第25話 告白と口づけ
秋の夕闇が迫る中、ウトゥとアンナはウルクの城壁の外、いつもウトゥが糞尿まみれの体を洗っている小川のほとりに来ていた。夕焼けが手を繋いで散歩するウトゥとアンナを照らし、城郭都市の長い影を形作っている。
「明日の神宝式、楽しみだね」
川の流れを見つめながら、アンナが切り出す。
「ウトゥは何のジョブやスキルが欲しいの?私は、やっぱり料理人とかかな。調理のスキルとかあればお嫁さんになっても役に立ちそうだし。友達の中には裁縫のスキルを賜ってお針子さんになれたらな、って言ってる子もいるよ。それもいいお嫁さんスキルだよね」
意を決して、ウトゥが話始める。
「いつも、ここでさ」
真顔で話すウトゥを夕日が照らす。
「城壁を眺めるたびに思うんだよ。おれは将来、どうなりたいんだろうって」
アンナは黙って、まっすぐウトゥの顔を見つめている。
「将来、何の仕事をしているかはわからない。少し魔法が使えるから希望もあるとは思うけど、今のままでは、たかがしれてる。明日の神宝式で精霊の加護を貰って、どれだけ魔法が使えるようになるか、それ次第だよ」
「ジョブやスキルだって頂けるはずでしょ?」
「おれは学校も行ってない浮浪児だし雇ってくれるところがあったとしても限られる。ジョブを貰ったところで、さっきの店の子供のように都合よくこき使われるのは目に見えてる。それじゃ駄目なんだ」
「どうして?」
「だって、…それじゃアンナにふさわしい男になれないじゃないか」
アンナは驚いた。突然の告白に胸の鼓動が早まる。
「それって、どういう…」
「―――アンナ、君が好きだ。
どうなりたいか、って答えはただ一つ。アンナにふさわしい男になって、ずっとアンナと一緒にいたい。スモークス・ピークスを出てアンナと暮らせるなら、仕事なんて、何でもいいんだ」
お互いの感情が溢れ出す。ウトゥの頬にひとすじの涙が流れる。
一方、アンナも大粒の涙を流しすすり泣いた。服の袖が涙で濡れる。
「…でも、本当に私なんかでいいの?街の女の子たちみんなウトゥを気にしてたのに」
「そうなんだ、でも関係ないや。今までずっとおれの事気にしてくれてたのはアンナだけだしね」
「バカね、本当に…。ありがとう」
アンナは強がって微笑んで見せた。
「記念ってわけじゃないけど」
そう言ってウトゥはサラに貰ったペンダントヘッドを取り出した。
「本当ならもっと豪華なチェーン買うつもりだったんだけど、さっきの店で買っちゃった、これで許してね」
魔晶石のいきさつを話しながら、安っぽい真鍮のネックレスチェーンに取り付けてアンナに手渡した。
「
「おそろいだからね、おれも着けてみよう」
ネックレスなど付けたことがなく悪戦苦闘するウトゥ。見かねてアンナが苦笑しながら手を貸す。
アンナが体を寄せ、ウトゥの長い首に手を回す。アンナはウトゥの大きな喉仏に気付いて変な心持ちになった。ウトゥはアンナから匂い立つ甘い香りにくらくらした。
ぺンダントの魔晶石がウトゥの鎖骨の間におさまった時には、二人はごく自然に口づけをしていた。
辺りはすっかり暗くなって、小川のせせらぎと虫の声が響くばかりであった。
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