第75話 大槻源蔵の息子連星の最後
鳴海はリカに大槻源蔵を追わせて、鳴海はローを追った。そしてリンは連星と決着を付けるべく対峙していた。
ローがこの連星にどんな力を付けたのか。リンはどっちにしてもろくなものではないだろうと思っていた。
リンは何を思ったのか気刀を収めた。まさかこの連星と素手で戦おうと言うのだろうか。
しかしリンにしてみれば、連星の力が分からないなら連星もまたリンの力がわからない。
それなら同じだろうと言う事でゼロから始めて見る事にした。
先ずは双方の打撃戦から始まった。この展開は闇試合の帝王戦とほぼ同じだった。
ただ少し違う所は連星の連打の勁は帝王よりも遥かに強かった。
しかしリンもまたあの時の勁ではない本気の勁を出していた。これにより双方互角と言う所だった。
この時連星から横殴りの一撃が飛んで来た。それでスウェイバックして避けたつもりだたが胸元が裂けていた。
リンは何故だと思った。完全に間合いは切ったはずなのにと。その時連星の爪はあの燐蛾と同じように長くのびていた。
燐蛾と違う所は連星の爪は必要に応じていつでも伸ばしたり縮めたり出来ると言う事だった。しかもその先端は鋭利で何でも切り裂けた。
リンは胸に滲んた血を指で掬って舐めた。鉄分の味がした。では俺も本気で行くかと、あの帝王戦で使った同じ技で応酬しようとした。
つまり連星の拳を掌で受け止めそこに発勁を打ち込んで拳も腕も破壊しようとしたのだがその瞬間連星は手を開いて四指を合わせてリンの掌を突き抜いた。
辛うじてリンは蹴りで間合いを取って離れたが右手には四つの穴が開いていた。
「ほーその指にはこんな使い方もあったとはな」
「お前の右手はもう使い物にならん。刀を捨てたのがお前の敗因だ。死ね」
もう腕を捕られる心配もないと知って連星は両手の指を伸ばして切り裂きに来た。
リンは右手を後ろに回して左手だけで防いでいた。これは簡単にやっている様に見えるが、連星の一撃一撃には途方もない勁が乗っている。
普通に受けたのでは受けた腕の方が粉々になってしまう。そう言う攻撃をリンは片手で捌いていた。
しかし流石に二本対一本では分が悪い。リンの傷は少しづつ増えていた。今はまだ致命傷に至ってはいないがいつまで防ぎ切れるかが問題だ。
二本対一本で絶対に防ぎ切れないもの。それは両手同時による攻撃だ。
連星は両手を左右に持ち上げて両方から爪で袈裟に頸動脈を狙って来た。流石にこれは幾らリンと言えども防ぎ切れないだろう。
にも拘らず連星の両腕が左右に弾かれた。何故だ。何故片腕で両腕を弾く事が出来る。
これこそがリンの必殺技、飛連防技だ。片手でほぼ同時に二か所の攻撃を防ぐ事が出来る。
そして後ろに回していた右手が前に出た。その右手は薄く光っていた。それは気の光だった。
そこから放たれたのは気功拳の古龍砲。全身の気を一点に集めて拳から打ち出された気の拳だ。受ける事など不可能。その拳で連星は体を貫かれた。
流石の連星ももう助かる事はないだろう。しかし連星の顔には微かな微笑みがあった。まるで自分の死を喜んでいる様な。
『そうか、お前はこれを望んでいたのか。悲しい奴だな』
そう言ってリンは去った。
鳴海はローに追いついた。
「爺さん、もう逃げ場はない。観念するんだな」
「お前達の様な者がいようとはな。良い実験体になる。感謝するぞ」
そう言ってローは呪文と言うか、梵語のお経の様な物を唱えだした。
すると鳴海の意識が混濁し、天地がひっくり返るような感覚に襲われた。
なる程、これがロンが言っていた人を超えている人間と言う事か。
鳴海は体内の気を凝縮してその気勢一気に体外に飛ばした。そしてリーの呪文を吹き飛ばしてしまった。
「爺さん、そこまでだ。俺にそんな誤魔化しは利かん」
「まさか、何故だ。何故わしの凡呪文が利かん」
「そんな物は低俗な人間にしか利かないんだよ。俺や俺の仲間には子守歌にもならん」
「馬鹿な、お前は何だ。お前は人間なのか」
「俺は『戦場の死神』と呼ばれている男だ」
「『死神』か、なる程『魔人』では勝てん訳か」
そう言ったローの首を鳴海の気刀が払った。何歳とも知れず生きて来た魔人も遂にここに終焉を迎える事になった。
リカは大槻源蔵を追って奥の間まで来ていた。そこには最後の砦として重装備をしてマシンガンを持った者達が10人待っていた。
この装備は普通の警察でもやくざでも不可能な物だった。唯一自衛隊か米軍辺りからなら手に入れられる物だろう。
「よくここまで付いて来たな。しかしここがお前の墓場だ。お前の仲間も今頃は連星とロー大人に殺されているだろう」
「誰が殺されてるって。舐めるなよ爺さん」
リンの後ろに立ったのは鳴海とリンだった。
「馬鹿な、何故お前達がここにいる。連星はロー大人はどうした」
「あいつらは俺達が片づけた。今頃地獄でお前が来るのを待ってるだろよ」
「そんな馬鹿な事があってたまるか。あやつらは人類最強なんだぞ」
「人類最強か。面白い事を言う。なら俺は地上最強だ。どっちが強いか試してみるか」
そう言って鳴海はズイと前に出た。10丁のマシンガンの前に。
「撃て、こ奴ら全員を撃ち殺せ」
10丁のマシンガンが火を噴いたが、どれ一発として鳴海達に届く物はなかった。みんなまるで標的から逃げるように外れて行った。
「それこそ弾の無駄遣いだな。それって政府の備品じゃないのか。なら俺達の税金で買ったものだろう。無駄遣いするんじゃねー」
「撃て、撃て、撃て、撃ち殺せ」
何度撃っても同じ事だった。それこそ全弾撃ち尽くすまで撃ったが一発も鳴海達にはかすりもしなかった。
「どうだ気が済んだか、それだけ無駄遣いして」
「馬鹿な、馬鹿な、お前は化け物か」
「言ったはずだ。俺は地上最強だってな。お前程度の人間でどうこうなる相手じゃないんだよ。それじゃー掃除するか。リン、リカ、やれ」
その声に合わせて二人の気刀が宙を舞う毎に10人の首が地に落ちた。
その光景を見た大槻源蔵は恐怖の余りその場に崩れ落ち、何かうわ言の様な事をつぶやいていた。
「少し気がふれたか。なら正気に戻してやるか」
そう言って鳴海は大槻の右腕を切り落とした。その痛みで大槻は意識を取り戻し、痛みの為にのたうち回った。
「お前が今まで人に加えた痛みに比べればそんなもの微々たるものだ。わかっているのか」
「助けくれ、わしが悪かった。命だけは助けてくれ」
鳴海は黙ってもう一本の腕も切り落とした。
大槻は余りの痛さに言葉も出ず、口から泡を吹いていた。
「選択をさせてやる。もっと痛みに耐えてみせるか、それともここで死ぬか、どっちがいい」
「どっちも嫌じゃ、わしはもっともっと生きたいのじゃ、助けてくれ。金はいくらでもやる。1兆円でも2兆円でも、だから助けてくれ」
「欲張りだな爺さん。あんまり欲をかくと閻魔様に嫌われるぞ」
鳴海はここで大槻源蔵の首を落とした。
「あれだけ裏の世界で君臨してきて来た妖怪が最後はこの様か。馬鹿々々しいな。帰るぞ、リン、リカ」
「ああ」
「そうね」
最後に鳴海達はこの大槻源蔵邸を炎で灰にして去った。
この事件は大金持ちの大邸宅の火災としてのみ記事にされたがそれ以上の事は何も公表されなかった。
新聞社もテレビ局も多かれ少なかれ大槻源蔵の影響を受けている。今はこれ以上の報道は出来なかった。
しかし政財界はテンヤワンヤの大騒動だった。この後どうなるのかと政府関係者は肝を冷やしていた。
ここ首相の官邸室でもそれは同じだ。
「松前君、何が起こったのだね」
「どうやらあの大槻源蔵様が殺された様です」
「それは誰にだね」
「恐らくは」
「やはり彼だと言うのかね」
「他に出来る者がいるとは思えません」
「ふむ、ならこれからどうすべきかね」
「でも首相、考えようによっては良い事かも知れません。我々に取っても足枷が外れたのですから」
「確かにそれはあるが、これからの力関係が難しくなるね」
「確かにそれはありますが首相ならそれも可能でしょう」
「そうだね、今後も協力を頼むよ」
「はい、心得ております」
鳴海は事の顛末を話せる範囲で太井峰子に話した。そして連星と大槻源蔵が死んだ事を。
「そう、兄さん死んだの。ねぇ兄さんの最後はどうだったのかしら」
「俺は見てないが、何でも笑ってたらしいぞ」
「そうか、兄さんやっと楽になれたんだ。鳴海さんありがとう」
「別に俺じゃやないがそう伝えておくよ。で、親父のほうはいいのか」
「ええ、いいわ。あの人はもう関係ないから」
「そうか、わかった」
そしてここに一人、人生の区切りのついた者がいた。
この先、太井峰子はどう生きるのか、それは本人に任せようと鳴海は思った。去るも良し、残るも良しだ。
誰が死のうが生きようが世の中はいつもと同じように動いて行く。それが世の中と言うものだろう。
ここにも二人、大槻源蔵の事を考えている者がいた。関西の影のドンと呼ばれる白木泰三とその孫の白木彩だ。
白木彩は鳴海の従妹に当たる。白木彩の母親は鳴海の母親と同じ古の巫女の血を受け継いでいる。
そしてこの白木彩もまた巫女の直系だ。そして少し未来が見えるらしい。流石の白木彩の未来視を持ってしても今回の結末は視えなかったらしい。
それだけ尋常でない要素が多かったと言う事だろう。白木彩に取っては鳴海もまた視えない謎の人物として映っていた。
白木彩は一度本家に行って鳴海の母、鳴海冴音に会って来ようと思っていた。
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