら僕たちのギルドに入りませんか? ギルド資金は潤沢にあるんでギルドホームも広いですし、設備も結構充実してるんですよ」

「すまぬが、今の所わっちはギルドに入るつもりはないんじゃ」

「そうですか……。でも、もし気が向いたら是非声を掛けて下さい! これ、ギルドの名前です」


 大会に優勝してからは、こういう勧誘がひっきりなしじゃった。ギルドメンバーの1人が大会優勝者というステータスが欲しいのもあるんじゃろうが、それ以上にギルドランキングやギルド対抗戦で良い成績を残して限定賞品を手に入れるためという理由が強かったじゃろう。


「ロコ、いつも断ってるけどいいの? ギルドに入ってた方がより上位の狩場を安全に攻略出来るし、ロコが居ればギルド対抗戦でも結構いい成績残せるんじゃない?」

「対抗戦は1対1の戦いとは違い、多くのメンバーを上手く動かす必要がある。わっちが1人入ったからといって、早々上位入賞は出来んよ。……それにわっちは、ペット達と戯れるためにこのゲームを始めたんじゃ。ランキングだの対抗戦だのと余計なことに煩わされとうない」

「まぁ、そうだよね~。勧誘の人達見てると人間関係とかも面倒臭そうだもん。……けど、メンバー揃えて上位狩場で安全に戦えるのは利点だよね。モカさんのレベル上げもちょっと行き詰ってきたし」


 それは確かに魅力的なメリットではあった。ペットの育成は正に苦行のような難易度で、ペットが高レベルになってくるとレベル上げの相手が強すぎて、常にペットロストの可能性を感じながら緊張の戦いを長期間続けねばならんかった。

 わっちの場合、3体同時に運用で連携して戦うのは得意な方じゃったし、廃課金という暗黒面に落ちていたわっちは装備から高位バフ料理まで揃えて比較的安全に育成出来ておった。じゃが、リンスは不器用であったし微課金派じゃったからリスクのある育成方法は取れんかった。


「……なら、わっちらでギルドを作るかえ?」

「え? でも、いいの? さっき面倒なことに煩わされるのは嫌って言ってたじゃない」

「面倒事は御免じゃが、ペット育成を目的とするギルドにすればそう面倒もあるまい。それに集団の方が行ける狩場が増えて恩恵が多いのも確かじゃしの」


 正直に話すと、わっちはリンスがゲームに飽きて辞めてしまうのが怖かったのじゃ。極力わっちがアシストして上位狩場で育成させることも出来たが、実力の違い的にいつまでも同じ狩場に拘束されるのは、わっちへのデメリットが大きかった。じゃから、リンスの道が絶たれないような環境を作ろうと思ったのじゃ。


「……うん、じゃあギルド立ち上げましょうか! 私、モカさんのために頑張るよ! ちなみにギルド方針はそれでいいとして、ギルド名は何にする? 『テイマーの頂点ロコに集う仲間たち』みたいな?」

「なんじゃその阿呆な名前は。……う~ん、何も思いつかんのぅ。ペットの名前ならすぐに思いつくのじゃが」

「そうだねぇ~。……ハイテイマーズなんてどう?」

「ふむ、悪くないのではないか? ちなみにどういう意図で付けたのじゃ?」

「ふっふっふ。『高位』の『廃人』テイマーロコに集う仲間たちのギルドだからハイテイマーズ!!」


 そんな阿呆な由来の名前をドヤ顔で言い放ったリンスは、それは良い笑顔をしておったよ。

 じゃが、リンスのためを思いリンスの笑顔から始まったこのギルドが……結果的にリンスを傷つけ、わっちらの仲を引き裂くことに成るとは、この時は思いもせなんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る