第77話 鳴海の復讐

 詩芽は父親が人質にされたと思い、指定された青山墓地に来た。


 指定された墓石には父親の物と思われる上着が掛けられてあった。


 そしてそこに待っていたいたものは物々しい自衛隊の隊員達だった。


 勿論みんなは物陰にかくれていたが、詩芽には全てお見通しだった。


 そこに一人の男が現れた。


「私のお父さんを何処にやったの。返してよ」

「心配するな。あんたの父親は無事だ。ここにはいないがな」

「だましたのね、私を」

「悪いなお嬢ちゃん。あんたには囮になってもらう。これも国家安全の為だ」

「私は帰るわ」


 その時4発の凶弾が詩芽を襲った。それは劣化ウラン弾だった。特に鳴海を倒す為に開発された弾丸だった。


 流石の詩芽もこの弾丸には対処出来なかった。その上父親の件で注意が少し散漫になっていたので防御が疎かになった。そこを付け込まれた。


 凶弾は確実に詩芽の両手両足を撃ち抜いた。流石の詩芽もこれでは気を集中させる事も出来なかった。


 身体の中心に熱が向かい、これで私は死ぬのかと詩芽は思った。最後の思いを込めて鳴海を呼んだ。


「鳴海さん。ごめんなさい」と。


 詩芽を囮にした後、当然鳴海にも電話で呼び出しがかかっていた。詩芽に命が惜しければ直ぐに青山墓地まで来いと。


 そしてまたこの詩芽の心の叫びは鳴海にも届いた。鳴海は詩芽の気を辿って居場所を突き止めたが、詩芽の気は弱弱しくなっていた。このままでは危ないと思い、鳴海はそこに転移した。


 この際それを見られようと構ってはいられなかった。幸い詩芽を取り囲んでいた自衛隊からは、死角になる墓地に出現出来た。そして一目散に詩芽の所に駆け付け、詩芽を抱き起こした。


 その時だった。詩芽の身体ごと鳴海の心臓を狙って一発の凶弾が放たれた。その凶弾は詩芽の身体を貫通し鳴海に届いた。そして詩芽の命を奪った。


 鳴海はこの程度の事で死ぬ様な男ではなかったが詩芽は違った。


 この時鳴海は生まれて始めて慟哭した。まるで自分の愛する人をなくした様に。


「今だ、撃て!」と言う号令と共に1,000発にも及ぶ劣化ウラン弾が鳴海を襲った。


 鳴海は自分のガウンコートで詩芽の身体がこれ以上傷つかない様に庇った。勿論中にはバリアを張っていた。


 例え劣化ウラン弾と言えども鳴海を殺す事は出来なかった。


 しかし鳴海はその銃撃による煙幕と鳴海が巻き上げた砂埃の中で、

「覚えておけ人間ども。この代価は高くつぞ。お前達の魂で支払ってもらうからな」


 そう言って鳴海は詩芽共々その場から消えた。


「撃ち方やめー。死体を確認しろ」

「はい」

「隊長、死体がありません。何処にも」

「馬鹿な、それはどう言う事だ。よく探せ」

「本当です。何処にもありません。一片の肉片さえありません」

「二人共か」

「はい、そうであります」

「これは一体どう言う事なんだ」


 その報告は官邸に持ち込まれた。


「それはどう言う事かね、松前君」

「鳴海に逃げられたとしか言いようがないかと」

「しかし仲間の女は殺しんだろう」

「はい、それは確かに」

「それでは余計に不味いのではないのかね」

「そうかも知れませんね」


「鳴海が生き残って仲間が殺された。そうなれば彼はどうする」

「恐らく我々に対する復讐に走るのではないかと」

「あの新兵器の劣化ウラン弾はどうだったのかね」

「仲間の女には効果があったようですが、鳴海を殺すには至らなかったようです」

「あの弾でも殺す事が出来なかったと言うのかね」

「はい、残念ですが」


「他に手は」

「今の所ありません」

「君ー」

「首相、ご心配なく。首相は我々が総力を挙げてお守りいたしますので」


 この頃鳴海は例の特別室にいた。そこに詩芽の遺体を安置して傷口を修復していた。これで無傷の状態に戻った。後は魂だけだ。


「詩芽、しばらく待っていてくれ。必ずお前を復活させて見せる」



 その後鳴海はリンとリカの二人を例の魂の霊安室に呼んで今後の計画について話した。


「なぁ二人共、ちょっと聞いてくれないか。俺が、いや俺達がこの地に来て随分経った。しかしそろそろ潮時かも知れん」

「ではこの地を離れてまた戦場に戻ると言うのですか」

「それもありかも知れん。どうするかはお前達に任そうと思う。ここに残るもよし、また戦場に戻るも良しだ」


「鳴海さんは?」

「俺にはやる事が出来た」

「詩芽さんの敵討ちですか」

「おかしいか、この俺がそんな事をするのは」

「いいえ、彼女は私達に取っても妹の様なもの、そしてまた戦友でしたからね」

「そうよ、戦友の仇はちゃんと取ってやらないとね」


「いいのか、今度は下手をするとこの国を敵に回す事になるかも知れんぞ」

「良いんじゃないですか、そんな事。いつもの事じゃないですか」

「それにこんなやわな国の兵力なんてたかが知れてるし。問題ないっしょ」

「お前はいつもブレなくていいな」


「分かった。それなら自衛隊の殲滅を手伝ってくれ。あと国の中核の馬鹿どもの抹消は俺がやる」

「その後はどうします」

「そうだな、もしかするともうこの国にはいられなくなるかも知れんな。なら後の処理はしておいた方が良いだろう」

「そうですね。それは私の方でやっておきましょう」

「すまんが頼む」


 こうして鳴海とリンとリカは戦後処理について話し合いその準備に入った。


 そしていよいよ復讐の時が来た。狙う第一目標は詩芽を殺し、鳴海に1,000発以上もの劣化ウラン弾を浴びせた自衛隊市ヶ谷駐屯所だ。


 ここへは鳴海とりとリカの3人で向かった。ただし3人は仮面を付けて。


 と言っても状況を見れば誰がやったかは直ぐにばれるだろうが公の犯人確定の証拠にはならない。

 

 3人は真正面から入り、手当たり次第に処刑して行った。隊員に反撃出来る余地など全くなかった。


 一部は保管してあった劣化ウラン銃を持ち出して反撃した者もいたが、この3人には全く意味をなさなかった。


 鳴海がやったのと同じように全ての弾は彼らを避けて行ってしまった。


 どんなに強力な弾丸であろうとも当たらなければ空砲と同じだ。その事を彼らは全く理解してなかった。


 翌日市ヶ谷駐屯所が何者かによって襲撃されたと言う報告が官邸に上がった。それも駐屯所は壊滅だと言う。


 そこで働く全ての者が殺されたと報告された。生き残った者は皆無だと。そんな馬鹿なと関係者は驚きそして恐怖した。


「どう言う事だね、これは。まさか」

「かも知れません。鳴海の復讐が始まったと見るのが妥当でしょう」

「この前、鳴海達を狙撃したのも市ヶ谷駐屯所の部隊でしたから」

「しかしそれにしても皆殺しとは。一体何人殺したと言うのだね」


「まだまだ私は彼の能力を過小評価していたのかも知れません」

「ともかく関係各所に緊急警備体制を敷くように手配したまえ。そしてマスコミには真相は伝えない様に」

「はい、承知いたしました。今マスコミには事故の可能性があると伝えてあります」


「で、次は何処を狙うと思うかね」

「わかりませんが警察当局か、もしくはここと言う事もあるかも知れません」

「冗談じゃないぞ。日本の中枢が狙われたなんて事になったら世界中の笑いものになる」


 その2日後、官邸に一通の脅迫状と言うより挑戦状と言うべき物が届いた。


 それには明日4月9日の午前10時に日本の政治の象徴である国会議事堂を破壊しに行く。阻止したければ出来る事をしてみるがいい。イニシャル、Nと書かれてあった。


 これに対して首相を始めとする各閣僚達が協議に入った。ここまで来ては首相も今までの事を隠しておく事も出来ず真実を語った。


 そんな重要な事を、何故我々に知らせてくれなかったのかと、そこに集まった閣僚達からは不満の声が吹き荒れたが、いらぬパニックを起こさない為だったと何とか言い逃れた。


 大事な事はこれからどうするかだ。ある者はそんな事が起こるはずがない。気のふれた者の戯言だろうと言う者もいたが、鳴海に関する秘密ファイルを見せられて言葉を無くしてしまった。まさにとんでもない化け物だった。


 取り敢えずは機動隊の緊急配備とSWATも出す。そして陸上自衛隊も配備する事にした。


 しかし陸上自衛隊の緊急出動には名目がいる。勝手に出せば野党やメディアや国民が黙っていないだろう。


 だからこれをテロによる攻撃だとして、それから国会議事堂を守る為の緊急出動だとした。


 その日、国会議事堂正面の門には3,000人の警察官が配備された。その後ろに更に装甲車等の車両を備えた5,000人の自衛隊が配備された。


 これは戦後初めての自衛隊による防衛出動だった。


 その為、空には各報道機関のヘリが飛び交った。そして歩道にはこれまた200人を超える報道陣が詰めかけていた。


 勿論政府は安全の為、周囲2キロ以内に接近する事は禁止したが、そんな事では報道は成り立たないと、禁止事項を無視してカメラの林が乱立していた。


 国会正門前から国会前に至る道は通行禁止になっていた。その人っ子一人いない道路に一人の男が現れれた。


 黒い戦闘服に黒いマントコートを翻して白い仮面を付けて髪の毛は逆立ち野生の気迫を持った男だった。


 ここから先はリンもリカも全てを鳴海に譲った。言ってみればこれは鳴海の弔い合戦なんだから。


 その男を狙ってシャッターが一斉に切られた。しかしその瞬間何が起こったのか報道陣達は夢にも思わなかった。


 まさか自分達が撃たれるとは。その男の持つ自動小銃が片っ端から報道陣達を撃ち殺して行った。それこそ逃げ惑う暇もなかった。


 ここは戦場だ。そんな所で見物してる奴が悪い。死んで当たり前だ。これは世界の常識だ。


 しかし日本人はこんな常識すら知らなかった。要するに平和ボケした無知でしかないと言う事だ。


 やっと自分の置かれた状況が分かって逃げ回ったが、その時には8割方が殺されていた。


 しかしこれはほんの幕開けでしかなかった。

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