第2話
魔法時代――もう今は忘れ去られてしまったその時代は、魔法によってなんでもできる時代だった。
無知で貧弱であった人類に対し、空から舞い降りてきた神様は、人間が既に持つ「創る力」の他に、第二の力「魔術」と第三の力「呪術」を授けてくれることになった……という言い伝えが信じられていた。
事実、第二の力を持つ人間と第三の力を持つ人間が現れた。彼らはもはや人間の域を超えていた為、いつしか魔術師と呪術師として呼ばれるようになり、人間・魔術師・呪術師の3種類の生物が文明を築き上げていた。
そしてその時代の末期には、魔法は生活の一部となり、また、優秀な魔術師・呪術師は、神の子である王よりも崇められるようになっていた。
魔術師のトップ、ファルケンハウゼン家。
このファルケンハウゼンの血族は、王家よりも上の立場にいた。
王よりも魔術師が上に君臨する時代は平和なように見えたが、この時点では魔具が暴走する可能性については誰も気づいていなかった。
利便性の高い魔具によって豊かになっていく文明―――その反面、誰でも魔具を使えるようになってしまい、魔力を使いすぎたり、負の感情に支配されたまま魔具を生産する魔術師が増えていった。
やがて起こり出す魔具の暴走により人間と呪術師は、次第に魔術師に疑いの目を持ち始めます。
魔術師は本当は大量虐殺を企んでいるのではないか―――そう考えた人間と呪術師は、魔術師を殺すことにしてしまった。
弱い魔術師から殺害されていき、そして人々は魔術師に牙を剥くようになった魔具を手に入れ、その力で更に魔術師を殺していった。
―――そう、魔術師を忌み嫌い、そして魔術で魔術師を虐殺していた。
その対象はやがて、地位の高い魔術師にまで及ぶようになりました。
もちろんターゲットとなったのは、この世界で1番の魔力を誇り、魔王とすら呼ばれた偉大なる魔術師―――ファルケンハウゼン家の一人娘、ヴァレリア・ディ・ファルケンハウゼン。
誰もが、
「なぁんて、昔の話を忘れないようにと紙に書いたところで、こんなの見つかったら妄想癖だなんて言われてしまうわよね。」
そう思って書くのをやめて、ノートを閉じる。そして、机の端に置いた壊れたネックレスを手に取った。
「治さないと……」
今日壊れたこのネックレスには、軽い魔防効果がかけられていた。
例えば、私がイラっときて無意識に魔術師で殺そうとしてしまったら大変なことになってしまう。
自分の意思とは反する魔術の発動を防ぐために、このネックレスをつけていた。
だから今日は地面に顔をぶつける羽目になった……と言いたいが、きっと魔防がなかったら私の魔法が勝手にクラスメイトを殺していただろう。間違いない。
あるいは、世界を壊すレベルの魔法が炸裂して、私ごと吹っ飛ぶかもしれない。
もちろん、魔力をコントロールできないわけではない。
私が普通に生活していた頃は、魔法は公で使えたし、何をするにも魔法を使っていた。
魔法で生活することに慣れてしまった体では、無意識下に使ってしまうことを防ぐのは難しい。
なにより、一度世界を滅ぼしてから……いや、不死の呪いにかかってから、魔力が上がりすぎている。
魔王と呼ばれた頃なんかよりもずっとずっと……。
「――もっと魔防の力を上げて、ネックレスを作り直さないと」
魔防ネックレスの力を応用すれば、私にかかった
引き出しの中に置いてあった紫色の石を取り出して、魔防の魔術をかけようとしてみるが、その石はすぐさまパキンと音を立てて割れてしまった。
毎回こうなのである。
魔術が流通していないこの時代では、強い魔術をかけても壊れない器がほとんどない。
つまり、濃い魔防をかければすぐ壊れてしまう。すぐさま壊れなくても、ちょっとした衝撃で割れてしまったりする。
そして私はいつも魔防の魔術の上に、人間からそのネックレスを見えなくする魔術もかけていた。
―――すぐ壊れてしまうのは、当たり前のことなんだ。
気を取り直して、もう一度石を用意して少しずつ魔術をかけていくことにした。限界ギリギリまで魔力を注ぎ、そっと石から手を離す。そしてネックレスの基に石をはめて―――。
「完成した……」
時計を見ると、30分近く経っていた。
なんて不便な世の中になってしまったのだろう……なんて言いそうになるけれど、自分が異端なのだと思い口にするのをやめた。
集中力を酷使すると本当に疲れる……疲労回復魔術をかけることもできるけれど、それすらめんどくさいと思ってしまった私は、そのままベッドに飛び込んだ。
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