第78話 鳴海の新たな旅立ち

 鳴海の攻撃が始まったのを見た警察のSWATの指揮官が「撃て」と号令をだした。


 前面に並んだ狙撃班1,000人から一斉射撃が始まったが、ターゲットは平気で歩いてくる。何故だ。何故死なない。


 どんなに撃ってもその弾丸は全て逸れて行く。本人には全く当たらないで皆逸れてしまう。そんな馬鹿なと誰もが思ったが事実だ。


 そしてその男はマントの中から大きな丸いドラムマガジンのついたマシンガンを取り出し撃った。


 それは普通のマシンガンではなかった。それはかって佃組相手に戦争した時に使ったマシンガンと一緒だ。だから弾丸は小型のミサイル弾だった。


 それが爆裂した所では数十人の警察官が爆風で飛ばされ、中には手足を吹き飛ばされた者も多くいた。


 そんなミサイル弾が何発も何発も炸裂した。一体あの男はどれだけの弾薬を持っているんだろう不思議に思うほど。


 前面を守っていた3,000人の警官隊はほぼ全滅だった。


 その後自衛隊が反撃に出たが結果は同じだった。こちらの弾は一発も当たらず向こうの弾は着実に死を招いて行った。


 指揮官は官邸から聞いたこの男の二つ名『戦場の死神』の本当の意味を知った。


 ミサイル弾で装甲車もガラクタに変えた後、その男は拳銃を抜いた。


 それは大きな銃だった。確かあれはデザートイーグルと言う銃ではなかったかと指揮官は思った。ただデザートイーグルにしては少し形状が変わっていた。


 普通デザートイーグルの銃身は三角形をしているが、これは長い四角形のままだ。しかしその威力は正にデザートイーグルだった。


 頭部を撃ち抜かれた隊員は頭の半分が千切れ飛んでいた。あれはもう銃などと言う代物ではなかった。


 それをこの男は連射した。何発も何発も、一体マガジンには何発入ってるんだと思うほど。


 それともう一つ不思議な事に音がない。銃から発射音がしないのだ。


 銃身の銃口からは確かに火が出てるが音がしない。消音器をつけている訳でもないのに。しかし確実に死を与えている事は間違いない。


 このままでは間もなく我が部隊も全滅するだろうと思った指揮官は撤退命令を出した。屈辱ではあるが隊員の生命には代えられない。


 この戦いで警察官の殉職者は2,698人。重傷者215人、軽傷者87人。ほぼ全滅に等しい。


 自衛隊員殉職者は4,158人、重傷者325人、軽傷者517人。こちらも全滅に近い。


 合わせた殉職者は6,856人に上る。大災害並みの死傷者だ。政府はこの責任を一体どう取ろうと言うのか。


 それだけではない。上空を舞っていたテレビの取材ヘリも2機ミサイル弾で落とされた。残ったヘリは蜘蛛の子を散らすように逃げ飛んで行った。


 まさに戦後始まって以来の市街戦と言っていいだろう。しかも一方的な殺戮だった。


 そしてその男は最後の仕上げを行った。国会議事堂に向かってありったけのミサイル弾を撃ち込んだ。中央部分は完全に破壊され、後ろまで何もなくなっていた。


 後日首相官邸を離れた秘密の建物に設置し、事後の対策会議が持たれていたが誰の顔にも暗澹たる思いが滲んでいた。


 我々は選択を誤ったんだろうかと。誤った事に間違いはない。こんな結果になったんだから。


 そもそもあの男を敵に回すべきではなかった。あまりにも認識が甘かった。いや甘過ぎたのだ。


 世界最強の傭兵とはこれ程の者だったのか。世界があの男に敵対しない意味を今初めて知らされた。


 ではどうすればいいのだ。何か他に手はあるのか。いや何もない。しかし我々はあの男の仲間を殺している。


 少女を罠にかけて殺した。それをあの男が許してくれるとは到底思えない。


 ではどうすればいい。我々はあの男に降参するしかないと言うのか。そんな馬鹿な。


 そんな事をしたらこの日本と言う国はどうなる。それは死んでも出来ない事だ。


 ではどうすればいい。誰も何も言えなかった。我々は竜の尻尾を踏んでしまったのかも知れないと思った。


 しかし事ここに至っては全力で対抗するしかないだろうと言う意見が全体を占めた。


 ただ一人、松前だけがそれに反対したがその意見は聞き入れられなかった。


 松前は暗澹たる気分だった。これでまた犠牲者が増えると。


 彼らはまだ分かってないのだ。鳴海と言う男がどう言う男なのか。


 そして世界最強の傭兵がどんな者なのか、この平和ボケした官僚達には。


 勿論その事件当時、犯人は仮面を被ってたのでその正体はわからなかった。


 しかし政府関係者にはその正体がわかっていた。恐怖と共に気が動転した一部の官僚が、国家公安委員会を動かして鳴海と言う男を逮捕せよと最寄りの警察署に指令を出した。


 その知らせに警察が動いた。警官隊が鳴海の家を取り囲んで鳴海の逮捕に向かった。


 これは幼稚な寸劇の様なものだったが、鳴海は付き合って警察署に連行されてやった。


 麻布警察署では大喜びだった。国を騒がせたテロリストを逮捕したんだと。所が悲劇はその後直ぐに起こった。


 麻布署に着いた鳴海は、直ぐに気を流して手錠を破壊した。そしてデザートイーグルを取り出して、警察署員を全員撃ち殺して行った。


 署長の部屋に辿り着いた時には、その署で生き残ってる者はもう署長だけだった。


「お前が署長か。お前でこの署の生き残りは最後だ」

「待ちたまえ。何を言ってるのかわかっているのかね。君は」

「下らん戯言はあの世で言うんだな」


 そう言って鳴海は署長の頭をデザートイーグルで撃ち抜いた。


 この報告は直ちに仮の首相官邸に報告された。麻布署が壊滅し全員の死亡が確認されたと。


 そして次はお前達全員だと、警告文が首相宛に届いた。今度こそ首相はじめ全閣僚が震撼した。


 そして警告通り先ずは3人の人間が殺された。日本国首相と法務大臣、そして内閣情報調査室室長だった。


 その後暫定政権を打ち立てた政府は今後の対応に苦慮した。あの時松前の言った言葉に従っていればと。


 政府にも落ち度はある。だまして一人の少女の父親を誘拐し娘を囮にしてその娘も撃ち殺してしまったのだ。

 

 その事は鳴海に捉えられた非合法工作員達の口から伝えられその証拠も鳴海に握られていた。


 今回の悲劇は全てここから始まっていた。そして今度こそ思い知った。あの男を敵に回すとどう言う事になるかと言う事が。


 これは正に国家存亡の危機に匹敵する。まさかたった一人の男に国を揺るがされるとは誰一人思いもしなかった。


 それだけこの国には危機管理能力がないと言う事だろう。


 そしてこの件に関わった者全てが恐れ慄いていた。次は自分の番ではないかと。


 そして暫定政府が出した結論は、今回の騒動は超法規的処置として一切の罪を問わないと言うものだった。


 その代わりこれ以上の破壊工作はしないで欲しいと言う条件で鳴海に申し入れをした。しかしここで全閣僚が死ぬほどの恐怖を叩きこまれた事は言うまでもない。

 

 鳴海も一応の目的を達成したのでこの案を呑んだ。ただしそれは国に対する破壊工作の中止と言う部分だけだった。


 つまり個々に於いて必要とあれば今後も破壊工作はすると言っている様な物だ。


 そしてもし将来に渡ってこの条文を破った時はこの国を壊滅させるとも明言した。


 政府は事の真相を国民に対して説明し、自分達の非を認めた謝罪した。そしてこれまでに被害に合った者達の補償は国がすると伝えた。


 その後政府は各報道機関にも今後この件については一切の追加報道しない様に要請した。


 もし独自で報道した場合は、その報道機関がこの日本から消えても政府は一切その責任を負わないとまで明言した。


 そしてそれは各警察機構や裁判所にまで及んだ。これは強制ではないが政府としてはどうなっても知らんと言ってるようなものだ。


 ただし最後まで今回の事件の首謀者の名前が明かされる事はなかった。ただ某テロリストとだけ伝えられた。


 ここに日本国は闇のフィクサー以上の脅威を抱える事になってしまった。


「所長。一応の決着は付きましたがこの後どうするつもりですか」

「そうですよ、鳴海さん。何ならこのままこの国を殲滅してしまいますか」

「ほんと、お前はブレないな」


「なぁ、リン、リカ、俺はしばらく旅に出ようと思ってる」

「旅ですか、また何処へ」

「それは俺にもまだ分からん。ともかくこの世でない所へだ」


「またまた、鳴海さん、あの世へでも旅立つつもりですか」

「かも知れんな、今度は一つ次元を壁を超えてみようかと思ってる」

「その目度がついたと」


「まぁーな、まだ完全ではないが入り口位までなら行けるかも知れん。それに詩芽の為にもお前達の為にも大量の魂がいるからな」

「そう言う事ですか。わかりました。なら俺は止めません。でも必ず帰って来てくださいね。待ってますから」


「本当ですよ。それまではまたリンさんと「新ダブル・ドラゴン」で頑張ってますから」

「ああ、分かった。期待に応えよう」


 鳴海は今度はリンとリカの今の体から魂を引きはがして本来の体に戻した。


 どうやら二人はまた戦場に戻る様だ。鳴海が再び帰って来るまで。


 こうして3人は再会を誓って別れた。


 大阪の北斗グループに関してはリンが手を打っていたので然程の混乱もなく運営陣が入れ替わった。


 詩芽の父親、長谷川組組長の長谷川定(さだむ)は無事保護されたがその後娘が殺されたと知って一時何も考えられないでいた。


 無理もない長谷川は大のドタコンだったのだから。しかし組を預かる身としてはそうも言っていられず一応平常心は保って居るが心の中では国に対する怒りが煮えくり返っていた。


 そして東京の『エリハルコン・プロダクション』では混乱に陥っていた。


 勿論リンによって鳴海の直筆の手紙が届けられ、しばらく旅に出るので後の運営は皆に任せると書かれてあった。


 ただ念の為として鳴海の辞表も同封されてあった。会社運営に必要なら使ってくれと。


 曽根亜里沙に至っては泣きわめいていた。どうして私を置いて黙って出て行くのよと。


 豊洲靖男はいつかこんな日が来るかも知れないと予想していた。


 太井峰子はやはりと思った。そして昨今の騒動もきっと鳴海が絡んでいるのだろうと思った。そして「ありがとう鳴海さん」と心の中で言った。


 誰が死んでもいなくなっても、それでも世の中はいつもの様に動いて行く。それが世の中と言うものだ。


 長らくご愛読ありがとうございました。これで「地上最強の傭兵」の第一部を終了いたします。


 ただこれで終わった訳ではありません。次回第二部はまた場所を変えて鳴海の活躍をご期待ください。


 ではまたお目にかかりましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る