27. 死闘
涙が溢れ出て、迫りくるゾンビを眺めながら私の思考は真っ白に染まっていった。突然の急展開にどうすれば良いのか、何を考えればいいのか分からなくなってしまっていたのだ。
そんな中で私は1つの引っかかりを感じる。この多数からの一方的な理不尽に覚えがある……あぁ、これは私が学校へ行けなくなった原因の日とそっくりだ。
一方的に断じられ、責め立てられる。理不尽。そう、あの時も今も一方的な理不尽に晒されている。……ならば。
「レキ、今日はこんな感じになっちゃったけど、明日もまた一緒に遊ぼうね」
そう言って私は立ち上がり、レキに触れサモンリングへと戻す。
――レキだけでも守らないとね。あの日の私は、レキと私の大切な時間を否定したあいつ等に反論もせず逃げちゃったから……。
「今の私は1人じゃないんだから。無抵抗でやられてやるつもりなんて一切無い!!」
このあまりの理不尽さと抵抗もせずに逃げてしまった過去の記憶により、私は逆に吹っ切れた。そして……キレた。
真っ白に染まりつつあった思考が今度は真っ赤に染まっていく。レキとの楽しい時間を壊したこいつらを絶対に許さない。1体でも多く道連れにしてやる。そんな想いに思考が染められていく。
そんな時にヒュンッと音を立てて矢が飛んでくる。矢はギリギリ肩を掠めながらも私はそれをなんとか避ける。
――私は何をすればいい? ……体が重い、枷が邪魔だ。
私は矢を警戒しながら少しずつ後退し、素早くシステムウィンドウを出して両手両足の枷を外す。これで常時発動していた『筋力低下』『機動力低下』のデバフが無くなる。顔のタトゥーには最大HP3割減というデメリットがあるが、MP自然回復量アップというメリットもあるのでそのままだ。
「プロテクション! パワーエンハンス! マインドフォーカス!」
プロテクション:対象の防御力上昇。
パワーエンハンス:対象の攻撃力を上昇。
マインドフォーカス:対象の反応速度上昇。
白魔法スキルを30まで上げたことによって扱えるようになった強化魔法だ。これで残りMPは3割を切ってしまったが、生き残れる時間は増えたはず。
私は3体のゾンビの方へと走り出し、1体を軽く切り付けたところで別のゾンビの攻撃モーションに気付き素早く後退する。
――やっぱりこのゾンビ達は動きが遅い、数は多いけど猿2匹を相手にするよりましだ。
そう確信した私はヒット&アウェイで少しずつ削っていく戦法で戦う事を選択した。だが、3体のゾンビに集中し過ぎてしまったがためにもう1体の存在を意識から外してしまっていた。
ヒュンッという音と共に意識外からやってきた矢が脇腹へと突き刺さる。その衝撃に怯み、動きを止めてしまった私にゾンビ達が殴りかかってくる。
「くっ! このっ!!」
私はそれを後方に倒れ込むことによってなんとか回避し、素早く起き上がりつつ距離を離した。
――観察。観察。観察。近接ゾンビは無理に攻めずにまずは攻撃モーションとパターンを覚える! そして絶対に囲まれない! 弓ゾンビも意識して絶対に背中は見せない! ……忙しすぎ!!
そのあまりの逆境に辟易しながら、今できることに集中する。絶対に集中は切らさない……1体でも多く道連れにするために。
……
…………
………………
「はぁ、はぁ、はぁ」
もうどれくらい戦ってるのだろう。30分?1時間?……集中し過ぎて時間の感覚が無くなって来た。
いまだに敵は1体も倒せていない。単体での攻撃速度は遅くても3体まとめてとなると避けながら隙を狙うのが大変で、しかも定期的に矢が飛んでくるので目の前のゾンビだけに集中する事も出来ない。このままでは1体も倒せず私が死ぬ。
相手のステータスを下げるデバフ魔法ももっているが、定期的なバフを自分に掛け直しているのでMPがそちらに回らない。戦闘に役立つアイテムなんて物も持ってない。決め手がない。
刻一刻と自分の最後が近づいていることを肌で感じながら焦りばかりが募っていく。そんな時に1つ目のリミットがやってきた。
「えっ、体が動かない? ……スタミナ!?」
武器攻撃の技能を使っていなかったのでスタミナ消費は少なかったのだが、それでも長い時間動き回ればスタミナは減っていき、いずれ切れる。戦闘に集中し過ぎるあまり私は自分のスタミナの管理を怠っていたのだ。
その隙を見逃さないとばかりに矢が飛んでくる。この軌道は頭にクリティカルだろう。けれどスタミナ切れの所為で倦怠感が酷く、避けられない。
――あぁ、終わっちゃった。結局1体も倒せなかったな。……今度は絶対に一矢報いてやるって思ってたのに。
そのどうしようもない状況に、もう駄目だと諦めの表情を浮かべる。……けれど、そこで事態が動いた。右手に着けられたサモンリングが突然輝きだし、レキが具現化されたのだ。
通常、ペットはテイマーの命令によってサモンリング化したり具現化するはずで、勝手に具現化する現象を私は知らなかった。
「レキ、駄目! 戻って!!」
「ワオーン!!」
迫る矢にレキがロストする様を幻視し、焦りながらもサモンリングに再度戻すためにレキへと手を伸ばす。だが手が触れる前に、目の前で起きたことに驚き手が止まった。
それは半透明の盾だった。レキが吠えると目の前に半透明の盾が突然出現し、迫る矢を弾いてしまったのだ。
「これは……そうだ、マナシールド!!」
この現象を私は知っている。というか調べていた。
レキをペットとして迎えた日の夜、私は嬉しくてピクシーウルフについてネットで調べていた。
ペットには様々なタイプがある。魔法攻撃型、高速物理攻撃型、回復型などなど、そしてピクシーウルフとは”サポート型”だった。
レベルが上がることによって仲間を支援するための魔法を覚えていく。そして先ほどの魔法はレベル20で覚える『マナシールド』。
――これなら……やれる!!
だいたい覚えた近接ゾンビ達の攻撃パターン。私が使える白魔法。そしてレキのマナシールド。私は笑みを浮かべ、これまで防戦一方だった鬱憤と反撃するためのピースが揃ったことへの喜びで心が沸き上がった。
さぁ、反撃の時だ。
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