第23話 陰キャと美少女と神の衝撃
いつもご愛読ありがとうございます。
ありがたいことに最近応援コメントをいただくことが多くなり、大変励みになっております。しかし、現在、まさに最終章が展開中でして、ネタバレ防止の観点から返信の内容に困る場合があります。そこで、大変申し訳ございませんが、作品の内容に関するコメントへの返信は本編完結後にまとめてお届けしようと思います。
全て目は通しているので、引き続きコメントいただけると非常に嬉しいです。
残り僅かな期間ではありますが、ぜひ最後までお付き合いください。
――――――――――――
「さて、お披露目も済んだところで」
少年の声が聞こえる。俺はまだ目の前の怪物に圧倒されていて、彼を見つけることができない。
ドームの壁全面に巨大なスクリーンが表示されて、ようやく俺はガネーシャから意識を逸らすことができた。
「この戦いの模様は、『ダンジョンマスター』プレゼンツで全世界に配信させていただくよ」
「なっ......! 何のために、そんな」
「もちろん、はっきりと知らしめるためさ。誰が神なのか。誰が最強の名前に、相応しいのかを」
スクリーンに俺たちの様子、それに流れるコメントが映し出される。
<なんだなんだ?>
<ヌシがまたやべぇ奴と戦ってるぞ>
<まぁ、シロなら何とかなるだろ。頑張れー>
「......ご覧の通り、間抜けな下民どもがよく勘違いをしててね。そろそろ僕の存在を明かすには、いい機会じゃないかと思う」
画面越しだと、この怪物のヤバさは伝わらないのか。大きさだけなら、
実際に対峙している俺には分かる。この怪物は、シロでも倒せるかどうかは、わからない。
「じゃあ、そろそろ始めようか」
その言葉に、俺は身構える。
身構えた、はずだった。
「が.......ッ」
気がついたら、ゴレムが吹き飛んでいた。
一瞬遅れて、風圧が俺たちを襲う。
「なっ......!」
縮んでいく鼻を見て、ようやくあの鼻がゴレムを打ちつけたのだと理解する。
人間の反応速度も、それより数倍速いはずのゴレムの反応速度も超えた一撃。
「勘違いしないでね。これから始まるのは、一方的な虐殺だよ」
一撃で、俺たちはその言葉に反論する気力すら奪われた。
それでも。
「ま......ダまダ」
「皆、下がれ!」
強大な敵に絶望したって、俺たちは考えることを止めたら駄目なんだ。
活路を探して足掻かなければ、待っているのは、さらなる絶望と喪失だけ。
「下がるったって......!」
ハルカの悲鳴にも似た叫びが耳朶を打つ。ガネーシャの鼻の範囲外に出ようと思ったら、壁際ぎりぎりから動けない。
「......まぁ、そうなるよね」
少年は嬉しそうに言う。
その直後、ガネーシャの右の顔、鯱が地面に潜る。
「なっ......!」
まさに、潜る、という表現がぴったりだった。
首を妖怪のようにぐにゃ、と伸ばし、地面に頭を押し付け、そのまま地中に消える。
そして、俺たちは空中に投げ出された。
「ぐあっ......!?」
何が起きたのか、理解できない。下を見ると、先ほどまで俺たちがいた地面から飛び出した、鯱の頭。
地中を潜り、下からかち上げたのだ、と理解した頃には、落下が始まっていた。
「まずい!」
浦橋が両手を合わせ、天井と引き寄せ合う力を働かせることで衝撃を軽減する。
「しぶといねぇ」
少年の声が聞こえる。俺たちは、完全に彼の玩具だった。
ガネーシャに近づけば、鼻で突かれる。遠ざかれば、地中から鯱がやってくる。
ならば、こいつから逃れるには。
「浦橋さん!」
「わかっています!」
掛け声ひとつで意思が伝わり、浦橋は両手を合わせる。
今度は自ら、俺たちの身体が空を舞う。空なら、あの怪物の攻撃は届かない、はず。
そんな期待ごと飲み込んでしまうかのように、ガネーシャの左の頭、龍の口ががぱっと空いた。
「は......?」
そして、炎が視界を覆う。
熱さで身体が溶けそうになりながら、何とか目を開け続ける。ゴレムが、炎を一身に受け止めていた。
「......熱さには強いんでス」
そう言う彼の身体は、先ほど受けた攻撃の衝撃ですでに破損している。この状態で、本来の耐火性が発揮できているかどうか、俺には分からない。平気そうにしているゴレムに、我慢という概念があるのかどうかも。
近づけば鼻。遠ざかれば潜行からのかち上げ。空中は炎。
死角なし。すなわち、打つ手なし。
「さぁ、どうする?」
思わず、スクリーンのコメントに助けを求める。
<これ、ヤバいんじゃないか?>
<なんだ、あの化け物>
しかし、視聴者もざわつくばかりで、有力な解法を見出せてはいない。
がう、とシロが俺の足元で吠えた。
そうだよな。
考えるのが、俺の役目だ。
「......よし、やってみるか!」
俺は浦橋に目で合図して、もう一度空中へ飛び上がる。
ただし、今度は俺とシロ、ゴレムだけが空へ。浦橋とハルカは、地上にとどまる。
龍の頭が俺たちに炎を浴びせてくるが、その間際に俺は、鯱の頭が地面に潜るのを見た。
「気をつけろ!」
二つ以上の頭は同時に動かせないと予想していたのだが、まだガネーシャのことを甘く見ていたらしい。
炎をゴレムがもう一度受け止める。
「ぐウ......ッ」
炎は、三種の攻撃の中では最も御しやすい。追尾性能もないし、シロやゴレムなら受け止めることもできる。やはり勝機は空にある。
しかし、浦橋の意識が地中の鯱に向かい、俺たちは落下を始める。
「いけ、シロ!」
落下しきる前に、俺はシロをぶん投げる。
地中の鯱、炎を吐く龍。三種類の頭を同時に動かせるか?
果たして、鼻は動き出した。
けれど、始動が明らかに遅い。シロめがけて伸びた鼻は、空を切った。
シロの爪が、ガネーシャの象の頭に食い込む。
そして。
「なっ......!」
そのまますり抜けて、地面に激突した。
「シロ!」
叫んだ直後、俺の身体も地面に叩きつけられる。
「がっ......!」
腕から落ちて、骨が二、三本砕かれる。
鯱から逃げてきた浦橋とハルカが、俺の身体を支えて立ち上がらせた。
「......
ガネーシャの攻撃の手が止まり、少年が自慢気に語る。
「ガネーシャの前では、あらゆる攻撃がすり抜ける。どれだけ高い攻撃力を持っていようとも、当たらなければダメージはゼロ。絶望した?」
「そんな......!」
「君たちが足掻けば足掻くほど、ゲームは面白くなる。ほら、会場のボルテージも上がっているようだよ」
<何だそりゃ、チートじゃねぇか>
<勝てるわけがない>
<逃げろー!>
「チートで結構。なんせ、僕は神なんだから。好きなだけ崇め、恐怖したまえ。そこの犬っころのことなんて忘れてね」
満足げに笑う少年の戯言など、俺には聞こえていなかった。
考えろ。攻撃をすり抜ける相手を、どうやって倒す?
これ以上、余計なことに思考を割く気はなかった。どうすれば勝てるか、それだけを、ひたすら考える。
考えて、考えて、考えて。
「烏丸くん!」
ハルカの悲鳴で現実に呼び戻される。
直後、身体を強い衝撃が襲った。
「がっ......!」
腹に伝わる、重い感覚。
それに、ほのかな温かみ。
「......仕留めそこねたか」
目を開けて自分の腹を見ると、シロがうずくまっていた。
腹には痣が浮かび、口から血を吐いている。
「シロ!?」
さっき俺が立っていたところは、まだ鼻の射程内だった。
その一撃を、シロが身を挺して庇い、衝撃を和らげでくれたのだ。
「......くそっ」
一瞬、頭が真っ白になる。
そこで、脳裏にかすかな声が響いていることに気づいた。
「あ......!」
聞き覚えのある声。
まさか、そんなことが。
「桐山、なのか......?」
目の前の、恐ろしい怪物。
俺はその奥に、一人の青年の姿を見た。
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