カタストロフ本波のひとり飯

オマケ：アイアンクローと林檎

　総合格闘技。

　今ではミックスドマーシャルアーツとか俺からするとよくワカラン名前になっている。

　昔から格闘技の最強はどれだと論議されていて、

　空手だとか柔道とかボクシングとかブラジリアン柔術だとか……言い出したらキリがない。

　そういうのをごった煮のようにやっていたが、結局色んなものが混じり合って

　総合格闘技という格闘技の一ジャンルになってしまった気がする。

　俺も若い頃はプロレス最強！と思っていた。

　だが、もう別の物になっている気がする。それぞれの格闘技で強さを誇れば良さってヤツが伝わるんじゃねェのかなぁ……

　で、何でか知らんが

「オルァ！オッサンが殺されにきたかぁ！」

　大歓声の中、俺は金網の中にいる。

　なーんか知らんが総合格闘技のオファーが来たので行ってみたら……まぁ、客寄せパンダだったってワケか。

「2分だ！2分でケリをつけてやる！！」

　試合相手の兄ちゃんが回りを煽っている。

　おおう、言ってくれる。

　しっかし、ほっそい体なのにやったら筋肉がっちがち。なんだ、あの入れ墨

　……ってトライバルタトゥーとか言うんだっけ。

　そんなモン入れなくても兄ちゃん強そうに見えるんだがな。

　この兄ちゃんはSNSでめちゃくちゃ俺を煽っていたらしいが、まったく知らない。

　目の前にズイと顔を向けられて

「テメェ、SNSで煽ってたけど何も返事しねぇ！チキンかテメーは！？」

「あ、入院してたんで」

　俺が言うと周りがシンと静まる。

「首の爆弾と肋骨が三本折れてる。あと脚の骨にヒビ。今でもちょっと痛いけど、まぁレスラーあるあるだから気にするな」

　兄ちゃんは、首を振ると、

「そ、そぉかい！！なら手加減してやらねぇとなー！！」

「いや、いらんぞ」

　俺が笑顔で返すと、兄ちゃんの顔が引きつった。

　□◆□

　ゴングが鳴る。

　おい、何か静かだぞ。海外の大会ではもう少し歓声があったはずだが。

　……まぁ、俺がロートルだしな。

　さ、とっととやって終わらせるか。

　勝ち負けよりも今は最近の総格ってヤツを味わいたいしな！

　俺が踏み込もうとすると右の頬に衝撃が来た。

　そう思ったらいつの間にか次のパンチが、キックが入っていた。

　最近のは、速いな。殴られた蹴られたと思ったらまた次のがきやがる。

　だが、俺も負けてはおれん！

　兄ちゃんの顔が見えたのでパンチを打たれる前にがっしと兄ちゃんの顔を握る。

「ウォォ！」

　力を入れるが周りがもっと静まる。

　ん？どうした？

　レフェリーが慌てて間に入って、

「モト、反則！反則！！」

　叫びながら、俺を引き離した。

　え！？

　アウトなのか！

　あぁ……そういや、ルール確認してなかったなぁ。

　目潰しと金的以外何でもありの時代から俺も止まってるからなぁ。

　手を離すと同時に俺の頭が震えた感じがして、視界が揺れた。

　ん？

　あ、さっきのパンチが効いたか？

　やっぱり、練習しときゃよかったかなぁ。

　あーあ、ダウンか。

　……ってあの兄ちゃんも倒れてるけどどうなってんだ？

　まぁ、ひょっとしたら、幻覚かもしれんしなぁ。

　□◆□

　で、結局俺は再入院した。

　ここに来る度に落ち着くのだが、今回は同室の患者のじーさんばーさんがうるさくてたまらん。

　外に出ようと思ったらスマホを持ったガキがいっぱいだし、看護師や医者の声がうっとうしく感じる。

　弱ってるせいか、この世に俺の居場所は無いのか……とアホな考えが浮かんだので病院食をやけ食いした。

　やはり飯だ。少しは落ち着く。

　しばらくして、病院食は食い飽きたのでナカから林檎をもらった。

　さすがに昔みたいに握ってジュースとはいかんので、がぶりと食いつく。

　うん、酸っぱいが美味い。

　最近は甘いのもあるがこちらもいける。

　後日、スポーツ新聞を見ると

『史上最悪の凡戦、あっけない2分』

　と、書かれていた。

　なぜか、アイアンクローが効いたらしく兄ちゃんも頭を押さえて倒れたらしい。

　試合は俺の反則負けとなった。

　やっぱり俺には場違いだったようだ。

　それにしても、外でかじる林檎が美味い。

　下を見下ろすと同室のじーさんがリハビリなのか必死に歩いている。

　まぁ、みんなどこかしこで大変なんだなぁ。

　さ、林檎をもう一個食べたら俺もリハビリすっか。

　前みたいに病室で筋トレして怒られたらたまんねぇから歩くぐらいからしようかね。