※スピンオフ・おまけ⑨ 終わらない迷宮
「ふう、なんとかクビは免れた」
神田は部下にこれ見よがしに笑って見せる。しかし、部下は返事もせずに神田の前をすたすたと通り過ぎて行った。今回の一件で、神田の今後の出世もなくなり、俺に対する部下の味方も大きく変わってしまったことを肌で感じている。
「ま、別にいいけどね」
神田は机の上で、小さな機械を弄り始めた。指を細かく曲げ、手元に工具を生み出す。
神田のスキルは、工具を自由に生み出せる能力だった。重い荷物を持ち運ばなくても場所を選ばす機械いじりができるのは便利だが、工具の種類・サイズ・質には色々と制限がある。この前死んだ配信者の「クリエイター」とは完全に下位の関係にある、Dランクスキルだ。もっとも、神田は自分のスキルを気に入ってはいたが。
そこで、ふと思い至った。
織津栄治の「ダンジョンマスター」が、スキルだとするならば。
三百年の間に、それと同じようなスキルを持った人間も、また現れているのではないか。
「アメリカ中にダンジョンが大量発生中?」
俺は浦橋の話を聞いて、自分の耳を疑った。
「ええ。米軍が情報統制を敷いていたようですが、それが通用しないくらいには急速に、一般人の目に留まる場所に出現しています」
「どういうことだよ? あいつが、まだ生きてたってことか?」
そういう訳ではないと思う、と桐山が横から口を出してくる。
「もし生きてたとしても、あいつはもう、いたずらにダンジョンを増やしたりしない」
「じゃあ、どうして......」
浦橋はしばらく考え込んでから、自信なさげに言う。
「模倣犯、とか」
「模倣犯?」
「......例えば、活用次第でダンジョンマスターと似たようなことができるスキルを持っていた人がいたとします。その人はこれまで、自分のスキルの可能性に気づいていなかった。でも、あの全世界生配信を観て、その人はこう思った」
そうか、こんなこともできるんだ。
「何だよ、それ!」
ダンジョンが現れれば、また大勢の人が死ぬ。危険を承知で潜っているのだから自己責任、なんて言っていいわけがない。
しかも、今回のダンジョンが、これまでと違うスキルによって造られているのなら、違うルールが適用されているかもしれない。
「ダンジョン内からモンスターが出てこない、という保証は、どこにもないでしょうね」
浦橋が先回りして言う。それは、彼があの時、俺に土下座してまで回避しようとしていたシナリオだった。
「どうしますか?」
「......決まってるだろ」
行くしかない。新たな戦場、新たな死地に。
「アメリカかぁ。昔旅行で一回行ったことあるけど」
「私、英語喋れるわよ。ハリウッド俳優のファンだから」
ハルカと上谷が会話に割り込んでくる。
「えっ、二人も来るんですか?」
「今更何言ってるのよ、当たり前じゃない」
それもそうか。
俺は肩をすくめると、荷造りのために事務所を後にした。
世の中、上手くいかないことばかりだ。問題は山積みで、危険はいっぱい。
でも、だからこそ、俺たちは出会えた。絆を深めることができたのだ。
いざ、アメリカへ。
俺たちの物語は、終わらない。
――――――――――――
この物語の更新はこれで最後になります。
改めて、たくさんの応援をありがとうございました。
D級スキル《テイマー》持ちの俺、実は最強のダンジョン探索者だった~陰キャが助けた美少女配信者は、まさかのクラスメイト⁉~ 鶯ほっけ @uguisuhokke
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