朝 ぽわぽわ
なんか、なんか……思ってたのとちがった。
あれ……催眠術ってえっちな奴じゃないの?
意識を失っている私に……くんずほぐれつ……みたいなのじゃないの?
昨日はあれから特に何事もなかったし、こうくんは終始優しかった。
それはとっても安心したし嬉しかったけど。
普通に快眠していつもよりすっきり目が覚めた。
ほんと、ただのリラクゼーション療法みたいな感じだった。
成果がしっかり出ているのも何とも言えない。
確かに今日の寝覚めは数年に一度あるかないかぐらいの、素晴らしいものがあった。
こうくんが私の部屋に入るなり、既に制服に着替え終わっている私を見てかなり驚いていた。
なんせ、いつも朝は枕元でまだウトウトしている私にこうくんが優しく声を掛けてくれて、仕方ないなあって笑いながらゆっくり規則的なテンポで肩を揺すってもらってようやく目が覚めるのだ。
こうして改めて考えると常時最悪に寝覚めが悪い上に、こうくんにお世話になり通しの人生すぎる。
そうはいっても、体質はそう簡単に変わらない。
生まれつき低血圧で血の巡りが悪く、体温も低い私はとにかく朝に弱い。
副交感神経が優位な状態が長く、交感神経が活性化するまでに結構な時間を要する。
要はざっくり言うと、人より寝ぼけてウトウトしている時間が長い。
スロースターターな体質に生まれてしまったので、反対に朝が強いこうくんに昔からずっと助けてもらっている。
正直、パッと目が覚めるまでの間、ボンヤリしている時はその記憶もない。
あれ、こうくんわざわざ私に催眠なんか掛ける必要なくない?
いや、これはあんまり考えないようにしよう……
ちなみに、こうくんは私とはまるっきり真反対な体質なので夜に弱い。
22時にはもう結構おねむになっちゃうので、どっちかのおうちで一緒に映画とか観てたりして時間が遅くなると早々にポヤポヤし始めて大変にかわいい。
気付いたらリビングのソファで寝ちゃってたこともたまにある。
起きてから寝顔見られたの恥ずかしそうにしてるこうくんも、私にしなだれかかって眠っちゃって後になって沢山謝ってくるこうくんも全部私だけが知っている秘密なのだ。
こうくんほんとに無防備だからいつも心配なんだけど、それ言うと先輩には言われたくないです……っていつも控えめに反抗されちゃうんだよね。
閑話休題。
生徒会のこと、あんまり楽しいお話にはできないと思ってこうくんには全く話してなかったのに、どうしてか私のこと全部筒抜けだ。
心配してくれてたんだ、嬉しい。
「今日は先輩が早かったから、いつもより時間に余裕ありますね。 もう少しゆっくりしてましょうか」
「いつもいつも、朝から苦労掛けてて本当にごめんなさい……」
「ハハッ、ぽわぽわしてるかわいい先輩を毎朝見れるので役得ですよ」
「えっち。 もう……」
こうくんはこうやって、おどけて見せたりして誰かの過失をフォローするのが上手い。
先生に指名されてる子にさり気なくメモ用紙を見せて答えを教えてあげたり、怒られそうになってる子に嘘の証言をしてあげて助けてあげたり、何でもないような顔で何気なく人を助けてあげられる人だ。
だから私はこうくんに怒られたりしたことがない。
着替えもご飯も歯磨きも済まして、後は家を出るだけになった私は、リビングでソファに座ってボーっとしていたこうくんのすぐ隣に座って、そっちに倒れ込む。
「……先輩? どうしたんです、今朝はなんだか甘えたさんですね」
「……そういう気分。 ちょっとだけ、このままでいい?」
「仰せのままに」
こうくんはそのまま膝枕してくれて、壊れ物に触れるように丁寧に髪を梳いてくれる。
清潔なシトラスの香りがする。
私ができないこととか困っていることがあればすぐに目ざとく見つけて、すぐにこうくんが手助けしてくれる。
でもその逆は覚えている限り一度もない。
こうくんは悩みとか不安を表に出してくれるタイプじゃない。
人を気遣える人だからこそ、自分の悩みで人に気遣いをさせてしまうのが嫌なのだと思う。
どうすれば役に立てるだろう。
こうくんが私のことを気遣ってくれているのと同じぐらい、私もこうくんの力になりたいと思っているの、こうくんは気付いているだろうか。
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