第四話
予想外――皇帝ならあって当然かも? な理由だったが、プロポーズされたあたしとしては素っ頓狂な声が出た。
「はぁ? 婚約、話がある? 何それ、ゼスは多重婚しようとしたってこと?!」
言いながらあたしの眉間に深い皺が寄る。言い終わると共に胡乱な視線をゼスに向ければ、必死の形相で即座に否定して来る。
「違う! 我はシア以外を妻にするつもりはない!」
ゼスの気持ちはそうでも、国としては分からないよね……。
あたし自身、自分勝手ではあると承知してはいるけど、結婚するならあたしだけを愛して欲しい。側室持たれるのは。ちょっと……。
ていうか、そもそも平民であるあたしが結婚する相手は、同じ平民だと思ってたし、貴族や王族、ましてや皇帝が相手になるなんて予想外もいいとこよ。
それに貴族や王族って、結婚する相手の階級に合わせて、それなりの教育を受けるってアカデミーの子たちが言ってたし……。あたしは既にそこから足りない訳で。やっぱ、ゼスと一緒に国を治めていけるかって言われると、責任が重すぎて無理って思っちゃう。かと言って、ゼスが望んでくれた気持ちに、できるなら答えたいのが本音。
「ゼスが皇帝じゃなくって、平民なら(こんなに悩まないで)良かったのに……」
つい、漏れ出た独り言を聞いたらしいゼスが、指を絡めてぎゅっと握って来る。思考に沈んでいたあたしは、何事かと視線を上げた。
「ちょ、な、なんで泣いてるの?!」
「し、シア……。我はシアと居たい。皇帝位が邪魔なら、皇帝なんか今すぐ辞める。だから、我を捨てないでくれ」
「「「「グロスト陛下!!」」」」
意味が分からない! 一体ゼスはどうしたって言うの? あたし、何か言っちゃった?
慌ててゼスの涙を手巾で拭う。
「グロスト陛下! 小娘との結婚云々と言う、小さなことで皇帝を辞めるなど、あってはならない事です!」
「レオ黙れ、殺すぞ」
ゼス、言い方!
「で、ですが……」
「前帝も番が見つかり、直ぐに辞めたではないか!」
「それは……、あの時は事情があった故です!」
「我にも事情が出来た」
「そ、そんな……。そ、そうです! シーブランの件があります。流石に今すぐは無理です。せめて、シーブランの事が片付き、後継が育ってからにして下さい」
え、それだけで、辞めれるものなの?! 皇帝位軽くない? どうなってるの、ディグリュード帝国!
それとゼス、何簡単に皇帝辞めるとか言ちゃだめ。民の命が掛かってる責任ある立場なんだから、しっかり全うしなさい! 結婚するしないなんて、どうにでもなるでしょ! ってところで、ハタと名案を思い付く。
「ねぇ、ゼス。結婚のために皇帝を辞めるって言うのは、ダメだと思う。ただ、あたしは皇帝のお妃様とかできないから、結婚はしない方がゼスのためになると思うんだよね。だか……」
結婚をしない方が良いと言ったところで、器用にゼスがソファーから崩れ落ちた。
真面目な顔で見てたけど、あの態勢からどうやって、その状態に崩れ落ちるの? と、ツッコミを入れたくなる。その衝動をなんとか抑えながら、言葉を続けようと口を開いた。
が、言葉を発する前に、魔族四兄弟から慌てた声が発せられた。
「グロスト陛下、どうか、どうかお気を確かに!」
と、色白眼鏡が慌ててゼスを支えている。
「陛下!!」
声でかいよ、赤!
「侍医を侍医を呼べ!」
おい、緑、錬金アイテムの店にいるわきゃないだろ!
「……」
しゃべらないんかーい。
どこまでも声を出さない青に心の中でツッコミを入れる。
大袈裟って言うか、なんて言うか……はぁ。
話しを戻したいあたしが「話は最後まで聞いて欲しいんだけど……。話してもいいかな?」と言えば、木箱からしょぼくれた顔だけを出した子犬を三匹背負った状態のゼスが縋る目を向けて来る。
無言は肯定と勝手に思う事にして、あたしはぶった切られた考えを伝えるため口を開いた。
「まず、先に聞きたいんだけど……。魔族って、番だから必ず結婚しなきゃいけない決まりでもあるの?」
ゼスは、無言のままフルフルと首を振って否定する。
「だったら大丈夫そうだね。で、あたしは、皇帝のお妃様には性格的にも教養、家格的にも向いてない。だから、ゼスと国を治めることはできない。そこまでは理解できるわね?」
タイミングを合わせたかの様に、ゼス+魔族四兄弟が頷く。
「それが分かっててもゼスはあたしと居たいんでしょ?」
激しくゼスが首振り運動を――気を使って言葉を切るって行動が、超めんどくさい! もう一気に言ってしまおう。
「だったら、皇妃って言う役職を、作ったらいいんじゃないの? それなら、結婚してもしなくても一緒に居られるわけだし。あたし自身、ディグリュード帝国の皇帝の嫁になりたいかって聞かれたら、答えはノーだしね」
あたしが思いついた名案は、適性があるバイト皇妃を雇えってことだったりする。
例えば、あたしが皇妃をやるとする。そうなると、お妃教育するための教師陣の給料、宝飾品にドレスと、かなりの経費が必要になってしまう。宝飾品やドレスについては、一生だしね。
だったらその経費を使って、既に教育が終わってる貴族子女をバイト皇妃として雇えばいいと考えた。勿論、厳しい条件にはなるだろうけどね。
「……と言った具合に、国の方で雇ってしまえばいいと思ったのよ」
「ふむ。いい案だ」
「確かに、いい案です。我が帝国は男女関係なく城勤めが出来ますから、こちらの希望に沿う女性にお願いすることが可能です」
「ま、選考したうえで年数固定制で雇えば、下手な権力の偏りとかなくなるんじゃない?」
よーわからんけど……と、心の中で付け加えてから話を終える。
ゼスからすれば、考えもしなかった事だろう。けど、感触は悪くないのかゼスと色白眼鏡の二人で、話を本格化するために誰に話すか、最初の皇妃は誰がいいかなどを話し合っている。
そういう事は他所でやって、と思いながら空腹感を満たすためお茶を飲もうと思って席を立った。
一歩目を歩き出そうと足を出したところで、手を引っ張られてつんのめる。
「いや、手、離して??」
「どこに行く?」
「お腹空いたから、お茶でも飲もうかと……」
言った途端、あたしのお腹からぐぅ~~~と可愛くない大音声が鳴り響く。
そう言えば、昨日野草のスープ食べただけだったー。銅貨一枚しかないし、今日も野草取りに行かないと……って、時間!!
「ちょっとゼス、手離して。お願い、凄い大事な用事があるの!!」
焦ったあたしはゼスを捲し立てた。必死に手を振る。が、ゼスの手が離れない。
「シア?」
訝し気に見られたことに、若干イラっとしながら時計を指さした。
「もう昼過ぎてるし、門が閉まる前に野草を森から採ってこないと、今日の晩ご飯が……具無しのスープになちゃうから、今すぐ手離して!」
あまりにも必死の形相だったのだろう。魔族四兄弟があからさまに一歩退き、ゼスの肩が揺れて手が外れた。
準備を整えるため、寝室へ向かうあたしの背後でゼスの声がする。
「レオ、これで買えるだけ買って来い」
「……か、畏まりました」
ローブを着て廊下に出たところで、一番体躯が大きい赤にとうせんぼされた。「グロスト陛下が、お呼びです」と言って道を譲らない赤にイライラを募らせながら、仕方なくゼスがいるリビングへ戻る。
と、そこへ階段から足早に緑が昇って来たかと思えば、あたしの前に念願の肉がっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます