第16話
――世界を壊してから100年後。
私は世界を壊した直後、長い眠りについた。
次に目覚めるのは100年後、と自分に魔術をかけて……。
「……だいぶ眠ったわね」
目覚めて一番最初、私は自分の心臓を刃物で貫いた……けど、死ねなかった。何をしても死ねないし、つまらない。そんな感覚で散歩していたら、たまたま近くの村に着いた。
復興という言葉を掲げた、大きなボロボロの村に。
「なにあんたさん、精霊か何か?」
「……はい?」
「見ない顔だし、綺麗な顔立ちしてるから精霊なのかと」
「違います」
「あらそう、でも精霊に見えるから気をつけなさいね」
「……精霊に見えると、何か問題でもあるんですか?」
「え?アンタ知らないの??最近流行りの精霊狩り!!!」
「精霊狩り……???」
そう呟いた瞬間だった。
「おい!!精霊がこの村にいるってのは本当か!?」
「どこにいるんだ!!教えろ!!!!」
「もし精霊を匿ってんなら、この村ごと壊してやる!!」
村の入口の方から強い怒鳴り声と、貧相な服を着た蛮族。
「あれが精霊狩りだよ………こんな世の中になっちゃったのにさ、精霊さんったら幸せそうじゃない。だから、狙われちゃったのよ」
「でも、精霊って狩っても何も得られないですよね」
「そうさ。だけど、みんなムカつくからって狩ってんだ。はぁ〜……100年前の爆発すらなかったら、こんな世の中じゃなかったんだろうに」
何度見渡してもボロボロの村と、飢えた人々。ほんの100年前、私が壊す前は王城が立っていた場所も、今では何も無くなっている。噴水広場も跡形すらなくなり、ファルケンハウゼン邸宅の跡地はどこだかわからなかった。
ただ、罪悪感は何一つなかった。
「頑張ってください」
そうとだけ言って、その村を去った。
この呪いを解くヒントを得るために世界中を旅しようと、決意した―――――――。
「なんてことがあったから、もしかしたらその時に精霊はみんな殺されてしまったのかもしれないわね」
「そんな………精霊は…人々を守るために……。そのために神様が命を授けてくれたのに…………」
もう、周りにかつての友人はいない。
知ってる人もいない。
何も分からない世界になっていて、ついていけない。今精霊が抱いているその恐怖は、私がこの数万年間抱えてきた―――今も抱えているものと一緒だろう。
「……?」
金色の美しい魔力に包まれた精霊。
「……幸運の魔術。いい事が起きるといいわね」
「こんな…綺麗な魔術、初めて見た」
「魔王だもの」
少し…いや、とても悲しくなって、私は精霊に背を向けた。
「さ、好きな所に行きなさい。」
「ロッドにいたら、迷惑?」
「いいえ? このロッドは、とある人に預けるつもりだから、別に迷惑ではないわよ」
「じゃあ、今まで通りロッドに住むね」
「……最初は、殺そうとしてごめんなさいね」
ロッドの中に消えようとしていた精霊は、一度振り返り、複雑な表情を浮かべて消えていった。何も見えなくなったロッドを眺めて、私が他人に同情してしまうなんて、とか考えてしまう。
とにかく、精霊との会話が終わりトレーニングのこともあってか、ドッと疲労感が襲ってくる。
グローネフェルトが現存したとしても力は弱いこと―――海辺くんの消えた痣。矛盾は何一つない。
そして、魂の共鳴についても、アナとは悪い意味で共鳴し、海辺くんとは何らかの関係で共鳴した………。
最後に、魂が見える力というのが存在しているらしく、私その血を薄く引いているようだということ。
収穫の代償に、大きな絶望感と、小さな希望と、悲しみが心に溢れミキサーのようになっていた。とにかく寝るしかなかった。寝れば、少しでも明日が良くなるかとすら思った。
そしてまた、どうしようもない朝が来る。
レーの背中を追う日々、何百万、何千万と迎えたであろう朝。珍しく、何もやる気がなかった。グローネフェルトが残っていても解けない呪い――――それが、私を絶望へと叩き落とす。私に頼れる人なんていない、いないまま、また何万年もの月日を過ごさなければならないのか。いや、億かもしれない。私の先に続く道は、どこまで続いてるのだろうか。レーさえいれば、永遠すらも愛おしくなるのに……。そんな事を思って仕方がなくなって、布団を頭まで被った。枯れた涙はどんなに悲しくても出ないし、冷めきった心はどう足掻いても温かくならない。
精霊が狩られる原因を作ってしまって、ロッドの精霊が悲しげな顔を浮かべていた。それを見ても、罪悪感なんて何一つ感じなかった。
「ファルケンハウゼンの教育は……素晴らしいものね」
暗闇の中、1人つぶやく。
何をしても罪悪感を感じない、ネガティブな感情しかない、今を生きる人をモブだとしか思っていない………もはや人間の形から乖離した私を、誰が殺してくれるのだろうか。こんな私を、みんなは化物と呼ぶのかしら。
……それにしても、この国の冬の朝はなんだか過ごしづらい。野焼きの香りだろうか、独特な匂いがあって、風が冷たくて、痛い。そんなことを考えていると、微かに魔力の風を感じる。
「……?」
少し驚いて、布団を剥いで起き上がる。
扉の外から微かに感じる魔力に、胸をざわつかせながら、扉を思いっきり開けた。
「あ、おはよ……今日は学校には行かない感じ?」
「……なによ、あなただったの。」
「なんか残念そうだな、すまん」
「いえ………」
一瞬、私を知っている誰かかと思った。まだ生きていた魔術師がいたんじゃないかって……。
「……とりあえず、お邪魔してもいい?」
「別にいいけど…」
扉を閉めれば冬の痛い風が止み、家の生暖かさを実感させられる。気持ち悪いくらい生暖かくて、むせかえるような魔力の香り。
「……なんかあった?」
「何もないわよ」
「嘘でしょ?俺に話したくないなら別にいいけどさ……少しは頼ってくれてもいいんだよ」
「頼る………ね。」
頼るなんて、本当に何万年もしていない。
信じられるのは私だけ、私自身だけ、私だけなのだから…………でも、でも。
「…少し頼ってみようかしら」
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