第28話 泣く子と地頭には勝てぬ(1)
叔父夫婦はウトゥに対して何もしてやれない自分達に歯がゆい思いをしていた。説教をしたその直後に、図らずも理不尽な目にあったウトゥに申し訳なく、ウトゥの事を託したアッドゥ子爵夫妻にも顔向け出来ないと感じた。
一方、ウトゥはこの程度の事は初めから織り込み済みだったので、何とも思っていなかった。元々出たくなかった神宝式。あくまで目的は精霊の加護を受けての魔力の開放だ。
そんな中で、叔父夫婦の気持ちを確認でき、更に多くの人々の眼前でアンナと手を繋ぎ、二人の関係性を示せた。ウトゥにとっては、そのどちらもが望外の幸運だった。
睡蓮亭で人の目を気にせず働いている自分の将来を想像するだけで、どんな罵詈雑言にも耐えられる。ウトゥは、大好きな人たちに囲まれて生きていけるなら、魔力の開放とかどうでもいいとさえ思い始めていた。
ウトゥやアンナだけではなく、多くの少年少女の思いを飲み込みつつ、神宝式の行列は進行していく。
教会の入り口では、神父と大柄の聖騎士たちが来場者を教会内外に誘導している。神宝式前の、地母神にすがる保護者と共に教会に入っていく不安顔の子供たち。神宝式を終え退出する、その結果に喜んだり、悲しんだりしている多くの家族。その両者で入り口はごった返していた。
男爵家の少年は、待っている間も、アンナの関心を引こうと躍起になっている。だが、いくら上級貴族との派手な交友関係や、自分の高価な服装を自慢しても、アンナは振り向く素振りさえしない。
ただ、自分の装飾品を自慢した際、ついでにアンナが身に着けていたペンダントを誉めそやした時だけは、アンナもつい答えてしまった。
「これは、ウトゥが私にくれた宝物なんだ」
その発言に、少年は再び憤る。
「きみはまだ目を覚まさないのか!いい加減、あのフンコロガシに騙されている事に気付きなよ!」
そして、自分が将来、ウルク公爵家の私設軍隊である自警団に入団予定で、さも自身の将来がバラ色であるかのように語ると、最後に言いかけた。
「いいかい、僕は、この神宝式で剣聖のジョブを得ることが決まっ…」
そこまで言いかけると、突然少年は黒檀のステッキで叩き付けられた。
「このバカが!余計な事を言うな!」
それまで一切口を利かず成り行きを監視していた、少年の父親である男爵その人が突如激高して、少年を執拗に、幾度も、幾度も、打ち据える。あまりに急な出来事に、男爵夫人がおろおろして取り乱す。少年は地面にひれ伏し、体を丸めて身を守るので精一杯だ。
「ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ!」
必死に謝る砂埃まみれの少年に容赦なく振り下ろされるステッキ。男爵はハァハァと息を切らすとようやく叩くのを止めた。
「出来損ないの愚か者が…これ以上面倒を掛けさせるな!」
その言動から、男爵の普段の子供への接し方が容易に察せられる。
唐突な出来事に呆気に取られていた周囲の人々が、にわかにざわめき出した。
「ねえ、聞いた?あの男の子…」
「ああ、『剣聖』になることが決まってるとか言ったな」
「やっぱりあの噂、本当だったんだな、ジョブが金で買えるっていう…」
徐々に大きくなる人々の声に向かって、男爵が大声で言い放った。
「ジョブが金で買えるなどということはあり得ない!そんな噂を流す輩は国教に欺く反逆者として、男爵の名において地母神様に成り代わり今すぐ拘束する!よろしいな!」
その凄まじい剣幕に、騒いでいた人々は黙らざるを得なかった。これ以降、行列から華やいだお祭り気分は消え失せた。
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