第9話 ダンジョンを進めば

 ダンジョンに到着した僕たちは、フォーメーションを考えていた。

「やはり、勇者様が前衛で、アーサーが後衛、私が中衛でよろしいですか?」

「それでいいけど、今度は置いていかないでね。前はサルビアがいたから寂しくなかったけど、サイト様も戦うんでしょ?」

「前はごめんさなさい。私、剣を持つと周りが見えなくなる性格なんです」

 知ってます……。


「ダンジョン、イェー!蜘蛛切る僕もぉー!」

「ハイハイ」

「さ、行きましょう」

 僕たちのスルースキルのレベルは上がりまくってる。


 さぁ、レベリングだ。

 って、僕はどのスキルを、上げるんだ?

 もう『ピュア』は使えないけど、くだらないことに使ったのがバレるのもイヤだな。

 ここは剣術スキルを取るために剣を使うべきだよな。

 ま、全部ガーベラがザコは倒すんだけどね。

 やっぱり、中衛なんてしてない。

 ゴリゴリの前衛だ。


 それでもサイトは自分の出来ることを考えて動いている。

 絶対コミュ症こじらせてる痛い人なのに、頑張っている。

 対する僕は後ろでぼーっとしていた。

 しかし、ここはダンジョン。

 ぼーっとしてるわけにはいかなかった。

 バックアタックだ。

 ウェアウルフが1匹後ろから忍び寄っていた。

 後ろからの攻撃まで前衛陣は見ていない。

 

 僕は意を決して行動する。

「助けてぇーーー!」

 全力を振り絞って叫んだ。

 ガーベラへ。

 しかし、ガーベラはかなり前方にいる。サイトもそれについて行っている。

 援軍は絶望的だ。


 ここまでか。

 僕はここで死ぬのか。

 イヤだ。

 もっと美少女を眺めたい!

 純粋な願いが僕を突き動かす。

 

 剣を握る手に力が入る。


 ウェアウルフを、睨みつけ、剣を構える。

 いつもの稽古のことを思い出して、剣を振りかぶる。

 ウェアウルフは敵意を察知して飛びかかってくる。

 俊敏な動きだ。

 ガーベラに比べれば早くはない。


 いける!


 そう直感した僕は剣を振り下ろした。

 直撃した……と思われた攻撃はウェアウルフの胴体をかすっただけに終わった。

 次は攻撃される番だ。

 剣を振り抜いた僕の体勢は崩れている。

 そのとき、


 タッタラー


 レベルアップの音がした。

 どっちだ?

 僕は二つのスキルを持っている。

 どちらも使っていないのに、音が鳴った。

 わからないけど、いつもの相棒を信じよう。


『ピュア』


 魔物に使ったのは初めてだ。

 どうなるかはわからない。

 しかし、一目で分かった。

 ウェアウルフがその辺にいる犬のように感じられたのだ。

 これはチャンス。


 もう一度剣を振りかぶり、振り抜く。

 首が落ちる。

 パァァーっとチリになり、魔石のかけらが残された。

 僕は魔石のかけらを拾い、2人の元へ行きながら考える。


 今のレベルアップはなんだったんだ?

 アレがパーティブースト?

 かかりすぎだろ?

 いや、違うな、今まで縁がないと思って考えてなかったけどピンチブースト――ピンチの時や必死なときにする行動にかかるブースト――だな。

 噂には聞いてたけど、僕には関係ないと思ってたな。

 それとパーティブーストを合わせてレベルアップしたのかな?


 それにしても、レベル3から4までが10年で4から5が2ヶ月ってどういうことよ?

 それだけ濃密な時間だったってことかな?

 よく考えてみれば、女の子を3人も連れてきたり、魔物と戦うなんてやったことなかったもんな。

 

 これが努力するってことかな?

 前の人生も含めてそんなに成果がなかったから、努力なんてしてこなかった。

 目に見えた成果は初めてのことだ。

 これからは努力しよう。


 すると、遠くから声が聞こえてきた。

「イエーイ!レベル上がったZE!フゥー!全部で20も上がったYOー!テンションもゴリアゲー!」

「おめでとうございます!私も一つ上がって『剣聖』スキルが589まで上がりました!」

 どうやら僕の努力はたいしたことなかったらしい。

 もう努力なんてしない。


 そもそも、あのやり取りで会話が成立してるのもおかしいだろ?

 俺のガーベラ取ったら毒盛って殺す。

 それにしても、『剣聖』ってスキル名だったんだ。

 それが、589? 上げすぎでしょ。

 そりゃ、あれだけバトルジャンキーなら上がるのか。

 戦ってるときの動きとか見えないからな。


 サイトも上がりすぎだろ。

 20も上がるんだ。

 僕は一つ上がっただけで「努力の結晶だ」とか言ってたの恥ずかしすぎる。

『勇者』は間違いなくチートスキルだし。

 なんか、僕って僕のままだな……。


 いや、でも『ピュア』が魔物に効くのは大きな収穫だ。

 今まで戦ったことなかったけど、『ピュア』を使えば魔物を倒せる!

 マックス5匹だけど。


 うすうすは気づいてたけど『ピュア』って自分がピュアになってるんじゃなくて、相手に作用するようだな。

 魔物が浄化されたように見えたもんな。

 アドルフお兄様に効いたのもこのお陰だろうな。

 それなら、ガーベラから告白してきたことも説明がつくしな。

 

 これからは、仲間を増やす方向で動いた方がいいだろうな。

 よし、ダンジョンから帰ったら冒険者ギルドでテキトーに見つけよう。

 そして、そいつを『ピュア』で仲間に引き込めばいいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る