36. ミシャさんの秘策

「よし、じゃあ大会に向けての話し合いをしようか♪」


 先ほどまで戦っていたのにも関わらず、ミシャさんには全く疲れた様子が無い。まぁ、私は終始軽くあしらわれ続けただけなので当たり前なのだが。


「あ、あの。ちょっと聞いてもいいですか?」

「うにゃ? 何だい? ナツちゃん可愛いから、お姉さん何でも答えちゃうよ♪」

「えっと、ミシャさん戦いの最中に何度もノータイムで武装を変えたりしてましたが、あれどうやってたんですか? あと、あれらの武器は全部スキル持ちなんでしょうか?」

「うん……秘密だ!!」


 何でもは答えてくれないようだ。


「此奴は答えてくれぬようじゃし、わっちが代わりに答えよう。まず、武器変更は奇術師専用装備である指輪の効果じゃな」

「あ~、ロコっち酷い! 私の秘密を暴露した! 個人情報保護法違反だぁ!」

「何が酷いじゃ、勿体ぶりおってからに! どうせ答えるつもりじゃったろうが。……それとスキルに関してじゃが、ミシャはパフォーマンスで使える手札を増やすために数多くのスキルを取っておるのよ。まぁ、どれも高レベルまで育てておらぬから戦闘に置いては器用貧乏タイプであまり強くはないがの」

「戦闘面ではボス戦とか高レベルモンスターとの戦いだとあまり役に立てないんだよ。パフォーマーとしては一流なんだけどね♪」


 なんと、あんなに強いと思っていたミシャさんは器用貧乏タイプで、戦闘面ではあまり強くないそうだ。

 詳しく聞いてみると、まずミシャさんが両手に着けている指輪の数々は奇術スキル60以上でないと使えないアイテムであり、その効果は『事前に設定された装備の着脱』という物でパフォーマンスに大いに役立つ装備なのだそうだ。

 そしてスキル構成に関してなのだが、これはロコさんが言われるようにパフォーマンスで使うために数多くのスキルを20~60程度で取り揃えており、格下相手には様々な搦め手で完封することが出来るが、高レベルモンスターなどには全く歯が立たないらしい。


「さてさて、他には何か質問はあるかな?」

「えっと、ミシャさん戦いの最中に何度か姿が消えた時があったんですが、あれって何かの技能なんですか?」

「あぁ、あれね! うん、あれは奇術スキルの技能だね。『1秒間の視覚位置情報をズラす』って効果だよ♪」

「そんな技能があるんですね……あれ? 戦闘中に技能名とか唱えてましたっけ?」

「うんにゃ、唱えてないよ。奇術スキルといくつかのスキルを規定値まで上げて、尚且つ専用消費アイテムを使うことで手に入るパッシブバフ【口術師】の効果で、魔法以外の技能は唱えなくても使えるようになっているのさ♪」


 そんな便利な物があるなんて、戦闘では必須級ではないかと思ったが、規定スキルの縛りが厳しいので『総スキル値が上がると次のスキル値を上げる難易度が高くなる』という仕様上、純粋な戦闘職はそのパッシブバフを得るためだけに戦闘に必要ないスキルを上げることはしないそうだ。


「さ、話はここまでにして、早速かくし芸大会について話し合おうじゃないか!」

「は、はい。宜しくお願いします」


 先ほどの戦いではいい所を何も見せられなかったため、ミシャさんからどんな評価を受けているのか知るのが少し怖い。けれど、同時に一流のパフォーマーからどんな評価を受けているのか気にもなっている。


「まず大前提として……今のナツちゃんはパフォーマーとして優勝するのはまず無理だね。リアルでバレエやフィギアスケートとか何か習い事をしているのであれば、ステータスが低くてもやりようはあったけど、体の使い方的にそういった物はなさそうだしね」


 分かっていたことではあるけれど、しょっぱなからぶった切られてしまった。……思い返せばロコさんやギンジさんからの適性検査の時もぶった切られてたなぁ、私。


「そうですか……でも、それが知れただけでも良かったです」

「いやいや、話は終わって無いよ? 確かにパフォーマーとして優勝は無理そうなんだけど、そんなナツちゃんに朗報が2つあるのだよ♪」

「朗報ですか?」


 その言葉に下がった目線がクイっと上がり、ミシャさんの顔を注視する。


「まず1つ目は……あのかくし芸大会、1位2位の上位入賞者は基本翌年からは大会に出ないのさ♪」

「そうなんですか? えっと、大会規定でそういうのありましたっけ?」

「いんや、規定ではないけど暗黙のルールではあるのさ。1位2位になった人は後続のために大会からは退き、パフォーマーとして活動したい場合は自分で集客してイベントを起こすようにしないといけないんだよ」

「そうだったんですね。去年の大会の動画を見たあとなんで、あの人達が出てないってだけでも少し安心しちゃいますね」


 あの動画で見た上位入賞者達のパフォーマンスは本当に圧巻のクオリティだったのだ。勿論、それ以外の人達も凄かったのだが、やはり上位の人達と比べると一段下がる印象だった。


「そして2つ目の朗報はね……ふふん、ナツちゃんが相談した相手はそんじょそこらのパフォーマーではないってことだよ♪ 私に秘策ありさ!!」


 ミシャさんはそう言って会心の笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る