35. ミシャさんという名の奇術師

「ナツちゃんはテイマーだよね? ナツちゃん自身はどんな戦い方をするのかな?」

「えっと、基本的には両手に短剣を握った双剣スタイルで、あとは白魔法と黒魔法を使います……まだ、どのスキル値も30程度ですけど」

「ふむふむ。一度ペットを見せてもらってもいい?」

「あ、はい。種類はピクシーウルフでレベルは20。名前はレキっていいます」


 そう言って私は右手に着けたサモンリングからレキを具現化させた。


「おお! レアペットの色違いじゃん、凄いね! もしかしてロコっちからのもらい物?」

「いえ、レキとはログイン初日に出会って、そのままペットになってくれました」

「ログイン初日にピクシーウルフの色違いをペットに……そして今ロコっちの弟子。……え、なに? リアルラックカンストしてる人?」

「えっと……カンストしてるかは分かりませんが、凄く幸運なことだとは思ってます……」


 あまりの幸運の連続を改めて認識した私は、少し後ろめたさを感じてもじもじしてしまう。そんな私をミシャさんはまじまじと見て……。


「ロコっち、ナツちゃん凄く可愛いんだけど!? 私に頂戴!!」

「やらぬわ! 阿呆なこと言っとらんで話を進めぬか!!」

「おっと、そうだった、そうだった」


 何となくミシャさんがどういった人なのか分かってきた気がする。

 ミシャさんは改めてレキのこと見て、頭を撫でたり抱きしめたりしだした。レキは特に抵抗することもなく気持ちよさそうにする。……ちょっとだけ嫉妬。


「うんうん、やっぱりピクシーウルフの幼体は可愛いね♪ レキくんはもう何か技を覚えてるの?」

「レベル20でマナシールドを覚えました。レキ、ちょっとマナシールド使ってみて」


 レキはワンっと一吠えしてマナシールドを出現させる。ミシャさんは出現したマナシールドを触ったり、コンコンと叩いたりして感触を確かめているようだった。


「覚えてる技は1つだけと……でもこれ何かに使えそうだね」

「使うってパフォーマンスにですか?」

「そうそう。初期技だったとしても、その特性を熟知すれば使い道はあるものさ♪」

「……そうですね。私もレキのマナシールドには助けられました。もっとこの魔法のことを知れば、可能性は無限大ですね!」

「……ロコっち、やっぱりこの子「やらん!」、そんな食い気味に言わなくてもいいじゃん!」


 冗談だと分かっていても、こういう時どういう顔でいればいいのか分からなくて少しむずむずしてしまう。


「よし、レキくんのことは大体分かったよ。じゃあ次はナツちゃんだね! さ、レキくんは下がらせて思いっきり掛かって来なさい! 先にバフやデバフ魔法とか掛けといてもいいよ」

「は、はい、宜しくお願いします! プロテクション! パワーエンハンス! マインドフォーカス! ……ネガティブリバース・マインドフォーカス!」


 完全な格上相手にMP温存して戦っても意味が無いと考えた私は、普段使う3つの強化魔法とは別に相手の反応速度を下げる弱体化魔法も使った。


 ――短期決戦で一気に攻める!!


 私は魔法を掛け終わった直後に走り出し、一気にミシャさんとの距離を詰めた。そして右手に握りしめた短剣を振りかぶる。

 ちなみに、今回は茨シリーズの物ではなく以前から使っていた短剣を使っている。短期決戦を仕掛けるのに長時間の戦闘を目的とした武器は適していないと思ったからだ。

 ミシャさんに私の刃が迫る。そして刃がミシャさんに当たる寸前……ミシャさんの姿が搔き消えた。


「ふむふむ、度胸は満点花丸だね♪ 防御面はどうかな?」


 そう言ったミシャさんの手にはいつの間にか短めのステッキが握られており、私に向かってフェンシングのように突き出してきた。

 私はそれを必死に避ける。ステッキの動きをよく見て避けたり弾いたり。ミシャさんは満面の笑顔で私を観察していた。


「うんうん、いいねいいね♪ 棒でまっすぐ突かれるのって結構怖いでしょ? それをしっかり見て対処できるのはなかなかだよ」


 まただ、さっきまで握られていたステッキはいつの間にか無くなっていて、その変わりに鞭が握られていた。

 鞭は生き物のように縦横無尽に動き回り、それを武器で弾くのは難しかった。なので私はそれを必死になって避けるが、上手く避けきることが出来ず体のあちこちにピシピシと衝撃が走る。


「トリッキーな動きはまだ苦手っぽいね。でもこれは慣れの問題かな? ナツちゃんならすぐ対処出来るようになりそうな感じがするよ」

「うっ!くっ!……っ!?」


 必死になって迫りくる鞭を避けていると、不意に鞭の応酬が止まり、ミシャさんを注視するとその手には拳銃が握られていた。

 

 ――まずい!


 そう思った私は必至になって横に転がり倒れる。その後パンっという音が鳴ったが上手く避けれたようだ。


「運動神経も反射神経も申し分ないね。勘も中々良さそう。……うん、今度はまたそっちから攻めてきて」


 もう私は息も絶え絶え状態だ。次々に変わる武器に対処するため、いつも以上に集中力を消費してしまっている。私は何度かの深呼吸を経て呼吸と意識を整え、武器を構えて初撃と同様に一気に距離を詰めた。

 ミシャさんは特に構えることもなく棒立ち状態だ。私は少し身を低くし、ミシャさんの足に向かってスパイラルエッジを放つ。すると……カンっという音と共に私の短剣が弾かれた。


「!?」

「さぁさぁ、遠慮することはないよ。じゃんじゃん攻撃しておいで♪」


 先ほどまで握られていた拳銃は姿を消し、両手には黒い金属製の籠手が着けられていた。その籠手で私の短剣が弾かれてしまったのだ。

 

「っ! フラッシュビジョン!!」


 フラッシュビジョン、短剣スキル30で使えるその技能の効果は『3秒間だけ反応速度と機動力の上昇』。

 私はあらん限りの力を使って連続でミシャさんを切り付ける。しかしその斬撃は弾かれ、躱され、最後の一撃の時にはまたミシャさんの姿が掻き消えて、いつの間にか後ろに回り込まれていた。


「うん、ここまでかな。戦い方はまだまだだね。ちょっと素直過ぎるよ。……まぁ、経験不足が主な原因だと思うから、ナツちゃんの運動神経ならこれからもっと強くなれると思うよ」

「はぁ、はぁ。ありがとうございました」

「うんうん、素直で宜しい♪」


 文字通り手も足も出なかった。しかも今回はそれが悔しいとも思えない。完膚なきまでの完敗だ。


「よし、じゃあ大会に向けての話し合いをしようか♪」

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