第6話 もう出てこない春の陽炎は。
あまりにも二人を見ているのが辛くて、逃げてしまった。
近くにあった自動販売機のガラスに反射する顔は、我ながら辛気臭い顔で、なんだかうんざりした気分になる。そのせいか、間違えて変な味の炭酸ジュースを買ってしまった。仕方がなく飲んだジュースは泥の味がした。お母さんに押し付けよう。キャップを左手で締めながら歩いていると、立ち止まる二人の姿が見える。何か話している様子に駆け寄るべきか決めあぐね、結局歩いていると、まーくんの少し低い声が響いてきた。
「好きなんだ。春乃が。付き合ってくれ。」
心臓が、痙攣するのが分かる。私のことが、好き。なのになんで秋乃にそれを言うの? 嬉しい、はずなのに、少しも喜べない。むしろ、乾いた笑い声しか出ない。リップを塗ってあるはずの唇がやけに乾燥しているように感じてしまう。秋乃が何かを言っているのに、上手く聞き取れない。視界がぼやける。
まーくんはうっかり告る相手を間違えただけで、私のことが好き。秋乃とのことは、誤解だとかなんとか聞こえてきたから、多分、浮気でも何でもないのだろう。私だってまーくんのことが好き。付き合っても問題ない。
でも、目に浮かんでくるこの雫が答えだって、分かってしまった。
秋乃よりもちょっと短いスカートも、秋乃よりも可愛いメイクも、秋乃よりも時間をかけたヘアスタイルも彼からしたら同じだったらしい。そりゃ、秋乃だって同じ様なことをする。でも、比較するだけ無意味だったのだ。だって、比べれば比べるほど、『双子』という枠に拘ってしまうのだから。馬鹿だな。私。なんだか虚無を感じることさえも空しい。
その時だ。
「春乃?」
世界で一番嫌いな双子が唐突にこちらへ振り返った。
「ほら、帰るよ。」
土下座する男の子を無視して私の手を取る秋乃。いつも私のお気に入りを欲しがって、絶対に奪うこの人が嫌いだった。今でも嫌い。
「‥‥うん。」
でも、この温もりだけはどうしてか、好きなのだ。こうやって、秋乃と同一視されて、情けなく泣いている私の代わりに怒ってくれる、その熱が伝わってくるから。本人は絶対に認めないけれども、私には分かる。だって、双子だから。
「ねえ、春乃のそれ、さっき買ったやつ? 」
「『栄養ドリンクに青汁と胡麻ダレを足したよ味ソーダ』のこと? 」
「え、美味しそう。一口ちょうだい。 」
「まじでか。秋乃の味覚やば。」
鏡合わせで笑い合った放課後はちょっとだけ悪くはなかった。
あなたは私の双子。 むこうみず太郎 @mukoumizutaro
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