第19話 成長と自壊
アッドゥが命じた強制休養の最終日、そして地母神教の神宝式を間近に控え、ウトゥ付きのメイドがサラに報告している。
「奥様、お気づきとは思いますが、ウトゥ様のお体のことで相談が」
ウトゥの肉体の変化の速度があまりにも急激すぎる、というのだ。
元々ウトゥは常に栄養失調気味で身長、体重ともに発育がかなり遅れていて、同年代の子供よりあきらかに小柄だった。
それがここ数日で身長がこぶし一つ分ほど伸び、引き締まった筋肉が全身に広がっている、体重も増加しているというのだ。
何か自分の知らない男性特有の事情があるのかと、メイドは数名の従僕に尋ねてまわったが原因はわからずじまいだ。
「食生活の改善や大人への成長の時期というのもあるのでしょうが、それだけでは説明がつきません。私が見る限り、奥様が身体強化をご教授なさった日から更に変わったかと」
メイドは、ウトゥが魔法で自分の肉体を改造しているのでは、と言いたいのだ。
確かにウトゥならやりかねない。誰よりも突拍子もない事を思いつき、思いついた事はやってみないと気が済まない、好奇心の塊だ。
使える魔力も少ない中、何の魔法を、どう使っているのかサラには見当もつかないが、魔法による肉体改造の例も知らないわけではない。高名な大賢者と称される人々の中には数百歳を超える者がいたりする。だがウトゥは思春期の少年だ。不確定要素が多すぎて余りにも危険だ。
事実ならすぐ止めさせねば、サラがそう思った正にその瞬間だった。
邸宅中に突然響き渡る絶叫、そして慟哭。苦悶に満ちた咆哮。地獄の底を彷彿とさせる嗚咽が
サラが部屋に着いた時、全身血塗れのウトゥが床を転げ回って悶絶していた。どうやら体中の皮膚が裂けているようだ。破裂しているようにも見える。その傍では、様子を見に来た従僕が余りに凄惨な状況に嘔吐し、若いメイドが卒倒している。
サラは元冒険者だ。悲惨な光景には慣れている。冷静にウトゥを鑑定したのち、苦手な黒魔術、
「とんでもないわね…」
魔力が枯渇寸前のサラは執事を呼び出した。
「大至急冒険者ギルドに行って
ウトゥは完全に魔力切れの状態だった。魔力が無くなると、脳はそれを自然界の魔力から補おうと、急激に活性化して無意識のうちに働き始める。それが頭痛を引き起こし、時には脳卒中を誘発し地獄の苦しみを引き起こす。
加えてウトゥの肉体はほとんどズタズタに千切れている。筋肉も、腱も、靭帯も。引き延ばされた骨は辛うじて繋がってはいるが、中身はほとんど空洞だ。それらを無理やりつなぎ合わせた皮膚の中に押し込んだだけで、とても治療とは呼べないが、これ以上サラにはどうすることもできなかった。
「痛いに決まってるわね。辛いでしょうね。可哀想なウトゥ」
精密鑑定では、呪いも外部からの攻撃の痕跡も発見できなかった。メイドの想像通り、ウトゥが身体強化で何かしようとしたか、あるいは不幸にも魔力が暴走したか、いずれかだろう。
唯一まともなのはゆっくりと力強く脈打つ巨大な心臓だけだ。…この心臓も何か変だ。脈が余りにも遅い。徐脈ではないようだが…。
魔力切れ寸前のサラは極度の疲労で、それ以上何も考えられず、いつのまにやら眠ってしまった。
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