第11話

 アッドゥとウトゥ、サラが食卓を囲んでいる。昼食だからか、軽めのメニューが多いが、ウトゥは腹に溜まればなんでもよい。テーブルマナーという単語さえ元々知らないウトゥは出される料理に片っ端からむしゃぶりつく。その様子をアッドゥ夫妻はニコニコしながら眺めている。幸せな食卓だ。


 食後、各自の前にお茶が並ぶ頃に、アッドゥが突然切り出した。


「ウトゥ。昨日鑑定して知ったんだが、お前さんとんでもない量の魔力を持ってるんだな」


 ウトゥは突然思いもかけない事を言われて驚いた。サラが続ける。


「そうね、あなたの魔力量は凄まじいわね。この町の中で間違いなく五本の指に入るでしょうね。元冒険者で魔導士だった私が言うんだから間違いないわよ」


 サラさんは元冒険者だったのか。それはともかくも、急にそんな事を言われてもウトゥは魔法なんてよく知らない。水や火といった属性がある、くらいは知っていても、魔道具や魔石以外に実際目にしたことはほぼない。だから、急に魔力量の話をされても理解できなかった。


「そこでだ、ウトゥ。提案なんだが」


 アッドゥが真顔になってウトゥの目を見つめて、言った。


「うちの子になって、魔法学校に通ってみないか?」


 サラも続けて話しかける。


「そうよ、せっかく賜った才能、生かさないのはもったいないわ。あなたがその気なら宮廷の魔導士筆頭にだってなれる。お金の心配とかいらないのよ。いや、魔導士にならなくても、うちの子に、私たちの子になってくれれば…」


 そう言おうとするサラを、アッドゥは慌てて制した。サラも気付いて押し黙る。

 アッドゥが言う。


「とにかく、お前には魔法の才能がある。優秀な魔導士は国の宝だし、我々貴族はそれを支え、育む義務がある、と俺は思う。俺たちの息子になってくれれば嬉しいが、それがいやならそれでも構わん。最大限の援助はしよう。どうだろう。一度真剣に魔法を勉強してみないか?」


 ウトゥは返事ができなかった。学校に行ったことはない。父親に読み書きを教わって、『今』は何も困っていない…。『今』は?将来もずっとスモークス・ピークスに住んで糞尿運びか?しかし学校に入ったところでおれに何ができるんだ?

 返事に窮して黙っているウトゥに、アッドゥは優しく語りかけた。


「突然こんな事言われても返事できないよな。ゆっくり考えてくれ」


 アッドゥは続けて、表情と声色を変えて言う。


「子爵アッドゥとして厳命する。ウトゥよ。貴殿はこの屋敷に一週間滞在し、疲労した体力の回復に努めよ。これは命令である。反論は許さない」


 突然厳しい口調で言われてウトゥは思わずサラの方を見た。サラは慈しむような表情を浮かべてウトゥを見つめている。ウトゥが視線に気づいて頭を下げると、サラの頬はさらにゆるんだ。


「よろしくおねがいします。しばらくお世話になります」


 ウトゥがおずおずと差し出した右手を、アッドゥは両の掌で強く包み込んで固い握手を交わした。アッドゥはこの上なく幸せそうな笑顔で、大声で豪快に笑った。

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