7. 古参テイマーのロコ

「おっと、そういえばまだ名乗っておらんかったの。わっちの名はロコ、これでもちっとばかし腕に自信のある古参テイマーじゃ」

「あ、はい! 私はナツっていいます」

「ふむ、ナツじゃな。見たところ、ナツはまだログインしたばかりで右も左も分からんじゃろう。珍しい物を見せてくれた礼にいくつかテイマーとしてのレクチャーをしても良いのじゃが、どうかの?」

「えっと、いいんですか? 私何も持ってないのでお礼とかは出来ないですけど……」

「いらん、いらん。新人プレイヤーに手ほどきをしたいのは古参の性みたいなものよ。それにいちいち報酬を要求するほど狭量ではないわ」


 そう言ってロコさんはクカカっと笑い、私にテイマーとして活動するための簡単なレクチャーをしてくれることになった。

 

「さて、特殊テイムが起きたということは調教スキルを持っていると思うのじゃが、それは初回ログイン時の適性検査の特典かの?」

「はい、検査結果でテイマーの資質ありって出て、調教スキル+10とテイムの技能を貰いました」

「他にスキルはもう上げておるのか?」

「いえ、全く」

「そうか、つまりお使いクエストもやってない状態でここまで来たということじゃの、ここらはモンスターが出てくるエリアだというのに無茶するのう」

「え、えへへ……折角テイマーになったので一刻も早くペットが欲しくて」

「ま、それは分からんではないがの。ちなみにナツはプログレス・オンラインのスキルシステムやテイマーについては事前に調べていたりはするかの?」

「いえ、実はこのゲームをやろうと決めたのが昨日で、翌日の今日に機材が届いたので何も予習することなく始めてる状態でして……」

「それはまた思い切りが良いの。うむ、では本当に基礎の部分から説明した方が良さそうじゃ」


 プログレス・オンラインには100項目以上のスキルが存在し、大きく分けると持久力や筋力といった『基礎スキル』、物作りに使う『生産スキル』、そして武術や魔法やその他もろもろの特殊技能を合わせた『技能スキル』になる。

 それぞれのスキル値は最高100まで上げることができ、100まで上げるとカンストボーナスというのが貰えて、基礎攻撃力が上がったり耐久力が上がったりするそうだ。ちなみに調教スキルのカンストボーナスは調教技能の効果上昇(+5%)とのこと。

 

 スキルの上げ方は上げたいスキルに関連した武器や技能を使う必要があり、ここで気を付けなくてはいけないのが無計画に何でもかんでもスキルを取らないことだそうだ。取得している総スキル値によって次にスキル値が上がる難易度が上がるらしく、最初に色々なスキルを上げるとどのスキルも中途半端な数字になってしまって器用貧乏になってしまう。


「と言うことで、ナツの場合はまず調教スキル100と基礎技能として筋力・体力・機動力あたりを、あと自身も前面に出て戦うのであれば持久力・回避もじゃな。あとは自分のテイマーとしてのスタイルに合わせて武術スキルや魔法スキルを上げていくと良いじゃろう」

「テイマーとして戦うのに筋力は必須なんですか?」

「必要じゃな。このゲームではプレイヤーもペットも満腹度というパラメーターをもっておる。この満腹度が減るとステータス減少のデバフが付いて、満腹度0になると動けなくなってしまうのじゃ。……そして自分だけの飲食物だけならまだしもペット用ともなるとそれだけでなかなか重いのじゃよ」


 筋力スキルは武器等で攻撃した際の基礎攻撃力に影響を与えるスキルらしいのだが、それとは別に持てる荷物量を左右するスキルでもあるそうだ。手に入れたアイテムはインベントリの中に格納されて普段は気にしなくていいのだけれど、筋力が少ないとインベントリに入れることが出来る量が少ないため、ペットを何体も育てているとペット用のご飯を持ち歩くだけで他に何も持てなくなるらしい。

 

 調教スキルのテイム以外の技能は、店売りされている物もあれば特定のモンスターを倒してドロップする物もあるらしく、詳しくは攻略wikiで調べて自分に必要な技能を事前に調査しておくことが重要だそうだ。うん、今日の夜にでも早速調べておこう。


「ま、こんな所かの。あとは冒険者組合が出しておるクエストなんかを熟していけば自ずと分かってくるはずじゃ」

「ありがとうございます。これからすることがちょっと見えて来た気がします!」

「うむうむ。そうじゃ、これも何かの縁、良かったらフレンド登録せぬか? もしテイマー関連で困ったことがあれば相談にのるぞ?」


 時間が過ぎるのはあっという間だ。ロコさんに色々教えて貰っていたらもうお別れの時間になってしまったようだ。


 ――折角親切で優しそうな人に出会えたのに、それは何だか寂しいな。


「あ、あの!」

「うむ? 何か分からないことでもあったかの?」

「いえ、そうじゃなくて……無理にとかじゃなくて、ほんとに暇な時で良いのですが、もし良かったらまたテイマーとしてのレクチャーをお願い出来ないでしょうか!!」


 勇気を出して頼み込んでみた。勇気を出し過ぎてちょっと声の音量を間違えてしまって少し恥ずかしいけど、これも頑張った証拠だ。

 もしかしたら私は人の温もりに飢えていたのかもしれない。勿論両親はいつも優しく接してくれているけど、不登校で迷惑を掛けてばかりの私は両親に対して強い罪悪感を抱いてしまっている。だから罪悪感なく人の優しさに触れたことが嬉しくて……手放し辛くなってしまったのかもしれない。


「……うむ、そうじゃな。それも良いかもしれん。今は特に目的もなくぶらぶら過ごしているばかりだったからの、新人育成も古参の務めよ」


 ロコさんは少し悩んだ後、私の申し出を快く受け入れてくれた。

 それから私はロコさんとフレンド登録し、次に会う日時を決めて分かれることになった。

 色々濃い1日だったけど、プログレス・オンラインのプレイ初日はきっとこの先も忘れられない大切な思い出になると思う。

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