第16話
サラはウトゥを庭の一角に連れ出した。いよいよ魔法の練習開始だ。
サラはウトゥに向き合うとしゃがんでそのまま両手の指先に触れた。ドキッとするウトゥを見つめて、目を閉じるようサラが促す。ウトゥが素直に目をつむると指先がじんわり温かくなった。何かが流れ込み、何かが押し出された気がした。
「はい、これで魔法が使えるはずだよ、ちょっぴりだけね」
サラが続けて言う。
「基本の呪文は、覚えているはずよね?まずは
呪文を唱えたウトゥの指先にあっけなく火が灯る。続けて、
一方、サラは仰天していた。ウトゥが全属性に適正があったことだけではない。たった今、魔力を開放したばかりの少年が、あっさりと淀み無くそれを行う器用さと賢さ、すなわち圧倒的な魔法の才能に驚嘆したのだ。
サラは気を取り直して、命じた。
「それじゃ、向こうの的に何か魔法を放ってみせて」
サラが指し示す方向に、使用人に作らせた小さな的がある。
「なんでそんなことするの?」
「魔法学校の入学試験でよくある課題だからよ。凄い人は的ごと吹き飛ばしたりするのよ。ウトゥにはまだ無理だけどね」
もちろん、精霊と契約前の子供にそんな芸当は不可能だ。ウトゥが頑張っても、水しぶきさえ届かない。
「頑張ってお勉強しようね」サラがそう言いかけた瞬間、轟音とともに的が大破した。
「何が起きたの?ウトゥ、あなたいったい何をしたの?」
大声をあげて取り乱すサラを見て、怒らせたと思ったのか、謝りながらウトゥは答えた。
「
風圧で加速した石弾が音速を超え、たまたま的に命中したらしい。
魔法の並列起動?同時詠唱?合成魔法とは別物よね?さっき魔力を開放した子が?そんなことすぐ思いつくものなの?思いついたからってできるものなの?軽いパニックになるサラに、ウトゥは意外な事を言った。
「でも、攻撃のための魔法なんてつまんないね」
「どういう事?」
「サラさんに浄化の魔法かけてもらった時、おれは本当にびっくりしたんだ。この魔法が使えれば誰も嫌な気分にさせずに済むって。あれが無かったら、魔法を覚えたいとは思ってないよ、絶対に」
笑顔で話すウトゥ。優しい子だ。
「英雄譚の勇者様に憧れたりしないの?攻撃魔法を覚えれば、冒険者にも軍人にだって…」
サラはなおも問いかけるが、途中で気付いて話を止めた。この子はそんな夢物語はとうの昔に諦めていることを察したのだ。表情を曇らせるサラにウトゥが言った。
「そうだ、サラさん。浄化魔法の呪文も覚えてきたんだ。見ててよ」
神妙な顔つきで呪文を唱える。だが何も起こらない。
一番覚えたい魔法なのにと、悔しがるウトゥを、サラが励ます。
「あなたにもできない事があるんだね。お勉強がんばろうね」
我が子を慈しむかのように、サラはずっとウトゥを見つめていた。
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