14. 課題の完遂とテイマーの立ち回り

 ロコさんの調理実習を行った日の夜、私はお母さんに料理を教えて欲しいと頼むことにした。


「お母さん、明日から私に料理を教えてくれない?」

「どうしたのよ急に。今まで全然興味持ってなかったじゃない」

「うん、ちょっとぐらい料理も出来てた方がいいかなって思って。それに私、学校に行ってないのに家のこととかずっとお母さんに任せきりだったし」


 これは本当に今更になって気付いたことだった。

 知っての通り私は引きこもりだ。一応勉強はずっとやってきたけど不登校で最近はゲームばかりしている私なのに、家事はお母さんに任せきりなのは流石に駄目だろうということに今更気が付いたのだ。

 今までずっとお母さんが家事をしてくれていて、引きこもるようになってからもそれが続いていて、そのことに疑問を持たなかった。その癖、優しくされることに罪悪感を抱いていたのだから私の馬鹿さ加減に嫌気がする。

 次の日からは掃除洗濯を当番制にして、夕飯は一緒に作ることにした。お母さんもお父さんもそのことをとても喜んでくれて、もっと早くこうするべきだったと改めて思った。

 

 そしてゲーム内では森の浅い所でモンスター狩りと、冒険者組合でアイテム納品の日々を2日程繰り返し、ついにその日が来た。


「ようやったの。これでやっとヒヨッコテイマーの仲間入りじゃ」

「今まではヒヨッコですらなかったんですね」

「勿論じゃ。ペットを持っていても調教スキル10程度で、その他のスキルも軒並み10未満だったお主はテイマーではなく、ペットを飼っているだけの一般人じゃ」

「ひ、酷い!」


 そんな一般人だった私の今のスキルはこんな感じになっている。


 ●基礎スキル

 [筋力:12][体力:12][持久力:13][機動力:6][回避:3]

 ●生産スキル

 [料理:4]

 ●技能スキル

 [調教:17][短剣:12][鑑定:2]


 ……うん、スキル的にはまだまだ一般人と大差ないな。それと地味に鑑定を取ってたりもする(まだ低級のアイテム名しか分からないけど)。

 

「さて、最初の課題はクリアしたからの。今日はテイマーの基本的なスタイルについて実地で説明するのじゃ」

「はい、今日も宜しくお願いします」

「うむうむ、素直なのは良いことなのじゃ。では、まずはわっちの相棒を呼び出すとしよう……白亜、出よ!」


 ロコさんが右手を前に突き出し、白亜というペットを呼び出す。すると手にある指輪が光って白く大きな九尾の狐が飛び出してきた。大きさ的には牛ぐらいの大きさだろうか。

 ちなみに今日はロコさんに護衛されながら森の奥部までやってきている。というのもここぐらいまで来ないと敵が弱すぎてまともに戦闘スタイルを見せることが出来ないらしい。この白亜を見てるとそれも頷けるね。


「白亜、今日は相手を倒すことではなく、相手の攻撃をいなして戦闘を継続させるように戦っておくれ」


 そう言って、森の中を探索していると3匹の狼男と遭遇した。鑑定をやってみたがスキル値が低すぎて失敗してしまった。


「コボルトスカウトが3匹か、攻撃をいなすだけで死んでしまいそうじゃが、まぁ仕方がないの。ナツ、しっかり見ておれ、最初は完全支援型テイマーじゃ」


 そう言うと、ロコさんは白亜にいくつかの魔法を掛け、コボルトスカウトに向かうように指示を出した。


「魔法や技能にはそれぞれ連続で発動出来ないようにクールタイム、つまり待ち時間が設けられておる。そしてこれがなかなか曲者での、クールタイム管理が少し難しいんじゃよ」

「今わっちがやって見せとる立ち回りは、最初にステータス強化の魔法をペットに掛けて、あとは定期的に回復魔法やら強化魔法を掛けなおしとるだけでかなりお手軽じゃ」

「この立ち回りのメリットは、初心者でもお手軽にやれる簡単さとテイマー自身の安全性じゃ。デメリットは使うペットの火力によっては倒すのに時間が掛かることじゃな」


 白亜は九本ある尻尾を器用に使い、コボルト達の攻撃をいなしていく。ロコさんはそんな白亜の後方に控え、定期的に回復魔法や強化魔法を掛けて、その後は眺めているだけだ。確かにこれなら私でも出来るかもしれない。

 しばらくするとロコさんが今までと違う行動を起こす。右手をまっすぐ伸ばし『マジックアロー』と唱えると、虹色の矢が生まれてコボルトへと吸い込まれるように飛んで行った。それを3回繰り返しコボルト達を殲滅する。


「で、この立ち回りに遠距離攻撃を混ぜた遠距離共闘型テイマーがある。攻撃手段としては投擲や弓矢、さっきわっちがやったように魔法もありじゃ。中には回復や強化といったペット支援技能を一切持たずに遠距離攻撃特化でペットと共闘するテイマーもおるの」

「メリットは完全支援型より火力が高い故に戦闘時間を短縮できること。デメリットはさっき言うたようにクールタイム管理が少し難しくなる。そしてモンスターからの敵意、ゲーム的に言うとヘイトじゃな、このヘイトを稼ぎやすい故に敵からの攻撃がテイマーにも飛んできやすい」


 そう言うと、ロコさんは白亜と並んで歩き次の敵を求めて更に森の奥へと向かう。本来なら私がこれるような所じゃないんだけど、安心感が半端ない。

 しばらく歩いていると、森の奥からズシンッズシンッという音と振動と共に何かが近づいてくるのが分かった。


「ひゃっ! え、何!?」


 そうして森の奥から現れたのは巨大な鬼だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る