16. つまりバカってことですか?

 私は今、冒険者組合の施設内にある訓練場にいます。

 何故かって?……魔王と会うためです。

 今日はロコさんの『武芸に特化したフレンド』とこの訓練場で待ち合わせることになっていて、私は恐い人というか強面の人はあまり得意ではないので、いったいどんな人が来るのかと戦々恐々としていて正直めちゃビビッてます。どのくらいビビッてるかというと頭の中でのモノローグが敬語になってしまっているぐらいビビッてます。


 と、そんなチワワ状態で待ち合わせ場所に佇んでいると、訓練場の入り口の方からロコさんともう一人……半裸のおっさんが入って来た。もう一度言おう、半裸のおっさんだ。

 一応、袴の上下着ているのだけれど、上部分は完全に脱いで腰から垂れ下げている。そして発達した上半身の筋肉と無精ひげを生やした顔には入れ墨が彫られていて、遠目から見てもかなり目立つ人物だ。

 でも何故だろう、『半裸』『ごつい筋肉』『上半身と顔に目立つ入れ墨』と怖い要素テンコ盛りなんだけど、全然怖いって感じがしない。どちらかと言うと気のいいおじさんって印象を受ける。


「ナツ、遅くなってすまんのう。この阿呆がダンジョンからなかなか戻って来んかったから、迎えにいっていたら遅くなってしもうた」

「いえ、遅れたと言ってもほんの少しですから全然です!」

「いやぁ、本当にすまねぇな。そこのダンジョンが思った以上に混んでて、予想外のボスのリポップ待ちに時間が掛かっちまってな」

「この阿呆! あそこは混みやすいのじゃから、待ち合わせ前に行くような所じゃなかろうが!」


 ロコさんとそのおじさんとの仲良さげなやり取りを見て、やっぱり怖い人じゃなかったと安心した。ただ、ゲームと分かっていても普段男性の裸体など見る機会は無いので、どうしても上半身の筋肉に目が行ってしまいそうになり、少し目のやり場に困る。


「それじゃあ、まずは挨拶からだな。俺の名前はギンジ。武器関連の武術スキルは粗方カンストしているから武術関係の相談があったら、気軽に相談してくれ」

「粗方って、そんなこと出来るんすか!? 武術スキルって武器関連だけでも確か20以上ありましたよね? 合計スキル値が高いとそれだけスキルの上がり方が遅くなるって聞いたんですけど……」

「まぁ、根気と根性だな。あとは武術系スキルの効率的な上げ方を研究していけば何とかなる」

「こら、適当なことを言うな。ナツよ、此奴の言うことは話半分に聞いておけ。此奴の言う根気と根性は常軌を逸しておるし、今言った効率的な武術スキルの上げ方なんぞは普通ソロで倒せないモンスターを6時間以上掛けて倒すようなやり方じゃ。現に武器スキルを全てカンストさせておる者は他に居らぬし、参考にはならん」

 

 前言撤回、やっぱりこの人は怖い人でした。

 私は笑顔を引きつらせながら、まずは私も自己紹介しなきゃと口を開ける。


「えっと、今日は宜しくお願いします。私はナツって言います。まだまだ初心者テイマーで、今はロコさんに弟子入りして色々教えて貰っているところです」

「おう、ナツ宜しくな。それにしてもロコに弟子入りとはラッキーじゃねぇか。テイマー界の頂点には弟子入りどころか接点すら持てねぇぞ普通」

「テイマー界の頂点……」

「そんな大げさなもんじゃないわ。昔何度かテイマーの大会で優勝したことがあるぐらいで、今は半分隠居テイマーみたいなもんじゃからの」


 そうだろうなとは思っていたけど、やっぱりロコさんは凄いテイマーだったらしい。

 そんな人が私のために時間を作って色々教えてくれたり、この前なんて手料理をご馳走になってしまった。……ヤバい、ほんと頑張って早く成果を出さないと!?


「そんじゃま、まずはナツにどんな適性があるのかチャチャっと調べますか」

「適性を調べるって具体的にどんなことをするんですか?」

「魔法適性に関しては専門外だからロコに任せるが、武術に関しては俺が今から色んな武器で攻撃するから必死に避けろ」

「……はい?」

「大丈夫だ。ロコは回復魔法のエキスパートだから何度死にかけても問題ねぇ」


 その後、まずはロコさんからの魔法適性のチェックを受けた。

 内容としてはランダムに指定された秒数間隔でキャッチボールという物で、これで私にクールタイム管理の適性や遠距離攻撃に必要な性格適性があるか分かるらしい。

 10分ほどのキャッチボールでロコさんからの適性検査は終えたのだが、ロコさんの顔が何だか難しい物になっていることがかなり気になる。

 そしてギンジさんの適性検査は……まさに地獄だった。


「ぐへっ! あ、あの、これって本当に適性を調べてるだけなんですよね!? 初心者をいたぶりたいとか、そんな意図は無いんですよね!?」

「ああ、俺にそんな趣味はねぇから安心しろ。これは武器特有の間合いを感じとれるかと、徹底的に追い込まれた時にどんな動きを出来るかを調べてるだけだ」

「徹底的に追い詰めないで下さい! もっと緩めに追い詰めて下さいよ!!」

「いや、ナツよ。それはそれで辛そうなのじゃが」


 ロコのツッコミを受けながらも、私は徹底的にギンジさんから様々な武器で滅多打ちにされた。

 ただ、どうもギンジさんは攻撃力を下げるデバフ受けて、更に攻撃力の殆どない訓練用の武器を使っているようでダメージ自体はそこまで大きくない。ただ、打たれる度に衝撃はあるので、ベコベコに叩かれたり足払いされて転ばされると結構辛いものがある。

 そんな地獄が1時間程続いて、意識が薄くなってぽわぽわしてきた頃、やっとこの適性検査を終えた。私が地面にへばり付いて息を荒くしている間に、ロコさんとギンジさんが何か話し合っているようだった。


「さて、ナツよ。ギンジと意見のすり合わせが終わり、暫定的に適性が判明したのじゃが……まずは結果だけを簡潔に伝えよう」

「まず、お主に遠距離攻撃の才能は無い。せっかちで堪え性が無い故に、耐えて攻撃タイミングを見計らう必要がある遠距離魔法や弓矢等は難しいじゃろう」


 ――ですよね~。適性検査後のロコさんの顔を見て察してました。


「次は俺だな。まず負けん気と根性はある。次に、武器適性だが……長物や刀剣、あとは癖があって使うのに頭を使うような武器は無理だな」

「だが、意外とフットワークは軽いし小回りも利く。クールタイム管理の問題で複数の技能を使いこなすのには苦労しそうだが、使う技能を絞って短剣の通常攻撃メインでガンガン攻める立ち回りは合ってると思うぞ。あとは足技なんかも組み合わせるのもありだ」


 色々言われているが、それはつまり。


「せっかちで堪え性が無く、クールタイム管理が出来ず、頭を使う武器に適性が無い。そして複数の技能を使い分けるのも難しそうだから短剣の通常攻撃をメインにガンガン攻めろと……つまり私はバカってことですか?」

「あっはっは、まぁ、平たく言うとそういうことだな!」

「ギンジっ、馬鹿はお前じゃ!! ナツよ、別にお主の頭に問題があるということではないぞ!? そう、お主は純粋なのじゃ! 色々と小難しく考えるのではなく、思うがままに突っ込むのが得意という才能なのじゃ!!」


 大笑いするギンジさんの頭をスパンと叩き、ロコさんが必死にフォローをしてくれている。

 でもロコさん……それフォローになってないよ。

 知られざる自分の真実を目の当たりにし、とうとう苦笑いすら出来なくなってしまった。

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