Sweet dreams, my love
「ストレスの解消法?」
「うん。 サイとクツが疲れた時に、どんな方法で気分転換したり癒されたりしてるのか聞きたくて」
家で悩んでいてもこれといって解決策が湧かなかったので、参考までに友人に訊いてみた。
先輩はあれだけ感情が表情に出るのに、悩みを隠して抱え込むのが上手い。
下手に触れるのも先輩を傷付けてしまうかもしれないので、そうとバレないよう日常の合間合間になにかで先輩を癒してあげられたら、という発想でアイデアを募るに至ったのだ。
「成程ねえ……いや~、今日も眞家先輩は愛されてますなあ」
「……なんだよ」
「いや、別に?」
「?」
沓野には全部バレてるな、これは。
彼は以前から異様に勘が鋭いときがある。
よくつるんでる連中の中でも一番先にパートナーを作ったのはこいつだし、その時の彼女とは来月で付き合ってもう2年になる。
何事もスマートに卒なくこなすタイプの沓野は、きっと男女の機微にも聡いのだろう。
こいつの意見は参考になりそうだ。
雑賀は何のことか全く分かっていないらしい。
お前はそういう所も長所だからずっとそのままでいてくれ。
「……よく分かんねえけど、俺の場合はそういう日はゆっくり風呂に浸かってからハーブティーでも吞んで、早めに寝ちまってる。 寝室にルームフレグランス使ったりして」
最速の読書部こと雑賀、まさかの模範解答。
以外と丁寧な暮らししてるな……
雑賀は休日に会う時も皺一つないハイブランドのものばかり着ているし、服に着られるようなこともなく自然に着こなしている。
食事の所作も洗練されていたり、持っている日用品が高価なものばかりなのに本人がそれに無頓着だったりと、薄々感じてはいたが育ちの良さが伺える。
当の本人は気安く接しやすい人物だし、そういう話題に触れて欲しくなさそうなのでスルーしているけど。
「……ルームフレグランスか。 やっぱりそういうのって、あると全然違うか」
「違う。 部屋が好みの香りに包まれるだけでも、目に見えて自律神経が整って癒されてるの感じるからな。嫌なことがあった日は、いかに寝るまでに自律神経を整えるかの勝負だからな……」
「一理ある。 長風呂するのもハーブティー吞んだりするのも、結局穏やかに過ごして身体に入眠を促す効果があるからね。 アロマの香りが不安感を解消して睡眠の質を上げる、というのは科学的にも証明されてるらしい」
ふーむ、確かに一考の余地あり。
おれも先輩とのんびりリビングで同じ音楽を共有しながら膝枕をしてもらった日の夜はよく眠れたし、とにかく睡眠前にどれだけ緊張をほぐしてリラックスしてもらえるのかが鍵だろう。
沓野と雑賀以外にも、男女を問わず多くの友人から意見を募った結果、幾つもの有益な情報を得た。
やはり疲労を明日に持ち越さないコツは、副交感神経にあると確信した。
人間は恒温動物なので、常に体内の状態を一定に保つようにつくられている。
その高度な恒常性(ホメオスタシスと呼んだりするらしい)は自律神経によって成り立っているので、交感神経と副交感神経のバランスが崩れると体調を崩してしまう、そういうメカニズムだ。
健康というのは交感神経と副交感神経が相互に絶妙なバランスで機能しあって初めて成立する。
そして生徒会所属の生徒として日々忙しなく活動する先輩は主に交感神経を酷使しがち、だから中々表に出てこれなくなってしまった副交感神経を呼び覚ましてやる必要があるのだ。
「先輩、次の土曜日、なにか予定あったりしますか?」
「なんにもないよ。 二人でどこか行く?」
「今日、友だちにアロマショップ紹介してもらったんです。 ルームフレグランスとかあるらしいので、良ければ一緒に行きませんか?」
「? うん、わかった……?」
「後は……ちょっと高いバスボムも欲しいんですけど、そこになければ専門店にも行ってみましょうか。 心地良いぬるま湯に長く浸かると血行を促進させてくれるらしいので、先輩の好みの香りのものが良いですよね」
「……え、え?? こうくん、私と一緒にお風呂入りたいの……?」
「ハハッ、それもいいかもしれませんね(入浴の時間を管理したいので)」
「???」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます