第15話
次の日の朝、サラはウトゥに、様々な初級属性魔法の呪文を諳んじておくよう命じた。ウトゥの能力を完全に把握するためだ。
この世界において、魔法や魔力というのは、極めて危険な力だ。
魔導士が、己が体内の魔力を制御しそのまま利用する、あるいはそれをトリガーに、自然界に存在する魔力を利用するのが魔法だ。その結果、現出するものが炎であれ稲妻であれ大差はない。
その力は魔導士が制御できなければ簡単に暴走してしまう厄介な代物だ。サラは学生時代、自分より優秀な同級生が、魔力の制御に失敗して目の前で破裂する現場に立ち会ったことがある。即死した学生の返り血を浴びた彼女は、一旦休学せざるを得ないほどの衝撃を受けた。魔力というものは、元来それほど危険なものなのだ。
炎や稲妻を起こせる力を持ち、かつその力はいつ暴走してもおかしくない危険性を孕む。そして、ウトゥという子はその力を常人の何倍も持っている。初心者のウトゥは楽しく学んでくれるだけでいいのだが、教える側には覚悟が必要だと、サラは考えていた。
朝から作業していた庭の薔薇園の手入れがようやく一段落し、サラはウトゥの部屋に向かった。
部屋のドアを開けると、床に寝そべったウトゥが何やら医学書と魔導書を交互に見比べて読んでいた。入室したサラの存在にも気付かないほど集中している。ウトゥ付きのメイドに尋ねると、かれこれ一時間くらい、ずっと人間の解剖図に見入っているという。サラが優しく問いかけると、ウトゥはようやくサラの存在に気付いて明るく笑った。
「サラさん、お疲れ様!用事は済んだんですか?時間取れますか?」
ウトゥの頭の中は、魔法の授業の事で一杯のようだ。よほど楽しみにしていたらしい。サラは苦笑しながら、ウトゥに語り掛ける。
「ええ、勉強を始めましょう。でも、その前に」
サラは魔法の危険性をひとしきり説いた後、最後に付け加えた。
「まだウトゥは神宝式前だから、魔力を完全には使えないんだけどね」
「どういうことなの?」
ウトゥはシンポウシキという単語に反応して、怪訝な表情を浮かべた。
「まず、魔力を完全に開放するには、精霊と契約する必要があるの」
ウトゥは神妙な顔つきでサラの話を聞いている。
「神宝式っていうのはそもそも、地母神様に永遠の忠誠を誓う儀式なのね。そのご褒美で、地母神様がお遣わしになった精霊と契約してご加護を頂いてジョブやスキルを賜るの。その契約があるから魔法の才能がある人は魔力を開放できるのよ」
「神宝式じゃないとダメなの?できれば出たくないんだけど…」
「ダメってことはないんだけど…」
サラはウトゥの心情を慮って、慎重に言葉を選ぶ。ゴミ山に住む孤児が、貴族の子息も訪れる晴れがましい舞台に腰がひけるのは仕方ない。
「精霊か、悪魔との契約が必要だけど、どちらもそんな簡単に出会えるものじゃないのは分かるわよね。神宝式が一番確実なの。あなたの援助なら、私もアッドゥも喜んでするから心配しないで、ね?」
サラは表情が曇るウトゥの背を押して、言った。
「さあ、授業をはじめましょう!」
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