第16話 弁天プロダクションの粛清
夕方やって来た詩芽に、新しい従業員だと言ってリカを紹介した。
本来のリカは1/4フランス人の血が混じっている日系フランス人だ。母親は日本人、そして父親は日系のハーフだ。
フランスで生まれたのでフランス国籍を持っているが小さい頃日本の学校にもいて、日本とフランスを何度も行き来していたので日本の文化も十分理解している。
フランス語は勿論のこと日本語にもなまりはない。その他に英語(ブリティシュ・イングリッシュ)とドイツ語も話せる。そして彼女もまた傭兵だった。しかし今は日本人の姿をしている。
「詩芽といいます。宜しくお願いします」
「私の方こそ宜しくね、リカです。ここではあなたの方が先輩だもんね」
すると詩芽が鳴海を引っ張って部屋の外に出た。
「所長、何なんですか。あの人は。人間ですか」
「何だそれは。人間だろう」
「でも、でもですよ。滅茶苦茶じゃないですか。気の量が」
「ほーそれがわかるのか。おまえも随分と成長したもんだな」
今度はリカが鳴海を引っ張り出した。
「聞いてないわよ。私の他に同類がいたなんて」
「何を言ってる。彼女は普通の女子高生だ」
「冗談でしょう。あんな人間がいるはずないでしょう。
私並みの気を持ってるじゃないの」
「まぁ仲良くやってくれ」
これはちょっと先が思いやられるかなと鳴海は思った。
長谷川の方でも色々と網を張っていると、一人のタレントの名前が浮かび上がってきた。
浅井恵子と言うのだが彼女は今も売春をさせられていると言う。
実際には彼女だけではなくまだ数名はいるらしい。それは良い話だと鳴海は思った。
鳴海が直接行くのはまずいので、先ずは詩芽にコンタクトを取らせた。
リカでも良いのだが、彼女ではまだこの世界に馴染んでない。ただ彼女にはまた別の使い道がある。
そして彼女を説得して『北斗トラブルシューティング』に救済依頼を申請させた。
こんな生活が耐えられなくなったもう一人の里江栗奈も賛同した。これで仕事として処理が出来ると鳴海は思った。
彼女達は売春に行く前には必ず身体検査をされると言っていた。
要するに盗聴器や盗撮器を持ってないか、そしてそれ以外でもおかしな物を持ってないかどうか調べられるらしい。
だから彼女達にその種類の道具を取り付けるのは不可能だ。しかしそれは鳴海には何の問題にもならなかった。
彼女達の気を記憶してマーキングしておけば場所の特定は簡単に出来る。
彼女達はみんなプロダクションから渡された古い形の携帯電話を持たされている。
要するに録音も録画も写真も撮れない携帯だ。それでいつも指示を受けると言っていた。現場に持って行っていいのはこの携帯だけらしい。
まぁ、それだけわかれば十分だ。鳴海はその携帯に特殊な盗聴器を仕掛けた。
これで指示している者の声や、その内容がわかる。後は現場を押さえるだけでいい。
彼女達の話では現場はいつも高級ホテルか、もしくは別荘の様な所だと言う。
なるほど世間に知れては困る有名人が多いと言う事だろう。
それならばれて困るような事はしなければいいのにと思うのだが馬鹿が多いと言う事だろう。
今回も都心の高級ホテルでの営業が入ったらしい。
それで鳴海はリカにそのホテルの2階上の階に部屋を取らせた。こう言う仕事は高校生の詩芽にやらせる訳にはいかないので。
彼女には出来るだけ相手に先に服を脱がせるようにと言ってある。
恐らくその部屋の周りの部屋には秘書か護衛が固めているだろう。
しかし鳴海なら遠くからでもセンサーで中の人間の動きがわかる。だから部屋の前で待機する必要はない。
頃合いだと見た鳴海は部屋に踏み込んだ。これには相手も驚いた。
まずどうして部屋が開けられたかだが、そんなもの鳴海にかかれば障子と同じだ。そして相手のあられもない姿をカメラに収めた。
「おい、君、何をしてる。止めたまえ。そのカメラを渡したまえ。いや、買い取ろう。いくらだ」
そう言いながら時間をかせいで秘書達が駆け付けるのを待っていた。予想通りに異変を感じた二人の秘書が駆け込んできた。
彼らは秘書と言うよりはボディーガードに近かった。こう言う時の為の秘書なんだろう。
「何だおまえは」
と言って鳴海に襲い掛かって来たが話にもならなかった。二人共あっさりと気絶させられてしまった。
見張りがいなくなった所で、このオッサンものばしてリカに連絡した。
リカは彼女を連れて取ってある上の部屋に移った。彼女達には現金やクレイットカードの類は一切持たされていない。
つまり遠くには逃げられないと言う事だ。それがこのホテルに泊まってるとは誰も考えないだろう。
鳴海の方はこのオッサンの素性を調べて現役の文部科学大臣だと言う事を掴んだ。
しかし教育で良い人間を育てようと言うトップが買春は良くないだろう。
証拠になる物は全て押さえた。後は脅しをかければいい。鳴海はそう思った。
ホテルの下でタレントの回収役をする男達が、あんまり遅いので様子を見に行って、部屋が少し開いていたので中を覗いて驚いた。
これはどうなってるんだと。しかも手ゴマがいない。
「あのアマ、何処にいきやがった」
と血相を変えて周りを探したが何処にも見つからなかった。
直ぐに同元の鵜飼に連絡を取って指示を仰いだ。別の者を女のアパートに行かせるからお前達は大臣の面倒を見ろと言う指示だった。
別の者達が青木理恵の部屋に着いた時には、そこはもうもぬけの殻だった。既に闇の引っ越し業者によって全て処分されていた。
「くそーあのアマめ、逃げやがったな」
悔しがった所で後の祭りだ。そしてもう一人の被害者、五月憩も既に逃げていた。
現場では、このままで放置する事は出来ないので、ともかく服を着せて下の車で脱出する事にした。
のびてる二人はどうゆすっても目を覚まさなかったので、そのうち目覚めるだろうと部屋に残してドアを閉めた。
二人のやくざに担がれる様に部屋を出て車に乗り込む大臣。その様子はばっちりビデオに収められたいた。
これもまた鳴海が描いた絵図だった。買春だけでも問題なのにやくざに担ぎ出されて車に乗る大臣、週刊誌はさぞ喜ぶだろう。
ともかく二人のやくざは大臣を鵜飼の指示にあったホテルに担ぎ込んだ。
これで取り合えず安心だと思ったのだろう。そして部屋の中で待っていた鵜飼が、
「今日の事は何もなかったと言う事にしてください。問題は全て私どのも方で処理いたします。決して大臣はご迷惑はおかけいたしませんから」
「間違いないだろうね。こんな事が知れたら私だけではなく君もどうなるかかわらないのだからね。もし私に何かあれば君のプロダクションに対する私の肩入れもないものと思ってくれたまえ。だからしっかりやってくれよ」
「わかりました、大臣。ご安心を」
実はこの会話は、大臣の靴底に仕込まれた盗聴器で全て録音されていた。
「さてまずはこれくらいでいいか。おい、リカ、暴れさせてやろうか」
「ほんとう鳴海さん。私、頑張るからね」
「頑張らんでいい。お前が頑張ったら皆殺しにしてしまうだろうが。ほどほどにやれ」
「それは、あなたに言われたくないんですけど」
「ともかく行くぞ。ついて来い」
「ラジャ」
今回は堂々と洲本組に乗り込んだ。
「なんや、おまえは」
「アッ、鳴海や。おーい、鳴海やぞ」
「随分有名なんですね、鳴海さん」
「お前も直ぐに有名になるさ」
「いいわね。私、有名大好きだから」
「何かご用ですか、鳴海さん。俺達はあんたに敵対する気はこれっぽっちもないんですが」
洲本組の組長、洲本がそう言った。
「そう言えば以前もそんな事言って逃げてたな。自分とこの子供の組が潰されたんだ、仕返ししようとは思わないのか」
「俺達もそこまで馬鹿じゃないんで。勝てない喧嘩はしませんよ」
「そうかい、それはいい心がけだ。だがな今度はそうはいかないな」
「どう言う意味ですか」
「お前とこの鵜飼の事だよ。向こうで何やってるか知ってるよな」
「さー、何の事だか。それにあいつはもううちの組員ではありませんので」
「そうかい、じゃー何故鵜飼の指示でお前とこの若いのが動くんだ」
「どう言う事でしょうか」
「昨日、とち狂った大臣をパレスホテルまでお前とこの組員が運んだだろうが」
「知りませんね」
「そうかい。それは残念だ。じゃー知らずに地獄に行くんだな」
「ちょっと待てよ。証拠もなしにやろうって言うのか」
「馬鹿か、お前は、『やくざ狩り』に証拠なんかいらねえんだよ。潰したきゃ潰す。それだけだ」
「何だと、おい、みんなやっちまえ」
「リカ、出番だ。やっていいぞ。ただし殺すな」
「そんな殺生な。まぁいいわ。肩慣らしさせてもらうわよ」
手加減はしてるのか知れないが圧倒的だった。詩芽の様な配慮は一切ない。みんな生きているのが不思議な位だった。
「てめーこんな事してただで済むと思ってるのか、1万5千人を敵に回す事になるんだぞ」
「結構じゃやないか。良い運動になる事だろうな」
その時リカに顎を蹴り飛ばされて洲本の顎は砕けてしまった。
「リカ、次行くぞ」
「ええっ、まだやれるの」
「そうだな、後四つ五つ潰しておくか」
そう言って鳴海とリカは系列の組を次々と潰して行った。
しばらくなりを鎮めていた『やくざ狩り』がまた始まったとやくざ達は戦々恐々とした。
しかも今度は鳴海以外にも女の『やくざ狩り』がいるらしいと言う噂が流れた。
ともかくこれで洲本系列はほぼ壊滅した。これで下地は出来たと鳴海は『弁天プロダクション』に乗り込んだ。
流石にここはただ荒っぽいだけの対応では困るのでリカは残して来た。
「困ります」と言う秘書の叫びを無視して社長室に押し通った。
「なんやお前は。ここを何処やと思とるんじゃ」
「ほーおまえもやくざみたいな口をきくんだな。芸能プロの社長じゃなかったのかい」
「じゃかましいわ、おまえらみたいなチンピラに舐められるわしやないぞ。足元が明るいうちに帰れ。でないと怪我するぞ」
「そうやってタレントやプロダクションを脅してきたのか。それも鵜飼の入れ知恵か」
「なんやと、われ死にたいんか」
「おいおい、それは言っちゃまずいだろう」
その時ドアが激しく開いて鵜飼が飛び込んで来た。
「何事です。社長」
「このチンピラがいちゃもんつけにきた来た。鵜飼、つまみ出せ」
「俺はチンピラじゃない。ちゃんと鳴海と言う名前があるんだがな」
「わかりました社長。おい、覚悟は出来てるんやろうな」
「お前こそ覚悟は出来てるのか、俺を相手にする」
「チンピラの癖に口だけは一人前やの。俺の後ろには洲本組がついてるのわかってるんやろうな」
「洲本組ね、電話してみなよ。助けに来てくれるかどうか。多分無理だと思うがね」
「なんやと」そう言って鵜飼は頭の横野に電話した。大分呼び出し音がなってやっと横野が出た。
「頭、鵜飼です。手貸してもらえませんか。馬鹿が一人こっちに来とるんですわ」
「アホか、それどころとちゃうわ。オヤジが病院行や。それに殆どの組員がやられた」
「なんですって、一体誰にやられたんです」
「やくざ狩りや」
「やくざ狩りって」
「お前も名前位は聞いた事あるやろう。鳴海言う奴や」
「鳴海・・・鳴海って」
「それは俺の名前だよ。そこにいるのは横野か。かせ」
「よう横野、俺だ。何故俺がお前だけ病院送りにしなかったかわかるか。お前には色々やってもらいたい事があるんでな。明日またそっちに行くからそこで大人しく待ってろ。逃げても構わんがその時は組がなくなると思え。いいな」
「で、鵜飼さんよ。あんたのバックが何か助けてくれるのかい。それともあんたが自分でやるかい。まぁ、俺とやるだけの度胸があるならだがな」
「待ってくれ。いや、待ってください、一体何のご用ですか」
「お前のとこのタレントの浅井恵子と里江栗奈を保護してると言えばわかるか」
「えっ、あの二人を。まさか」
「昨日ホテルから姿を消した浅井恵子だよ。大臣の相手をさせられた子だと言えばわかりやすいか」
「写真もあるんだが何なら見るかね」
「鵜飼、これはどう言う事やねん」
「あれー、オッサン知らなかったのか。こいつがタレント使って高級売春を斡旋してたのを。今更知らないでは通らないがな。あんたも同罪だよ」
「そんな、わしゃなんも知らんぞ。こいつがみんな勝手にやったんや」
「うるせーてめえも同罪だと言ってるだろうが。今まで散々好き勝手な事やっておいて自分だけ逃げられると思うなよ。これは『弁天プロダクション』としてやってる仕事なんだよ」
「そしてどうしようもない屑は死ぬしかないと言う事だ」
と言った途端、鳴海の手にはデザートイーグルが握られていた。
そして轟音と共に鵜飼の頭の上を弾丸が通り抜けた。その衝撃で鵜飼は意識を失ってしまた。
社長の谷本は腰を抜かし、ただただ口をパクパクさせていた。
しかし不思議な事にこの音は外には聞こえなかったのか、誰もこの部屋には入って来なかった。
「どうする、お前も一回死んでみるか」
「い、いえ。いえ。どうかお許しください。何でもしますから」
こう言う虎の威を借る奴ほど本心は臆病で脅しに弱いと言う事だ。
「ならまずこの鵜飼を解雇しろ。それと洲本組につらなる者も全員解雇だ。わかったな」
「はい、わかりました」
「洲本組は俺が潰したから今後はバックを長谷川組に頼め。話は俺からつけておいてやる」
「わかりました。そうします」
その後、『弁天プロダクション』の興行は長谷川組が仕切る事になった。
そして首になった鵜飼は運転を誤って谷に落ちて死亡したと言うニュースがあった。
もっと不思議な事は、あの時の銃弾の弾痕が何処にもなかったと言う事だ。もしかしたらあれは空砲だたのかも知れない。
それよりももっと世間を騒がせたのは現役の文部科学大臣の買春と言うスキャンダルだった。
これには官邸も頭を痛めた。しかしすげ替えは意外とスムーズに行われた。
もしかするとその文部科学大臣は既に見切りをつけられていたのかも知れない。
「総理大変です。大変な事になりました」
「どうした」
「例の男をマークさせていた者からの報告なんですが、とんでもない者と接触した様です」
「とんでもない者とは」
「はい、現職の上野文部科学大臣です。どうやら大臣が買春していたようです」
「何だって、それは大事件じゃないか。しかし何でそこにその男がいるんだね」
「わかりませんが、どうやらその事実を彼に掴まれたようです」
「何だって。それではもみ消すのはまずいと言う事か」
「そうですね。向こうに弱みを握られる事になりますから。それとこの事がいつ公にならないとも限りません」
「仕方ないな、直ぐに次の人選に入らねば、しかしこんな時にとんでもない事をやってくれたもんだよ、上野君も」
この尻尾切で事は一応収まった。
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