第17話 リンの復活と二人の闇試合
弁天プロダクションの件は一件落着となった。長谷川組が『弁天プロダクション』のバックについてから、タレント達の待遇面での改善もあったようだ。
それに外部に対する攻撃的な姿勢も一応はなりを鎮めた。その手段を失ったんだから仕方ないだろう。
長谷川組もそんなものには手を貸さなかった。そんな事をしたら鳴海を敵に回ってしまう。それは死んでも出来ない相談だった。
『さてと、東京の件があったな。それではやはり、ここはあの男に起きてもらとするか』
鳴海はリカを蘇らせた部屋で同じ儀式を執り行った。それは魂復活の儀式だ。
亜空間にあるリンの魂を、刈り取った多くの人間の魂と鳴海の気力を使ってリンを引き戻した。
ただし今回もリカと同じで、リン本人の肉体ではなく、仮の日本人の肉体に入れた。この日本で仕事をするには、その方が面倒なくていいからだ。
勿論リンの肉体は完全な状態で保存されている。それは死んだ時点の状態だった。
ただし身体の損傷は全て治癒してある。だから必用になれば、いつでもこの本体に戻せると言う事だ。リンも今はそれでいいと納得していた。
「待たせたな、リン」
「いえ、また一緒にやれるんですね」
「そうだ、また一緒にやろう」
リンと鳴海は外人部隊にいた時、同じパーティで行動を共にしていた。
まだ鳴海が『戦場の死神』と呼ばれるようになる前の話だ。そしてリンは鳴海に命を救われた事がある。その時の恩をリンは忘れてはいないのだ。
リカはそれぞれが独立して傭兵になった時、リンの相棒として一緒にパーティを組んだ。
そしてリンがリーダーだった。リンの実力は、如何にハリケーンの様なリカの力を持ってしても、遠く及ばなかった。そして鳴海はリンの兄貴分だ。
リンの父親は中国人だった。ただ共産党支配の体制に反旗を翻し、レジスタンスとして活動をしていたが、身の危険を感じて、一時アメリカに亡命するような形で逃れた。
そこで知り合ったアメリカ人の女性と恋に落ち結婚した。そして生まれたのがリンだった。
それからもリンの父は色々な形で本国のレジスタンス達を支援していた。
だがリンが高校生の時に本国に依頼されたヒットマンよって両親の命は絶たれた。
たまたま命拾いしたリンは、その後、父の親友だった架橋の有力者に養子として育てられた。
その新しい父、丁雲嵐は事業家であると供に中国武術に造詣が深かった。そしてリンに非凡な才能を認めたので中国武術を習得させた。
リンの才能は物凄いスピードで全ての技術を吸収していった。そしてついに凡人の到達し得ない境地に辿り着いた。
それでも尚高見を求めたリンは親の敵を討つ事を視野に、一般の大学卒業後、アメリカのメリーランド州アナポリスにある海軍士官学校に入った。
そこで基本的な軍事知識と軍事技術を学び、ヨーロッパの外人部隊に入った。
海軍士官学校当時の彼の成績はいつもトップだった。特に銃器や格闘技術を始とする戦闘技術はずば抜けていた。
そして電子工学の天才にして、インターネットのハッキングの腕も超一流だった。
リンは外人部隊でもメキメキとその頭角を現した。その当時、最も強いと言われていたのが『イエロードラゴン』と呼ばれた鳴海だった。
リンも何度か鳴海に挑んだが一度も勝てなかった。しかしこの二人に追従出来る者は他には誰もいなかった。
やがてリンは『ブルードラゴン』のコードネームを持った。青竜だ。そして二人は『ツインドラゴン』として内外に恐れられた。
ただリン達はコンゴ内戦の折、自軍が敵の罠にはまり、包囲された中での対戦となった。
誰もが全滅すると思った時、一つの突破口を開いたのが鳴海だ。そしてみんなを逃がす為に、殿を務めたのがリンだった。
ただ残念ながら、リンが部隊を逃がした後、敵の執拗な猛攻でリンは致命傷を負ってしまった。俺もここまでかとリンは思った。
そこに戻って来てリンを助けたのが鳴海だった。鳴海はその場で緊急の気による治癒を行った。もし鳴海が来なければリンは確実に死んでいただろう。
その後二人はお互いの成長を誓い合って、傭兵として独立した。鳴海は一人で行く道を選んだ。
リンはリカと言う相棒を得て活動した。そしてどちらも、その働きは驚嘆すべきものだった。
既に鳴海とリンの戦闘能力は人間の領域を超えていた。元々鳴海は不思議な力を持っていたのだが、リンも少しずつその領域に近づきつつあった。
ただ5年前、ある戦闘でリンを含む部隊が強襲を受けた。普通ならリンの能力を持ってすれば突破出来たはずだった。
しかし今回だけは様子が違った。向こうの大将、何と言ったか、確か『ゲゾン』と名乗った。そいつは普通ではなかった。
もはや人間ですらない。幾ら銃弾を浴びせても死なないのだ。みんなは「そんな馬鹿な」と我が目を疑った。
戦場に現れた一匹の化け物。リンはその姿を決して忘れはしない。
それは父が死に際に書き残した名前『ゲゾン』と同じだったからだ。
例えこの身は果てても、我が魂はお前を食い尽くしてやると誓っていた。
そしてその部隊は全滅した。リンもリカもその時に死んだ。
鳴海はその情報を得て、この戦闘現場に駆けつけた。そして戦場を見渡してみると、屍の山ばかりだったが、その中でまだ光ってる魂があった。
一つ、そしてもう一つは弱いがまだ精魂が生きている。鳴海はリンとリカの亡骸を回収した。いつかまたお前達をを生き返らせてやると誓って。
鳴海は特殊な部屋で、魂魄遊離の法を使ってリンとリカの魂を亜空間に隔離した。いつかまた肉体に戻す為に。
その為には膨大な量の人間の魂がいる。鳴海が『戦場の死神』となったのはその為だったのかも知れない。
そして今、その誓いが実行された。リンが再びこの世に蘇った。
亜空間での修練と妖魔達との戦いで、更に戦力をアップさせたリンが。
「行こうか、リン。お前はこれから俺の相棒だ」
そして鳴海の『北斗トラブルシューティング』に三人目の従業員が誕生した。ただしリンは副所長として就任した。
「これで俺も、もう少し自由に行動出来そうだ」と鳴海は喜んでいた。
鳴海は東京の『エリハルコン・プロダクション』の社長の件を受ける事にした。
それで最終調節の為、週末にみんなで東京に向かった。勿論詩芽も一緒だ。
喜んだのは勿論亜里沙だった。小躍りしながら喜んでいた。
豊洲マネージャーも、これでやっと安心出来ると喜んでいだ。
鳴海の様な者がいるのといないのとでは、この業界では大きな違いになる。ここはやはり弱肉強食の世界なのだ。
揉め事も多々ある。そしてその多くに、裏社会の力が関わる。鳴海はその為の『守り神』だった。
形だけだが、その日の内に鳴海の社長就任の祝いが行われた。
基本的には今の所、週末にこちらに顔を出すと言う事で話がまとまった。
すると詩芽がそれなら私もついて来ると言い出した。
「何でよ、詩芽ちゃんはいいのよ」
「そうはいきません。私は所長の助手ですから」
と既に女の戦いが始まっていた。
リンはこの状況を微笑ましく思っていた。それにしても『北斗トラブルシューティング』には、凄い面子が揃ったものだと思った。こんな女子高生でさえ、リカに匹敵する力を持ってるとは。
リンは語学にも堪能で、彼もまた数ヶ国語が喋れる。その中には日本語も含まれていた。
とは言え今は日本人の身体に宿ってるわけだから、日本語は話せて当然なんだが。
一応の就任式が終わった後、今度はまた、夕食の時に一緒になろうと言う事で、鳴海達は東京見物に出かけた。
ここが渋谷と言う、若者達の多い無防備な街だと、鳴海がリン達に教えていた。
ふと思い出して『養武館』に寄って見た。しかし『養武館』と言う看板はもう掲げてなかった。中は空き室、誰もいなかった。
近くで話を聞いてみると少し前に道場を閉鎖して『養武館』はなくなったと言う話だった。
黒沼があれでは仕方ないと思ったがでは武藤はどうしたのか。あいつは器用な人間ではないからどうしている事やらと、ちょっと心配になった。
「行こうか」と鳴海が言った時、リンが「所長」と言った。「ああ、わかってる」と鳴海が言った。
二人は一体何を言ってるのか、詩芽にもリカにもわからなかった。
かすかな意識だがこちらを伺ってる視線があった。「ふん、行って見るか」そう言って鳴海は意識の方に向かった。
「久しぶりだな黒沼さん」
「わかったのか、大したもんだ。しかしいつも思うんだがあんたは一体何者なんだ。それにこれは何だ。そのお嬢ちゃんの事は知ってる。しかしその二人は何だ。何でそんなに達人クラスがいるんだ」
「それはいいんだが、どうして俺達が来る事がわかった」
「ジャの道は蛇」って言ってな。
そう言う噂が流れたんだよ。
「俺も一応向こうのプロダクションに絡んでいたんでな」
「なるほどな、それで俺に何か用かい」
「始めはあんた一人の方がいいかと思ったんだが、ここにいるメンバーを見たら全員を招待しても面白いかなと思ったよ」
「招待する?」
「そうだ、闇試合にだ」
「闇試合ね。面白そうだな」
「何なの所長、その闇試合って」
「詩芽にはちょっと刺激が強過ぎるかも知れないが、地下で行われる賭け試合の事だ。殺してもいいそうだ」
「へーそれ面白そうじゃないの。ねぇねぇ鳴海さん行きましょうよ」
「先輩は行かなくてもいいわよ」
「行きますよ、私だって。もー」
「面白い、一人一人がチャンピョン・クラスか」
黒沼は感嘆して全員を眺めていた。
「今日は午後から試合が行われているんだが行ってみるかい」
「いいのかい。俺達を連れて行っても」
「ああ、俺の招待枠でな」
「ほーまだ係わり合いを持ってたのか」
「俺は今はそこのスカウトマンの一人だ」
「元チャンプのあんたがか」
「ああそうだ。あんたに足をへし折られてしまったんでな。復帰出来るまでのつなぎだ」
「しょ、所長、そんな事したんですか」
「まぁ、行きがかり上な」
「鳴海さん、そんな楽しい事一人でしないでくださいよ。私にも分けて欲しいわ」
「何言ってるんですか、リカさん」
「リカ、それ位にしておけ」
「はい」
リカはリンの言う事には実に素直だ。
黒沼の案内で四人は地下闘技場に来た。俗に闇試合と言われる会場だ。
皆服装だけは立派だがその声援からは品位の欠片も感じられなかった。所詮人間の品性とはそんなものなのかも知れない。
円形の試合場の上では既に闘いが始まっていた。どうやらムエタイと空手家との試合だった。しかし床は石だ。これは投げ技を持つムエタイが有利だろう。
普通の床ならそうでもないが、こんな上に投げ落とされたらダメージが大変なものになる。
こう言う所でなら、投げ技を持つ柔道や柔術の方が有利かも知れない。当てられなければの話だが。
始めは興味なさそうな顔をしていた詩芽だが試合を見ている内に目が輝きだしていた。
「ちょっと何よ、あの子。やっぱり私と同類じゃないのさ」とリカが言った。
試合は予想に反して空手家が蹴り勝った。余程蹴りに磨きを掛けたのだろう。
「もしかして、あれはあんたの弟子か」
「そうでもあるし、そうでもないと言える。彼は俺がチャンプをやってた時に俺のスタイルに憧れていつも真似をしてた奴だ」
「あんたの二つ名は『鋼鉄の足を持つ男』だったかな」
「それもあんたにへし折られてしまったがな」
「次のメインイベントが始まる前に少し休憩がある。この時にここでは、ファンサービスとして飛び入りによる勝ち抜き戦を組んでいるだ。どうだ出てみないか」
「わーいいの、私出る。絶対出るから」
「お嬢ちゃんもどうだい」
「だってリカさんと戦う事になっちゃうんでしょう。そんなの嫌よ」
「いや、ここは2トーナメント制で、それぞれの優勝者が出る。だから分かれて出たらぶつからないだろう」
「所長」
「俺は構わんぞ。試してみたらいい」
「わかったわ。私も出る」
こうして詩芽とリカが、それぞれのトーナメントに出る事になった。
二人の服装は闘いに向いた服装とは言えないが、彼女達に取ってそれは問題にはならなかった。
二人共圧倒的な強さだった。詩芽は投げと当身を併用して戦った。リカはパワーだけで来る者全てを蹴散らしていた。
対照的ではあったが、その強さは双方互角、供に敵なしの状態だった。
そして会場は沸きに沸いた。この二人の格闘家アイドルによって。
二人共、優勝賞金100万円を受け取った。しかし拍手喝采はしばらく鳴り止まなかった。
その後会場のプロモーターが飛んで来て、通常の試合にも出てくれないかと交渉に来たが考えさせてくれと言う事でその場は納めた。
その時、会場の選手入場口で、目をランランと輝かせていた者達がいた事を、彼女達は知っていただろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます