第34話 ジョブ:死屍喰い ステータス:人非人
「…おれは、別にあなたでも構わないが、あなたは精霊を召喚できるのですか?」
ウトゥは神父に尋ねた。水を差されて不機嫌になる神父。
「お前に精霊様の御力が与えられるとでも?まさか今日の大聖女のような事が自分に起こるとでも?」
「…おれが用があるのは精霊だけなんでね。ジョブだのスキルだのはどうでもいいんで」
ウトゥの発言が神父にはひどく生意気に感じられた。
「精霊様が現れるかどうかは、日頃のお前の行いと信仰心に依る。まあ、あまり期待しないことだな」
精霊はきまぐれだ。確実に召喚できる保証などない。実際、神父自身の神宝式には現れなかった。自分には現れて当然と言わんばかりの少年のこの態度は、神父にはひどく傲岸不遜に映った。
この神父ももちろん神宝式など茶番だと思っている。金儲けの上手い司教の派閥にいれば多少おこぼれにあずかれる、ただそれだけだ。この目の前の少年の神宝式を妨害するだけで間抜けな男爵夫人が金を払うと言う。こんなおいしい仕事はない。
ただ、思い入れはないが、自分の従事する仕事を馬鹿にされるのも不愉快だ。神父は眼前の少年に嫌がらせをしたくなった。
神父はウトゥに水晶玉を差し出しそれに触れるよう命じ、自分は目を閉じて何やら呪文を唱え始めた。黙ってその言に従うウトゥ。
だが何も起きない。起きるはずがない。なぜならこの神父はそもそも神託鑑定などできないからだ。同僚に教わったうろ覚えの呪文を唱えて、それっぽい雰囲気を演出しているだけだ。
神父は呪文を唱えつつ、ウトゥにどう嫌がらせするか考えていた。
どんなジョブやスキルならこの少年をいたぶれるだろう。そういえばこのガキ、ゴミ山に住んでるんだったな。一生ゴミ拾いでいいだろこんな生意気なガキ。だが、ジョブ:ゴミ拾いじゃそのまんまだな…。どうせこの先俺がコイツを目にすることなどない。思い切りひどいジョブとスキルを与えて溜飲を下げたい。
「そうだ、おまえのジョブは、こじ…」
何か言おうとした瞬間、神父の脳内に直接何者かが命じた。命じられたままその言葉を発声する神父。
「おまえのジョブはスカベンジャー。スキルは
スカベンジャーとは、腐肉を喰らって生きる生物の総称であり、転じてゴミをあさって生計を立てる者を指す。つまりは現在のウトゥの境遇そのものだ。
「スカベンジャー…ゴミ拾い続けろってことですか?」
「いや…いや、よくは分らんが…そういう事ではないようだ。悪食ってスキルから類推すると…死屍喰い、か…」
「死体を食って、生きろ、と?」
神父はその質問には答えなかった。いや、答えられなかった。何者かに囁かれて口をついて出たジョブにスキルだ。ひどい目に合わせてやろうとは思ったが、人非人などというステータスまで与えようなどとは考えていない。つまらない事をしたと申し訳なくさえ思った。
ウトゥは乾いた声で笑うことしかできなかった。いくら何のこだわりもなかったといえど、死屍喰いに人非人か。流石に誰にも言えない。アンナとは雲泥の差だな…。それはともかく、
「結局、精霊も現れなかった、ということですね」
「ああ、そうだ。何だか、すまなかったな…」
あなたのせいではないでしょう、とウトゥはあきらめ気味に神父に言った。目的が精霊召喚による魔力の完全開放だった以上、何のジョブだろうと失敗だ。
意気消沈する二人の様子を見て、ウトゥを蹴っ飛ばした聖騎士が大笑いしている。
「悪食の人非人なんて、つまりは魔物って事かよ、魔物なら遠慮はいらねぇな!」
笑いながら再びウトゥを蹴ろうとする聖騎士。しかし今度はその動きと同時にウトゥが何かを呟くと、騎士の脚に激痛が走って、そのままもんどりうって倒れた。脚を抱えて大声で喚く聖騎士。
「弱者を蹴るしか能のない脚など必要ないだろ、早く治さないと壊死するぞ」
ウトゥはサラに教わった精密鑑定と思考加速を組み合わせて、瞬時に騎士の血管の位置を類推し、無詠唱の
騎士の悲鳴が響く中、ウトゥは騎士には一瞥もくれずに教会を立ち去った。
空しさばかりが、ウトゥの心につのっていた。
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