第8話 パリピ勇者の成長

 勇者との稽古の時間は長きに渡った。

 どうやら、サイトは自らの運命を城での説明で納得したようだ。

 就活がうまくいってなかった隠キャの彼からしたら、自分が輝ける職場だったのかもしれない。


 実際、稽古の時間だけで十分成長していた。

 もう各スキルのレベルは2になっている。

 僕が一年以上かけたレベルアップをこの数日でクリアしたようだ。

 ガーベラも初めこそ人見知りしていたが、木剣を持った途端人が変わったように動き回っていた。


 いつまで経っても成長しない僕より、サイトの方が成長が早い。

 ガーベラも教えがいがあるだろう。

 通常であれば、嫉妬の一つでもするべきなんだろうが、全く気にしていない。

 だって『ピュア』でいつでもガーベラの心は戻ってくるしね。


 最近は、ガーベラが朝起こしてくれるので、朝のルーティンで2回消費しなくなってきた。

 ガーベラに使いそうにはなるけど、美少女に起こしてもらうのは気分がいいのだ。

 ちょっといいカッコしてしまう。

 おかげで『ピュア』に余裕があるのだ。

 3回あれば、もともと僕のことが好きな人なら、完全に心を動かせる確信をお兄様で得たのは大きかった。


 しかし、今日は様子が違った。

 なぜか、以前の師範、先代剣聖がついてきたのだ。

「ほっほ、勇者様の実力を見させてもらおうかの」

 と、言いながら僕も一緒に稽古をつけてもらっている。

 いらないのに……。


 やはり、『勇者』スキルはすごいらしく、まだ、レベル2なのに剣聖ガーベラと何回かは撃ち合うことができる。

 ちなみに僕は1発目でやられる。

 やはり『勇者』スキルに剣を自由自在に、操れる能力があるのが大きいのだろう。


「ほう、こりゃ、筋がええのぉ」

「それほどですか?」

「王子様とは全く違いますな」

「う、そこまで言わなくても……」

「ほっほ、現実とは厳しいものですよ」


 そうだな。

 ほんとに厳しいものだ。

 僕が一年かけたレベルアップを数日でするんだもんな。

 まぁ、僕は勇者なんてする気もないからいいんだけどね。

『ピュア』を使って、おもしろおかしく生きられたらそれでいいんだ。


「ふぅ、一度休憩にしましょうか」

「イェース!レッツゥ、レストターイム!」

「れすとたーいむ?」

「あ、いえ、休憩しましょう」

 これさえなければ立派な勇者なんだけどな。

 この先、ダンジョン攻略前の演説とかどうするつもりなんだろ?

 まぁ、僕には関係ないか。


「ほっほ、休憩後は、ダンジョンへ行ってくるとええよ。実践の経験値はスキルレベルがあがりやすいからの」

「アーサー、行ってみましょう?」

「え、僕はいいよ。2人で行ってきなよ」

「ほっほ、そうは言ってもパーティブーストがあるから王子様も行ってあげてくださいな。ガーベラと勇者様ではレベルが違いすぎてブーストが、かかりませんによって」

 ああ、そうか、僕が行けば勇者とレベルが似てるからブーストが発生するのか。

 それでも行きたくないな。


「いやー、サイト様なら大丈夫でしょう?」

 サイトは非常にきて欲しそうに目をウルウルさせている。

 めんどくせ。

『ピュア』「サイト様はやれば出来る子ですよ。がんばってください」

「そうだNE!レッツゴートゥ、パーリィー!」

 単純なやつにもよく効くらしい。


「アーサー、そう言わずに行きましょうよ。私もアーサーとダンジョンへ行きたいです」

 ガーベラもウルウルさせている。

 かわいいけど、イヤなものはイヤだ。

『ピュア』「今日は疲れたし、今度にするよ。今度は二人っきりで一緒にいこうね」

「そ、そうね。二人っきりの方が楽しいですよね」

 顔を赤くして納得する。

 ちょろい。


「ほっほ、行ってきなされ。王子様のためというより、勇者様のためです。勇者様が成長することは国の利益に繋がりますぞ。さすれば、王子の義務とも言えましょう」

 先代剣聖は現役時代の殺気を乗せておどしてくる。

 こわい……。

『ピュア』「いや、ちょっと、今日は体調が良くないので、やめておきます。次からは行きますね」

 しぶしぶ引き下がる。

 効きにくかった、危なかったな。


「いいえ、アーサー様、是非とも行くべきです。今朝は体調がいいとおっしゃられてましたよ?」

 まずい、フランソワに朝でのやりとりを持ち出された。

『ピュア』「今日はお母様とお出かけの約束をしているんだよ。だから行けないんだ。あんまりお母様のことを言うと、マザコンだと思われるから黙ってたんだ」

「そうでしたか。それは仕方ありませんね」

 ふう。

 あきらめてくれた。

 こんなことで『ピュア』を使い切ってしまった。


「アーサー、そんな約束していませんよ?ダンジョンでしょ?行ってきなさい。近衛騎士になるにはそれなりの実績が必要ですよ?」

 詰んだ……。


「はい、行ってきます……」


 それから、僕たちは先日の都市郊外にあるダンジョンへ行った。

 どうやら、ここが一番レベルが低くて僕たちには合ってるらしい。

 もちろん深い階層は危険だけどね。

 せいぜい僕たちが進むのは5階層までだ。

 

 途中、冒険者ギルドにより、情報を集めて、4階層にいる女郎蜘蛛の群れを倒すことになった。

 また蜘蛛か……。

 別にキライではないけど、いい思い出はないな。

 放っていかれたし……。

 

「イエーイ、女郎蜘蛛を倒すZEーい!上げてけぇー!」

「そうですね。がんばりましょうね」

「僕は隅にいます」

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