8. ゲームの中だって世知辛い
ロコさんと別れた後は、街のプライベートエリアに戻って夕飯の時間ギリギリまでレキと遊んだ。
レキは子犬特有の柔らかくてふわふわした毛並みをしていて、撫でた時の手触りが最高だった。
肉球は地面を歩いていないからか全然硬くなくて、私が夢中になってぷにぷにしているとレキが私の指をパクっと甘噛みしてきて、それがもう可愛すぎて最高だった。
サイズ的にはゴールデンレトリバーの子犬ぐらいなので抱っこするととても収まりがよく、優しく抱っこしてあげると私の胸に顔を押し付けてきてじゃれてくる姿が可愛すぎて……なんかもう、ほんと最高だった。
そんな感じで時間ギリギリまでレキと戯れていると事前に設定していたアラームが鳴りだし、後ろ髪を引かれる思いでログアウトする。
「それで奈津、プログレス・オンラインはどうだったんだ?」
「うん、凄い面白かったよ。可愛いペットも早速できたし、色々教えてくれる親切な人にも会えた」
「へぇ、良かったじゃない。それなら私とお父さんの分も買って皆で遊んじゃいましょうか♪」
「え! いや、それはちょっと待って。出来れば私がもうちょっとゲームに慣れて強くなってからの方が、案内とか説明とか出来ると思うから」
「あぁ、それでいいと思うよ。折角のゲームだ、父さんたちのことは気にせず思いっきり遊んでおいで。ただ、ゲームばかりじゃなくて勉強も忘れずにね」
家族で夕食を食べている間、今日ゲームで起きたことの話を沢山した。ただ、レキの可愛さの話はしたけれど、その子犬にレキという名前を付けたことは話せなかった。そのことでどう思われるかが少し怖かったからだ。
あと、私は不登校ではあるけれど一応勉強はしてる。このまま中学に行けなかったとしても、勉強が中1で止まってしまえば高校にすらいけなくなってしまうし、勉強していないとその後の生活にもきっと支障が出ると思うからだ。
夕飯の後はノルマ分の勉強をして、寝る前に少しログインしてレキと遊んでから寝ることにした。
それから翌日、待ち合わせ場所である冒険者組合に約束の時間30分前に訪れた。だって、こっちがお願いしたのに待たせる訳にはいかないからね!
ちなみにレキは私の頭の上に乗っかっている。そこが気に入ったのかプライベートエリアを抜けたあとからずっとそこがレキの定位置だ。
「おや、随分早いではないか。待たせてしまったかの?」
「いえ、全然待ってないです! 私も丁度今来た所です」
約束の時間15分前にロコさんが現れ、少しビックリしながらも返事をした。30分前に来た私、本当にグッジョブ!
「うむ、それは良かった。ではナツよ、今日からお主はわっちの弟子として扱う。ビシビシ鍛えて立派なテイマーに鍛え上げるからの」
「あ、はい、えっと、宜しくお願いします……お手柔らかに」
「冗談じゃよ。わっちはのんびりやるのが好きじゃからの、人に教えるのものんびりじゃ」
ロコさんはクカカっと笑い、私の頭を一撫でして冒険者組合へと入っていった。
どうやら、ロコさんは少しレクチャーしてくれるだけじゃなく弟子入りさせてくれるそうだ。私としてはとても有難いし嬉しいことではあるんだけど、本当にただの初心者である私はロコさんに迷惑を掛けてしまわないか少し心配だ。
そんな不安を覚えつつ私は、ロコさんを追いかけて冒険者組合へと入っていった。
「街の施設ではここしか来ていないということだったな? もう知っておるとは思うが、ここではクエストを受けたり、ゲームの進め方についての相談窓口としての役割も担っておる。テイマーは他の職業と比べると金が掛かるでな、ここには頻繁に世話になることになる」
「テイマーってそんなにお金が掛かるんですか? えっと、ペット達のご飯代とかでしょうか?」
「それもあるが、他にも色々じゃよ。詳しくは後で説明するので今は『テイマーは金が掛かる』とだけ覚えておけば良い。それと街の中にある組合は他にもあるが最初のうちに使うのはこの冒険者組合ぐらいかの」
街の中にはいくつかの機能を有した組合があって、プレイヤーは自分の職業に合わせてそれらの組合にお世話になりながらゲームを進めるそうだ。
詳しくはこんな感じ。
冒険者組合:
クエストを熟してお金を得たり、プレイヤーの相談受付も行っている。あとは訓練場もあるらしく、そこではプレイヤー同士で戦うことが出来るそうだ。
商業組合:
プレイヤーの欲しい物や売りたい物をマッチングさせる機能や、定期的にオークションを開いている施設。他にも店を開く際の店舗レンタルや店番NPCの貸し出しなんかもしてくれる。あとはプレイヤー同士の契約を取り仕切る機能もあって、プレイヤー同士やギルド同士の契約はここを通してやるとトラブルが未然に防げるらしい。
生産者組合:
生産者のための設備の貸し出しや販売、あとは生産に必要なアイテムの販売もしてるとのこと。私には関係無さそうな施設だ。
一通りの組合の話を聞いたあとは、冒険者組合でのクエスト受注のやり方や訓練場の使い方を説明してもらい、次にペット用品を扱っている店へと向かった。
「ここで買うのは基本的に餌じゃな。ペットは種類によって食べられる物が違っているからの、食料調達だけでも一苦労なんじゃよ」
「あの、レキには森で拾った木の実とかをあげてたんですが、良かったでしょうか?」
「うむ、ピクシーウルフの場合それでも構わん。そもそも食べられない物なら渡しても食わんからの。じゃが、ここで買った物の方がただ拾った物より味が良いし、満腹度の回復量も多い」
「そうなんですね。うぅ、私まだ500Gしか持ってないからクエストを受けて稼がないと」
「稼ぐためにクエストを受けるのは賛成じゃが、金が掛かるのは餌代だけではないぞ?」
それから聞いた”テイマーの沼”の話には聞いていて気が遠くなった。というのもペットのレベル上げは高レベルになる程とんでもない経験値量が必要で、殆どのテイマーは一時的な取得経験値増加バフアイテムや取得経験値アップ効果のある装備を使っているそうで、それがかなり高価な物らしい。
そして重要なのが、ペットはHPが0になって倒されるとプレイヤーみたいに復活することなくロストすることだ。だからテイマーはペットが死なないようにペット用のステータスアップアイテムや高価な回復アイテム、サポート魔法なんかを取り揃える必要があり、これらもコンスタントに費用が嵩むらしい。
つまり何が言いたいかというと『テイマーはお金が掛かる』ということだ。所持金500Gの私には荷が重いよほんと。
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