【 編纂後記 】

 

 正直わたしは懐疑的だった。

「無人」などこの世に存在するはずがない。

 取材するうち、どこかでボロが出て、謎は解明されるにちがいない。そうたかくくっていた。浅はかだった。今さらながら見解を改めさせてもらう。

 たしかに非科学的ではある。がしかし、それを見つめる人間の前では、時に科学は何の意味もなさないことがある。科学するのは人間である。その人間自身が非科学的になればいくらでも非科学的世界はあらわれるのである。そのことを今回の取材で思い知らされた。

 無人といい無人派といい彼らは信じる者であった。宗教信者もまた信じる者である。

「信じる者は救われる」とは聖書の言葉だが、その救済は、時として他者には救われないようにも見える。語呂よく「幸福は降伏」と誰かが言った。というのである。全投入することが正解とされる役者の世界もまた似たようなものかもしれない。

 サミュエル・フラー監督の映画「ショック集団」(1963年公開)をご存知だろうか。殺人事件の謎を解明するために、新聞記者ジョニー・バレット(ピーター・ブレック)は狂気を装い精神病院に潜入する。しかし事件の目撃者である患者たちと接触するうち、彼はしだいに精神のバランスを崩し、自らも狂気に陥ってゆく…。そんな話だ。

 今、わたしはジョニーと同じ境地にいる。  




 真相は藪のなかである。

 


 

 

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