第8話 ―僕と賭けと決闘と―
08 ―僕と賭けと決闘と―
夜の学校から出て、明るい繁華街を過ぎ、人通りが少なくなった暗がりの道の中、僕たちは黙々と歩き、数十分をかけて到着した場所は廃墟の工場跡地。心霊スポットとして有名なその場所に、わらわらといる人だかりを発見してため息が出る。
たぶんあれ、ファンと呼ばれる悪趣味な連中だろ・・・・
「「「「「おお!来たぞ!」「来た来た!!」「期待のルーキー!!!」」」」」
推理は当たっており、僕を見つけた彼らは、ワイワイと盛り上がっている。
「行くわよ、岩谷くん」
彼らのことなど気にもしない西澤は、道をあけるファンたちの間をドヤ顔で歩いており、その様子に呆れるも、僕は女優の如く歩いている彼女の後ろを着いていく。
薄暗い工場を抜けると、大きな広場へ到着し、バイクのライトに照らされたその会場の奥には大石と似たような連中がたむろしていた。
「おお!待っていたぞ!イワタニ!!」
その内一人、リーゼントに特攻服と、まさに絵に描いたようなヤンキー風の男が大きな声で僕を呼び、相手を知らない僕はこっそり西澤に聞いてみる。
「誰だ?あの人」
「柏原 和也。今日の相手で、大石と敵対しているチームのリーダーよ」
「何?ということは暴走族か・・・」
また暴走族。大勢でまた来られるのかと思うと憂鬱だな・・・と思っていると、柏原さんとやらは一人で僕たちに近寄ってくる。
「遅かったな!あ、そうか。お前ら学校があそこだもんな!ああ、馬鹿にしてるわけじゃねぇんだ!夜遊びなんてしないだろうからな、お前らは!」
そう言ってバシバシと僕の肩を叩きながら親しげに話す柏原。
「あの大石どもがイワタニ一人にやられたって聞いてよぉ、俺も是非お相手したいなと思っていたんだ!だが、フィーズの関係上乗り込むわけにはいかねぇし、困っていたんだよ」
すごく明るい人だ。言っていることは不純だが。
「そこで、そこの女がイワタニの窓口だって言うもんだから、お前と会わしてくれって連絡したら、今日の段取りをしてくれたんだよ!いやぁお前良い女を持ってるな!」
(良い女?この気狂い貧乳のどこが?)
と思っていると、西澤に足を踏まれる。
「っ!痛いじゃないか!」
「失礼な事を考える男は大嫌いよ。すぐに直しなさい」
女の勘なのか、僕の心を看破してくる。まぁちょっと失礼だったかな?
西澤と小さな漫才をしていると、柏原はカラカラと笑いだす。
「いいねぇ!喧嘩の前なのに落ちついてやがるなぁ!!こう言っちゃあ何だが、俺相手にそんな余裕な奴は久しぶりに見たぜ?」
あどけない笑い顔が、邪悪な笑い顔へと変わっていく。
「でだ、俺達はフィーザーだろう?ここは一つ賭けをしないか?」
賭け、ねぇ・・・?
「一応聞こうか。何を賭けるんだ?」
「タイマンで勝負して、俺が勝ったらお前はウチに入る。俺が負けたら族を辞める。どうだ?」
「どうだ?」って、なんだよそれ。全然釣り合ってないじゃないか。と思い呆れていると、黙っていた西澤が前へ出る。おお、さすがにお前も思ったか。
「いいわよ。了承するわ」
・・・もうこいつに期待しない。
「ちょっとま―――
「よおし!!!それじゃ早速始めるか!!!!!」
僕の声は、柏原の大きな声によってかき消え、柏原の仲間とファンの歓声によって舞台は大きく盛り上がる。
結局、こんな目に合うのか僕は。ふと西澤を見ると、彼女は片目を閉じて可愛く微笑む。
良い仕事したでしょ?みたいな顔してるけど、全然違いますから。
「さて、岩谷くん。始めましょう」
そう言って彼女は始まりの合図を高く投げると素早く僕から離れる。
ああ、コイントスなんだね。今回も。
高く上がるコインに、工場内の空気は表面張力ギリギリの水のようになっている。僕たちに興奮しているファンの皆さん。少し遠くで法悦な顔の西澤。リーダーを応援している暴走族の方々。そしてやる気満々な顔の柏原。
今にもその感情がこぼれ落ちそうな中、彼らが見ているコインが落ちてきて、甲高い金属破片の音が鳴った瞬間、大きな声が工場内に響いた。
「行くぜぇ!!イワタニ!!!」
堰を切ったように駆けてくる柏原。西澤にいろいろと文句を言いたいがそれはあとだ。
僕も戦うしかない。やりたくは無いけど。
とりあえず、さっさと終わらせよう。
「おぉおおおらぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
雄叫びをあげて勢いよく迫る柏原の攻撃をかわして、デコピン術。
あっけないと西澤は不満に思うだろうが、これでおしまいだ。
パァン!!!「ぐがぁ!!??!?」
工場に響いたデコピン術の音。完璧に当たってゆっくりと倒れる柏原が見える。
悪いけど、僕は喧嘩が嫌いなんだ。だから、もう終わりだ。
背を向けて西澤の方へ戻ろうとしたとき、強烈な気配を感じた。
(っ!?まずい!!!!)
咄嗟に屈むと、頭のあった位置に弧を描くような蹴りが見えた。
「っとぉおおお!!!!おおらぁあああああ!!!!!!!!!!」
避けた僕に対応する柏原は、次は鋭いパンチをしてくる。
―――あれはやばい!!!
手のひらに拳を合わせて、横へ逸らす。が、あまりの勢いとその鋭さに手がしびれてくる。
それを見た柏原は、口の端を吊り上げている。
「やるねぇ!!俺の拳をいなした奴は初めてだ!!!」
そう言うと、攻撃を中断して楽しげに語る柏原。
「いやぁ、これが大石の食らった技かぁ・・・最高に気持ちのいい一発だなぁあ!!!」
と額に手をあてながら大きく笑ったあと続けて、
「だけどよぉ・・・俺を倒すのには、ちと弱いんじゃねぇか?その技」
余裕げに言い、その一言で場内は大歓声をあげた。
挑発だろう。わかる。挑発もときには必要だもんね。
だけどさ、『弱い』だって?姉ちゃん先生の技が『弱い』だって・・・?
「お、いいね!いい顔になったじゃないか!つまんねぇ顔から漢の顔になったなぁ!!!」
獰猛な顔つきで柏原は大きくあげた足を振り下ろす。
熱くなる頭をすぐに冷まし、迫る攻撃を手で逸らすと、瞬く間に地面へ落ちていき、劣化した床が大きくひび割れた。
「怒ったか?なら俺にぶつけて来いよ!!!やろうぜ!!!面白い喧嘩をよ!!!」
柏原は休む間もなく次々と攻撃してくる。
苛烈な暴力。パンチをかわし、蹴りを避け、掴みをいなす。
そんな嵐の中、心中の僕は柏原の指摘通り怒っていた。
けど、僕が怒っているのはまた飲まれかけた自分にだ。
姉ちゃん先生をバカにされた気がして思わず頭に血が上り冷静さを失いかけた。
沸点が低いのが僕の悪いところだと思いながら、迫る攻撃の中で徐々に心を落ち着かせた。
よし。だったら見せてやる。
殴ることができない僕の為に作ってくれた秘伝。
姉ちゃん先生の『技』を。
「ほう?やっと本気になったか!イワタニ!!」
僕の様子に、さらに攻撃のペースを上げる柏原。
その激流のような攻撃に大きく盛り上がっているファン。
ちらっと西澤を見ると、何かを期待している目をしている。
・・・まぁ、約束は約束だ。
僕のやり方で戦うと言った以上西澤にも見せてやるしかない。
それに、一応あんなんでも、『女の子の憧れは必ず守る』のが男だ。
秘伝書の教え。僕なりの解釈だけど、間違いじゃないよね?姉ちゃん先生。
だから、覚悟を決めろ。
―――行きます、姉ちゃん先生!!!!
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