33. 2匹目のペットを求めて

「レキ~。レキは私の癒しだよぉ~」


 今日はとにかく濃い1日だった。

 装備を新調しようとルビィさんのお店に訪ねたら、何だかコンセプト増し増しのロールプレイ装備になることが決まっちゃうし。枷の更新のためにギンジさんと会ったら、デバフが重くなるし、とんでもなく凄い短剣を貸してもらえることになったし、正式に師匠が1人増えるし。

 概ね大幅なプラスとなった1日だったが、とにかく濃い1日だった。色々あり過ぎて疲れ果て、もはやレキの癒し無しでは何のやる気も起きないレベルだ。

 

 ちなみに今私は調教スキル30の技能である『ヴィタリティリフュージョン』を発動させてレキに抱き着いている。『ヴィタリティリフュージョン』とは自身のペットを抱きしめて動かないでいると、動かない間だけお互いのHP・MP・スタミナの自然回復量を合算した数値をお互いのHP・MP・スタミナそれぞれの自然回復量とする効果となっている。

 まぁ、ぶっちゃけHP・MP・スタミナが満タンの状態だと何の意味もない技能なのだが、使っていると心の癒し効果が増してるような気持ちになるので使っている。レキも私の疲れ具合を察してなのか、とくに抵抗することなくぬいぐるみ状態だ。本当に賢い犬である。

 レキが無抵抗なのをいいことにレキをモフモフムニムニしていると、不意にフレンドメールの着信音がなった。


「あ、ロコさんからだ。えっと、なになに……『今日言い忘れておったが、お主の調教レベルも30を超えたことじゃし、ぼちぼち2匹目のペットを考えてみてはどうかの? 多頭飼いには利点も多く、調教スキル上げにも効果的じゃ。どんなペットが良いかだけでも今のうちに考えておくといい』、か」


 確かに今後の戦いを考えると、もうそろそろ2匹目を考えてみてもいいかもしれない。

 プログレス・オンラインのスキルは基本的にそのスキルに準じた行動や技能を使った際に経験値が入って成長していく。けれど調教スキルはそこが他のスキルと比べて少し特殊で、『調教関連の行動』+『ペットが得た経験値』が調教スキルの経験値になるのだ。

 更に調教スキルは成長させるために必要な経験値量が加速度的に増えていくため、必然的に複数のペットを同時に育てて大量の経験値を得る必要が出てくるのである。


「レキ、新しいペットのお友達……同僚? とか欲しい?」

「ワフッ♪」

「う~ん、これは理解出来ているのかどうか怪しい感じだなぁ。……でも、いずれは増やさないといけないし、今のうちに調べておくのはいいかもね」


 そう結論付けた私は、ゲームからログアウトして早速プログレス・オンラインのペット情報を調べることにした。


「もし新しいペットを増やすのなら、今の私たちに足りないところを補う子がいいよね」


 私たちに今不足しているところ、まず真っ先に思いつくのは攻撃力だ。私は常時筋力低下のデバフ状態で、尚且つ武器も時間経過で強くなるとは言え基礎攻撃力は初期装備並み。レキはサポート型のペットで攻撃手段は噛みつきと引っ掻きのみしかなく、今後どんなにレベルを上げても攻撃技を覚えることは無い。

 次に思いつくのは遠距離攻撃の手段だ。ロコさんの適性検査で私に遠距離攻撃の才能が無いことは判明したので、今の所は近接戦闘に特化した戦い方にしている。勿論レキにも遠距離攻撃手段はない。


「遠距離攻撃による火力増加かぁ、後ろから強い魔法をバンバン打ってくれるペットとかいたら最高だろうな~。……ん?」


 インターネットでペット情報を漁っていると、1つの公式イベント情報に目が留まった。

 それは1年に1回行われているらしい【かくし芸大会】のイベント告知で、1~3位までには自分がエントリーした際の申請した職業に合わせた景品が貰えるらしい。そしてテイマーの1位で貰える賞品が『可能性の卵』というアイテムで……なんとこの卵、『どんなペットの卵にするか選べる』のである!!

 流石に限定ペットや課金ペットは選べないようだが、それ以外のペットであればどんな種類でも設定できるというテイマーなら喉から手が出る程欲しいアイテムなのだ。


「これは……出るしかない!!」


 そう決意した私は、早速動画サイトで去年の【かくし芸大会】の動画を探した。プログレス・オンラインは世界的にも有名なゲームであるため、動画サイトで探せば大抵すぐ見つかるのが強みだ。

 そうして見つかった去年の動画を見た私は……撃沈した。


 ――レベルが違い過ぎる。何なのこの人達、絶対本職で何かやってる人でしょ……。


 動画内で繰り広げられるかくし芸は圧巻のクオリティだった。

 

 ・ゲーム内オブジェクトの叩いた際の音の違いを利用した音楽パフォーマンス

 ・様々な技能をつなぎ合わせてアクロバティックな動きを見せつけるパフォーマー

 ・攻撃技能と食材を使った前衛アート

 ・もはや何をやっているのか分からない空中高速クッキング


「無理、こんな人達が競い合ってる中で、ちんちくりんな小娘が1人お遊戯してるなんて……確実に恥ずか死ぬ」


 確実に無理だとは思っていても魅力的過ぎる賞品を諦めきれない私は……いちるの望みを抱いて偉大な師匠に相談してみることにした。

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