34. 類は友を呼ぶ・・・つまりガチ勢は

「ほほぅ、つまり【かくし芸大会】で優勝したい訳じゃな」


 頼れる師匠ことロコさんに相談してみようと決めた翌日、早速メールを打つとすぐに返信が送られてきて私のプライベートエリアで話を聞いてくれることになった。


「いえ、その、優勝は出来たらしたいと思ってるんですけど、正直無理だろうなという気持ちもあって。ただ、このゲームを始めて日が浅い私じゃなくてロコさんから見たら可能性の有無ってどうなんだろうなって……」

「ふ~む……ナツよ」

「は、はい!」

「お主は何故今そんなにも卑屈になっておるのじゃ? 別にイベントに出たいと言うのも勝ちたいと言うのも、ましてやプレイヤーとしてレアアイテムを欲しいと言うのも悪いことではないじゃろう」

「そうなんですが……何と言うか、凄い人達の中に私がポツンと出ても場違い感が凄くて気後れしてしまって」

「まぁ、それは分からんでもないんじゃが。……じゃが忘れてはいかんぞ。これはゲームじゃ。ゲームなんじゃから憚らずに挑戦し、楽しんだ方が良い。リアルで体験出来ないことをここで体験せんと勿体無かろう?」


 私はその言葉を聞いてパチクリと瞬きした。

 確かにそうだ。ここはゲームの中なのだ。現実では尻込みしてしまう様なことでも、ここでなら一歩前に出て楽しむことが出来る。いや、楽しまないと勿体ないではないか。


「確かにそうですね。もし失敗してもゲームの中ならそんなダメージなんて残りませんもんね!」

「うむ、そうじゃ。せっかくのリアルな体験が出来る仮想世界なのじゃ。リアルでは出来んことをやって楽しまねば損というものよ」


 我ながら単純な性格をしていると思う。さっきまでゲーム歴の浅い私が大会に出て、更には優勝を目指そうなんておこがましくて失笑されるのではないかとビクビクしていたのに、ロコさんの言葉を聞いた今はやる気に燃えてしまっている。


「でじゃ、正直に言うとかくし芸大会はわっちも詳しくないんじゃ。そこでの、わっちの知り合いに過去その大会で優勝した者がおるから、其奴に相談してみてはどうかの?」

「え!ロコさんのお知り合いの方にかくし芸大会優勝者がいるんですか!?」

「うむ。その後は大会に出ず、個人でイベントを開きパフォーマンスを披露しておるよ。どうじゃ? もしその気があるなら連絡を取ってみるが」

「……お願いします。その方に私がどう映るか知りたいです!」


 ロコさんは私の言葉に大きく頷き、そのお知り合いの方に連絡を入れてくれた。すると、今時間があるとのことで今から会えると返信がすぐに来た。


「これは丁度良かったのぅ。うむ、ある程度動ける場所が良いから待ち合わせは冒険者組合の訓練場にするかの」

「あの、そんな凄い人に時間を取ってもらうので、何かしら報酬を渡した方が良いでしょうか?」

「う~む、まぁ大丈夫じゃろ。そんなせこせこした性格でもないし……実際にパフォーマンスを見に行って料金を払った方が本人も嬉しかろう」

「分かりました。後日その方のパフォーマンスイベントに行ってみます」


 そして待ち合わせ時間と場所を相手に伝えて、待ち合わせ時間15分前に着くようにロコさんと2人で訓練場へと向かった。


「やはり、先に着いておったか。久しぶりじゃのう、ミシャ」

「おお、ロコっちも久しぶり! あからさまに構わないでオーラだしてたロコっちから突然連絡が来るんだもん。驚いちゃったよ!」

「……あの時はあまり余裕が無かったんじゃよ。すまぬな、心配してくれておったのに」

「うん、いいよ。ロコっちの事情も分かるしさ」


 なんだろう……凄く気になる。けど、多分これは安易に突っ込むべきじゃない話だと思うので、私は聞き流しておいた方がいいだろう。


「それで? その子がかくし芸大会に出てみたいって言ってる新人さん?」

「そうじゃ、今回の優勝賞品に興味があっての。そちにこの子を見て欲しいのじゃ。……おっと、その前に紹介じゃな! ミシャ、この子はわっちの弟子のナツじゃ。ナツ、この者が先ほど説明したパフォーマーのミシャじゃ」

「あ、あの、ナツです! 今日は時間を作って頂きありがとうございました! それと、私からのお願いなのに待たせてしまったみたいで、ごめんなさい!」

「ん? いやいや、全然気にしないで! 私は皆にサービスを提供するのがお仕事だからね。待ち合わせ時間には必ず先に着くように心がけているのさ♪ 私はミシャ、一応プログレス・オンラインでプロのパフォーマーを名乗らせてもらってるよ」


 そういってカラカラと笑う様は、正に太陽のような雰囲気の女性だった。

 見た目は小麦色の短髪に猫耳が付いており、頭には黒のシルクハット。両手には様々な指輪が着けられており、服は男性用のマジシャンのような服装だったが、ミシャさんにはそれがとても良く似合っていた。


「それじゃ早速、本題に入ろうじゃないか。ナツちゃんはかくし芸大会で優勝が目標なんだね?」

「はい、あ、いえ。……まずは私が優勝を目標に出来るのか意見を聞きたいと思っていて」

「ふむふむ、りょ~かい! ……じゃあ、まずは戦おっか♪」

「……へ?」

「私はナツちゃんが今何が出来るのか知らないからね。スキルや人となりを見るには戦うのが一番さ♪」


 ――ああ、そうか。そういえばミシャさんもロコさん一推しのフレンドだったんだ。つまりギンジさんと同じ……。


 ガチ勢から物を教わる際の通過儀礼が、今から始まるのだということを私は静かに悟った。

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