第21話 少年と古代魔法
昏睡状態のウトゥを看病していた時、サラは一生ウトゥの面倒を見る覚悟だった。自分の魔力干渉がきっかけで瀕死の重傷を負った少年。最高難度の
ところが、数日後、目の前にいるウトゥは何事も無かったかのように元気に勉強に励んでいる。いや、何事も無いというのとは少し違う。ウトゥはかなり目を引く美少年へと変貌していた。
あれ以来10センチ以上伸びた身長は、同年代の子供の平均を優に超えた。頑丈な骨格に引き締まった筋肉が全身を覆う。皮膚病の痕は消え去り、浅黒い健康的な肌が輝く。元よりウトゥは、外見だけが取り柄だった父親譲りの派手な顔立ちをしている。13歳の少年に目を奪われ、仕事が手に付かないメイドも数名いるほどだ。
その一方、サラは精密鑑定で、ウトゥの魔力が、更に異常に増大している事に気付いていた。心拍数も相変わらず少ない。なぜ完治したのかという疑問と相まって、サラの不安は増すばかりだ。
サラは魔力量の増大も考慮し、ウトゥに神宝式まで魔法の使用を全面的に禁じた。意外にもウトゥは素直にそれに応じ、今は大嫌いな王国史を学んでいる。
「うん。やっぱり、王国史、面白くない!」
「ちょっと休憩!」そう言ってウトゥは書庫から持ってきていた古文書の写本を広げた。その写本を見て、サラは驚いた。
「あなた、その字、読めるの?」
その写本はサラが魔法学校を卒業する時、君なら解読できるかもしれないと、恩師から渡されたものだった。恩師にどんな意図があったかは知る由もないが、サラにはさっぱり読めず、放置していた古文書だ。
「面白いよね、これ、下から上に読むみたいだよ」
無邪気に解読に興じるウトゥ。サラは魔法禁止を言いつけたことなどすっかり忘れて、ウトゥの手元を見つめる。
「今、分かる事だけでも教えてちょうだい」
王国史そっちのけで、尋ねるサラ。ためらいつつも答えるウトゥ。
「…どうも、植物の成長を促進させる古代魔法みたいなんだよね」
「その魔法は、もう使えるの?」
「…いや、全然。解読出来たら、試していいの?」
サラは少し考えて、その答えを保留にした。
「王国史はもういいわ。実を言えば私も大っ嫌いだもの、王国史。その代わり、その古文書を解読してちょうだい。交渉は、ここまでね!」
「いい取引だね」ニヤッとするウトゥに釘を刺すサラ。
「解読できたとしても試しちゃダメだよ!絶対禁止!」
「…そうだね。これは恐ろしい、危険な魔法だ。止めておくよ」
不自然なウトゥの反応が、サラには不思議だった。いつものウトゥなら、農家の為に、食料増産の為に絶対使えるようになりたいと主張するだろう。「この間の事でよほど懲りたのかしらね」サラはそう考えた。
真相は全く違う。実はこの時ウトゥはすでに写本を解読済みで、この魔法の術式をほぼ完全に把握し、応用の可能性を探っていたのだ。
この魔法が植物の性質を変えて成長を促進させる特性を、品種改良に応用できないか。品種改良はどの程度まで可能か。大麦を小麦に変えたりできないか。できると仮定して、それは畜産にも転用可能か。人間にも適用可能か。魔物ではどうか。
―――人間を、魔物にすることは可能か。
その発想に辿り着いた時、ウトゥは心底自己嫌悪に陥った。サラをちらりと見て写本をしまうと、再び歴史書の、大嫌いな王国史の続きを読み始めた。
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