第3話 苦いあなたに甘い私。

 とはいえ、このことで双子間の仲が悪化するのはまずい。周りがうるさいからだ。昔から大人は私達を2人で1セットのハッピーセットにしてくる。私達が幸せになれないようなセットなのに。でも、大衆は、双子が一対の人形のようにいることは自然なことのように感じるようだ。そんな私達が険悪であるように見られると、余計な詮索が入る可能性がある。普通に面倒だ。どうしたらいいか。


 朝から放課後の今まで考え込んでいてもさっぱりだ。けれども、難しい顔はまーくんが私のいる教室に入ることですぐに霧散した。まーくんの家庭科部での活動は済んだらしい。家庭科部で作ったらしきブラウニーを差し出された。それを喜びながら右手で頂戴した。


 苦いチョコを使ったらしい。甘さが控えめで食べやすく、いくつかあったものがすぐに消えてしまった。いつもは甘味が強いブラウニーが、アレンジされている。甘すぎるものが本当は苦手なことを覚えてくれていたからだろうか。顔がにやけて、彼の顔をしっかりと見られなかった。でも、それと同時にブラウニー以上の苦さが口に広がる。


 まーくんの優しさは私だけのものじゃない。まーくんが双子の妹のことを好きなことなんて、とっくに知っている。でも、妹には内緒でまーくんを独占している。だって、ズルいから。まーくんの優しさを占領して、当たり前みたいに甘受して。それが当然みたいな表情が、ひどく粘ついた感情を呼び起こす。気に食わない。昔からそうだ。双子なのにあの子の方が持っているものが多かった。だから、今まで奪ってきた。今度もそうするつもりだ。

 でも、まーくんはずっと妹の話ばっかりだ。そんなに性格よくないよ。なんて陰口を誘ってみても素知らぬ表情でいる。妹のいいところをぽつりと漏らすと、返ってきたのは輝かんばかりの笑顔なのだから何も言えない。


 だから、今日も三人で帰ろうと、私を見ようともしない彼に、ため息を漏らすのはしょうがないことだろう。

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