15. 私の師匠がボスよりボスっぽい件

「お、ラッキーじゃな。こやつはオーガエリートと言って、ここらで確率ポップするレアモンスターじゃ。立ち位置的には特殊ボスじゃな」


 ロコさんが落ち着いた様子で話しかけてくるが、私はそれどころではない。リアルでは絶対に遭遇する事は無い巨大な鬼の出現に、私は頭が真っ白になって足がガクガクと震えだした。プログレス・オンラインの感情読み取り機能は今日も絶好調のようだ。


「そう怖がらんでも良い。ボスと言っても所詮レベル48程度、白亜にとっては雑魚モンスターのうちの一匹でしかない。それにこの程度であればわっち一人でも、ほれ」


 そう言うとロコさんはインベントリから自身の身長より長い杖を取り出すと、おもむろにオーガの足を払った。

 たったそれだけで、あの巨体がズルっと滑ってドシンっと大きな音を立てて倒れ込む。もう非現実的過ぎて訳が分からない……ゲームなので非現実で当たり前なのだが。

 

「さて話を戻すが、先ほどは遠距離型の戦い方を少し見せたのじゃが。あれは完全支援型よりヘイト管理やクールタイム管理が面倒での。それでもまだ楽な方じゃ」

「で、今から見せるのは近距離型共闘テイマーじゃな。使う戦闘スキルによっては手数も多いし火力も高い。更には自身が敵のヘイトを買って避けタンクとして動き、その隙に高レベルペットのドキツイ一撃を食らわせる事も出来る」

「その変わり、遠距離型以上にヘイト管理やクールタイム管理、あとは近距離武器特有の立ち回りもせねばならんから大変じゃ」


 ロコさんは何でもないように話し、右へ左へ舞うように動きながら手に持つ杖でオーガを小突き回した。白亜もそれに倣うように尻尾を器用に使ってオーガの頭や腕を払い、相手の動きを阻害し続けている。

 あきらかに余裕を持って遊んでいる二人を見て私は唖然とする。ロコさんは杖を持っているが武器を使った技能は使ってないし、白亜に至っては尻尾で相手を払ってるだけだ。本気で戦えば一瞬で終わるのは間違いない。


「さて、もうそろそろ終いで良いかの。ご苦労じゃったなオーガエリート……天牙一線!」


 少し身を屈めた後に技能名を唱え杖を下から上へと振り上げると、スパンっと小気味良い音を立て、その後一瞬の静寂の後にオーガエリートは膝をつき光の粒子へと姿を変えた。


「自分で言うのも何じゃが、わっちは器用な方での。遠距離、近距離、支援魔法にアイテムを使った絡め手まで何でも熟す。ナツは自分の適性に合わせてやりやすいスタイルを確立していくと良いぞ」

「あ、はい。そうですね……私にテイマーが務まればですが……」


 ――どうしよう。ロコさんが強すぎて、もはやボスモンスターに見えて来たよ。


 ロコさんは放心している私に「心配いらん。慣れじゃよ慣れ」と優しく語り掛け、帰り道に出て来た数々の敵を瞬殺して街まで安全にエスコートしてくれた。

 明日は武芸に特化したロコさんのフレンドを呼んで、一緒に私の適性を見てくれるらしい。

 恐ろしいまでの強さを持つロコさんに『武芸に特化した』とまで言わせるフレンドに対して、自然と「そっか、明日は魔王に会うのか」という気持ちになってしまっていたことは無理からぬことだろう。

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