第24話 デートと鎖

 酒場で食事を終えたウトゥとアンナは、下町地区の賑わう商店街を手をつないで歩いていた。目を引く美少年のウトゥの出現に街の女性の視線が釘付けになる。その視線に気づいたアンナは、これ見よがしにウトゥの左腕に腕を巻き付けて体を密着させた。腕にアンナの小さな胸の膨らみが当たるのを感じて、ウトゥのわずかばかりの理性は脆くも吹き飛んだ。


 「ごめん、アンナちょっと待って…」そう言って恥ずかしがりながら立ち止まり前かがみになるウトゥ。

 「どうしたの?体調悪いの?」何が起きたか分からずウトゥを覗き込むアンナ。その時アンナは睡蓮亭の仲間から日ごろ聞かされている恋愛話を思い出し、ようやくウトゥの状態を察した。

 「バカね…」アンナとウトゥは互いに頬を赤く染めた顔を見合わせて、笑った。


 しばらく歩くと、露店のアクセサリーショップがあった。母親らしき女店主と幼い女の子が店番をしている。


 「可愛い髪留め探してるんだ。あたし髪多くて」


 アンナは小走りに駆け寄って雑多に並べられた商品を物色し始めた。

 ウトゥもネックレスチェーンを買うつもりでいたのでそれとなくアンナの手元を見ていた。

 「これどうかな?ダメ?こっちは?」矢継ぎ早に意見を求め、ウトゥの方を見るアンナ。

 「どれも可愛いと思うよ」ウトゥが思った事を素直に言うと、

 「バカね…。そんなんじゃ女の子にモテないわよ!」アンナは笑った。

 

 結局、普段使いの地味な髪留めをいくつか選び、お金を払おうとすると店番の少女が不格好なブローチを二つ、アンナとウトゥに差し出して、ねだるように言った。


「お客さん、これも買って」


「それはその子が作ったものなんです。材料費だけでいいので買ってもらえませんか。髪留めと合わせて銀貨1枚で結構ですから」

 

 女店主も援護射撃する。銀貨1枚は平均的な労働者の一日分の給料だ。露店で払う金額ではない。


「ウトゥ、どうする?」


 ウトゥが少女の差し出すブローチを見ようとしゃがむと、少女の腕やすねにアザが多数あるのを見つけてしまった。事態を察して憤ったウトゥは無詠唱で少女に治癒魔法を施す。ウトゥの手がわずかに輝き、少女のアザは消えた。少女は驚き、満面の笑みを浮かべた。


 ウトゥは女店主に向かって、言った。


「さっきの髪留めにブローチ、そしてそこの真鍮のネックレスチェーン2本で合わせて金貨1枚出そう。ただし次この店の前を通った時、この子の体にアザがあった時は自警団に通報させてもらうよ」


 銀貨10枚分相当の金貨1枚という金額にはもちろんの事、少女を猿回しの猿の様に働かせ、安物を売りつけている手口を見透かされ、それに毅然として臨んだ少年の態度に女店主は驚いた。ただこのまま何も言わずに、非を素直に受け入れることはできない。


「ありがとうございます。お客様は何か思い違いされているようですが喜んで承りましょう」


 商品を受け取ってウトゥとアンナは店を出た。振り返ると少女が無邪気に手を振っている。アンナは何が起きたのか分からなかったが、依然不機嫌そうなウトゥに尋ねた。


「ウトゥ、これからどこ行くの?」


 ウトゥはアンナの声で我に返ると、すっかり笑顔に戻って言った。


「なんとなく、行きたい所があるんだ」


 二人は城外に向けて歩き出した。

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