6. この出会いは必然
街の正門を出てマップを頼りに歩くこと10分。やっと森へと到着した。ゲームの中だとしても、1年近く引きこもり生活してる私にこの距離を歩くのは中々にきつい。
冒険者組合の人に聞いた話しでは、森に入ってすぐのエリアではモンスターはほぼ出ず、木の実なんかのアイテムを採取するための場所なんだとか。ちなみにお使いクエストの1つにここから指定のアイテムを取ってくるって案件があるらしい。
それとこれは他に無いこのゲームだけの凄い所らしいのだが、このゲームには所謂採取ポイントというのが無い。決められた場所で決められた物しか拾えないのではなく、そこら辺に落ちている石は勿論、木からは実だけでなく葉っぱ,枝,木皮など現実の世界さながらに自由度の高い採取が出来るそうだ。そしてそれらを活かした生産の自由度も異常に高く、思わぬ物から思いもよらぬ物が出来ることも多いそうだ。
私は目についた木の実や正体不明のキノコを採取しながら森の奥へと向かう。今の私に必要なのはモンスターのいる場所だから、モンスターの出ないエリアに長居する必要は無いのだ。
「それにしてもこのゲーム、凄い歩かされるな。行き帰り考えると片道だけでこんな時間掛かるのは面倒だよ」
最近全く歩かない私はぶつぶつと文句を言いながら、ずんずんと森の奥へと向かった。すると視界の端に何かがキラリと光った気がしたのでそちらの方へ目を向ける。
――なんだろう、今絶対何か光ったよね?
森の中で1人というだけも少し不安になっているのに、いきなりワッとモンスターが襲って来たりとかは勘弁してほしい。
私は不安になりながらも、それでも初めてのフルダイブゲームに好奇心を抑えられず、キョロキョロと視線を彷徨わせながら先ほど何か光ったような気がした場所へと向かう。
「はひゃっ!」
……そして盛大にすっ転んだ。
「痛ったぁ、ゲームの中なのに衝撃ちょっと強すぎじゃない? 転んでこれならモンスターからの攻撃ってどれくらいの衝撃があるの?」
「(ガサガサ)」
不意に前方の茂みから植物の擦れる音がして、私の肩がビクっと跳ねる。
――どうしよう……怖くて前が見れない!
ペットを求めて考え無しにここまで突き進んで来たけど、よく考えてみたら私は薄い布製の服と小さなナイフ一本しか持っていない。転んだだけであの衝撃だったのだ、もし噛まれたりしたらどのくらい痛いのか。
ただ、いつまでもこうしている訳にもいかず、確実に何かいる気配を感じながらギギギっと頭を持ち上げ前を見る……そこには空飛ぶ子犬が居た。
キラキラと薄い光の粒子を振りまき、薄いブルーの毛に覆われた小さな体躯にブルーのくりくりした眼、羽は生えていないがしっかりと飛んで少し首を傾げながら私のことを見つめている。
あまりの可愛さに衝撃を受け固まっていると、その子犬は徐々に近づいてきて手を伸ばせば触れられる程の距離まで来たかと思ったら、急に目の前にメッセージウィンドウを表示された。
『ピクシーウルフの幼体をテイムしますか?』
あれ?テイムってこんな感じだっけ?
冒険者組合の人には『攻撃して相手のHPを減らす』→『調教スキルの技能であるテイムを使用』で運が良ければテイム成功って聞いてたんだけど、これは全くの想定外だ。
「ほう、珍しいのぅ。色違いのピクシーウルフの幼体かえ?」
不意に声を掛けられ振り向くと、そこには獣耳と九尾の尻尾を生やした巫女服姿の超絶美人の女性が立っていた……いやホント何これ?
サプライズの連続で私の心臓を止めに掛かっているのか。確かにここはゲームの中なので色んな恰好の人が居るのは当然のことなんだけど、リアルでは絶対に見ることの出来ないであろうレベルの美女が、こんなコスプレをして突然エンカウントするとは夢にも思わなかった。
私がサプライズの波状攻撃に打ちひしがれていると、狐のお姉さんが近づいてきて顔を覗き込んで来た。
「ん? どうした、ラグっておるのかの?」
「ひゃっ! あ、いや、大丈夫です! 私今日が初めてで、可愛い子犬が可愛くて、狐のお姉さんが凄い美人で思考が停止してました!!」
一年近く両親以外と会話をしていなかった所為か、完全に頭がパニック状態になって今自分が何を喋っているのかすら分からなくなっていた。
けれど、狐のお姉さんはそんな私を見てもバカにする様子はなく、優しく微笑みながら話しかけてくれる。
「そうかそうか、今日が初ログインということじゃな。それと初対面で美人と褒められるのは、なかなか気分が良いの♪」
「あ、いえ、はい。……お姉さんは凄い美人です」
喋りながらやっと落ち着いてきて、自分が今何をとち狂って喋っていたのか理解しだすと、とたんに恥ずかしくなって顔から火を噴きそうになった。
「それで、その子はもうテイムしておるのかの?」
「あ、いえ、まだです。今、目の前にメッセージウィンドウでテイムするかって問われてて、ビックリして固まっている所でした」
「ほう、それはラッキーじゃな。モンスターの方から選ばれるタイプの特殊テイムで、それが色違いのピクシーウルフ……しかも今日がログイン初日か」
「あの、どういう意味でしょうか?」
狐のお姉さんの話をまとめるとこういうことだった。
・ピクシーウルフは出現率の低いレアモンスター
・どのモンスターにも色違いが出現するが、その出現率はかなり低い
・調教スキルを持っていると、たまにテイム技能を使わずとも向こうから選ばれてテイム出来ることがある
※その特殊テイムの出現確率は調教スキル値依存のため、スキル値10でこの現象が起きることは凄い奇跡
「公式から情報は出ておらぬが、もしかするとご新規プレイヤーに対する隠しイベント特典なのかもしれぬな」
そんなとんでもない奇跡が起きるわけもないので、恐らくそういうことなのだろう。
私はその意見に納得すると、早速メッセージウィンドウの『はい』のボタンに触れてこのピクシーウルフをテイムすることに。すると今度は名前を決めるようにとメッセージが飛んできた。
「えっと、名前か。……うん、君の名前は『レキ』にするよ」
去年他界した家族であり親友でもあった犬の名前。これはあまりいいことじゃないのかもしれない。でも、私はこの子にこの名前を付けたかった。
名付けが終わり正式な私のペットになると、レキは私の胸まで飛んできて顔をうずめる様にすり寄って来たので、私はそれをそっと抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます